番外編「咲の師匠伝記!ぱーと2!!!」
~私が見た師匠のすごいところ・ふつうのところ・よくわからないところ 続編~
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其の四「師匠の名前について」
師匠に名前があることを、私はずっと知らなかった。
というか、考えたことがなかった。
師匠は師匠だ。それ以上でも以下でもない。
でも——ある日、師匠が全員に名前を教えてくれた。
零、という名前だった。
私は「師匠の名前だ!!」と叫んだ。
師匠が「うるさい」と言った。
いつも通りだった。
でも——少し、表情が違った気がした。
柊先輩が「零」と呼んだとき、師匠が少し笑った。
白瀬さんが「零」と呼んだとき、師匠が「慣れないな」と言った。
朝霧さんが静かに「零」と呼んだとき、師匠が何も言わなかった。
でも、ちゃんと受け取っていた。
私が「零師匠!!」と呼んだら、師匠が「師匠はいらない」と言った。
「じゃあ零さん!!」
「さんもいらない」
「じゃあ零!!」
「……うるさい」
却下された。
でも却下されても、私には師匠の名前がわかった。
零。
れい。
いい名前だと思う。
師匠らしい名前だと思う。
理由はうまく言えない。
でも——ぴったりだと思う。
これが師匠の名前に関する全記録である。
ちなみに今も「師匠」と呼んでいる。
それが一番しっくりくるから。
師匠は何も言わなかった。
たぶん、認めてくれたと思っている。
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其の五「師匠と柊先輩について」
師匠と柊先輩が結婚した。
私はこれを聞いたとき「やっぱり!!!!!!」と叫んだ。
とにかくめっちゃ驚いた、というより——やっぱりそうなったか、という気持ちだった。
だって。
師匠が柊先輩と屋上にいるのを何度も見た。
師匠がスマホを見るとき、柊先輩からのメッセージだと少し表情が変わった。
バレンタインのとき、柊先輩からのチョコを受け取って——師匠が笑った。
あの笑顔は特別だった。
私に「まだ途中だ」と言うときの顔とも、彙武を使うときの顔とも、違った。
もっと、やわらかい顔だった。
だから「やっぱり!!!!!!」だった。
白瀬さんに報告したら「咲ちゃん気づいてたの!?」と言われた。
「気づいてましたよ!!ずっと!!」
「俺も気づいてた」
「じゃあ白瀬さんもめっちゃ驚いたでしょう!!」
「そりゃそうでしょ」
白瀬さんと意気投合した。
朝霧さんは「そうか」と言った。
朝霧さんの「そうか」には色々な意味が入っている。
今回の「そうか」は「よかった」と「当然だ」と「おめでとう」が全部入っていた、と私は解釈した。
たぶん合ってると思う。
師匠に「柊先輩のどこが好きなんですか!!」と聞いたら「うるさい」と言われた。
予想通りだった。
でも——耳が少し赤かった。
これが師匠と柊先輩に関する全記録である。
師匠はこの記録を絶対に読まないでほしい。
でもいつか読んでほしい。
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其の六「師匠が死んでいた一日について」
師匠が死んでいた日のことを、私は一生忘れないと思う。
正確に言うと——師匠は一日死んでいて、翌日「やっとできた」と言って戻ってきた。
その一日が、私にとって一番長い一日だった。
師匠が倒れたとき、私は何もできなかった。
菌根菌を展開していた。足止めしていた。でも師匠が倒れるのを止められなかった。
拠点に帰ってきたとき、師匠は動かなかった。
私は台所に座っていた。
菌根菌を展開しようとして——やめた。
修行しようとして——やめた。
何もできなかった。
瑞樹さんが隣に来て「泣いていいよ」と言ってくれた。
私は「泣いてないです」と言った。
「師匠は絶対戻ってきます」と言った。
それから——泣いた。
声を上げて泣いた。
師匠、師匠、師匠、と何度も言いながら泣いた。
翌日。
柊先輩が「棘がざわついた」と言った。
全員で師匠の部屋に走った。
師匠が「やっとできた」と言った。
私は「師匠!!師匠!!師匠!!」と三回叫んだ。
それから泣いた。
昨日より大きく泣いた。
師匠が「泣くな」と言った。
「泣きます!!」と答えた。
「なぜだ」
「師匠が死んでたんだからあたりまえじゃないですか!!死んでたんですよ!!知ってますか!!」
「知ってる」
「知ってるなら!!」
「咲」
「なんですか!!」
「……心配かけた」
師匠が謝った。
師匠が直接謝るのは、あのとき初めてだった気がする。
私はまた泣いた。
今度は嬉しくて泣いた。
悲しくて、安心して、嬉しくて、全部一緒に泣いた。
師匠は困ったような顔をしていたが、何も言わなかった。
それが答えだったと思う。
師匠は「心配させた」と認めた。
それだけで——十分だった。
これが師匠が死んでいた一日に関する全記録である。
二度と同じことがないように、私はもっと強くなる。
師匠が大変なときに隣にいられるくらいには、ちゃんと強くなる。
あの日からずっと、そう思っている。
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おまけ「師匠の弟子として、今思うこと」
私は今、道場を持っている。
弟子が二十人いる。
全員が私のことを「先生」と呼ぶ。
正直、まだ慣れない。
でも——弟子が失敗したとき、私は言う。
「まだ途中だ」
師匠から聞いた言葉だ。
私が一番もらった言葉だ。
弟子が「先生、この先どうなりますか」と聞いてくる。
私は少し考えて、言う。
「わからない。でも途中だから続ける」
師匠ならもっと短く言っただろうな、と思う。
「途中だ」
それだけで全部言えるのが師匠だ。
私はまだそこまで短くできない。
でも——いつかできる気がする。
まだ途中だから。
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以上、咲の師匠伝記 其の二でした。
師匠、零、これからもよろしくお願いします!!
あと双子のお子さんの名前、絶対教えてください!!!!!!




