表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/111

第101話「拮抗」

 学園長の霧が、さらに広がった。


 奥津の遮断が——限界に近づいていた。


「……もう少し」奥津が歯を食いしばった。「もう少し、持ちます」


「無理するな」


「無理じゃないです」奥津が言った。「17の近くにいると、能力が安定する。今もそうです」


 俺は奥津を見た。


 震えていた。


 でも——遮断を維持していた。


---


 学園長が動いた。


 霧が全方向に広がった。


 白瀬が吹き飛んだ。


 朝霧が体を張って止めた。


 咲が菌根菌を展開した。


 学園長の足元を固めようとした。


 学園長が霧散した。


 咲の菌根菌が空を掴んだ。


「……さっきより動きが速いです!!」咲が叫んだ。


「本気を出し始めた」桐島が後方から言った。「さっきまでは——まだ余裕があった」


 学園長が別の場所に現れた。


 穏やかな笑顔が——少し変わっていた。


 まだ笑っている。


 でも——目が、違う。


「楽しくなってきました」学園長が静かに言った。「こんなに長く戦ったのは、初めてです」


「そうか」白瀬が立ち上がりながら言った。「それは光栄ですね」


「ええ」学園長が頷いた。「でも——そろそろ終わりにしましょう」


---


 学園長が能力を全力展開した。


 霧が——質を変えた。


 今まで存在を曖昧にするだけだった霧が、周囲に干渉し始めた。


 蚜が感知した。


 周囲の存在が——揺らいでいた。


 全員の存在が、学園長の霧に侵食されていた。


「……これは」朝霧が静かに言った。「存在が、薄くなっていく」


「そうです」学園長が穏やかに言った。「私の能力の本質は——存在を曖昧にすることです。自分だけでなく、周囲の存在も曖昧にできる」


 白瀬の輪郭が——わずかに揺れた。


「白瀬」


「大丈夫」白瀬が笑った。「まだいる」


 でも——笑顔が、少し薄かった。


 咲が「師匠!!」と叫んだ。咲の声が、少し遠くなっていた。


 柊が根を全力展開した。


 地面に繋がることで——存在を固定しようとしていた。


「……根で存在を固定している」学園長が少し目を細めた。「賢い子ですね」


「柊!!全員に根を繋げ!!」俺は叫んだ。


 柊が頷いた。


 根が地面を走った。


 白瀬の足元に。朝霧の足元に。咲の足元に。奥津の足元に。桐島の足元に。瑞樹の足元に。


 全員に根が繋がった。


 存在の揺らぎが——止まった。


「……」学園長が少し止まった。「面白い対処ですね」


---


 俺はFormula系と式系の同時展開を維持したまま、学園長に向かった。


 学園長が霧散した。


 (かがみ)で感知した。


 奥津の遮断が学園長の霧を薄くしていた。


 学園長の実体が——少し固まった。


 柊の実が展開された。


 学園長の足元に育ち始めた。


 固定された。


 俺は踏み込んだ。


 Formula系と式系の同時展開を——深化させた。


 学園長の存在に、定義が生まれた。


 輪郭が見えた。


 式系・(かがみ)が——学園長を捉えた。


 初めて、完全に捉えた。


「……っ」学園長が動きを止めた。


 俺は式系・(くびき)を展開した。


 糸が走った。


 学園長に絡みついた。


 今度は——すり抜けなかった。


「……捕まえましたか」学園長が静かに言った。「Formula系と式系の同時展開で、私の存在を定義した。だから式系が通じる」


「ああ」


「でも——」学園長が糸を引っ張った。「まだ足りない」


 糸が——切れた。


 学園長が霧散した。


 また、どこかへ消えた。


---


 全員が疲弊していた。


 白瀬が膝に手をついていた。


 朝霧が腕を押さえていた。


 咲が息を切らしていた。


 柊が根の維持に集中していた。


 奥津が遮断の限界に近づいていた。


 桐島が後方で状況を見ていた。


 瑞樹が——俺の隣にいた。


「限界が近い」瑞樹が静かに言った。「全員」


「わかってる」


「17も」


「……わかってる」


 瑞樹が俺を見た。


「灰島と——話せたか」


「少しだけ」


「和解できたか」


 俺は少し考えた。


「……できたと思う」


 瑞樹が頷いた。


「そうか」瑞樹が静かに言った。「よかった」


---


 学園長が再び現れた。


 今度は——全員の中心に現れた。


 霧が、全方向に爆発した。


 全員が吹き飛んだ。


 柊の根が——一瞬切れた。


 全員の存在が揺らいだ。


 俺も吹き飛んだ。


 地面に叩きつけられた。


 起き上がった。


 全員を見た。


 全員が——立ち上がっていた。


 柊が根を再展開した。


 全員の存在が固定された。


「……しぶといですね」学園長が穏やかに言った。「本当に」


「まだ終わっていない」白瀬が言った。


「終わりにしましょう」学園長が静かに言った。「これ以上続けても——」


「終わらせるのは、こっちだ」


 俺は言った。


 学園長が俺を見た。


「17君」学園長が穏やかに言った。「あなたは今——本当に限界です。過去回帰能力もない。灰島から受け取っていない。今のあなたでは、私を倒せない」


「わかってる」


「なら——」


「わかってる上で、立っている」


 学園長がしばらく俺を見た。


「……灰島も、同じことを言っていました。あなたに対して」俺は言った。


「そうですか」学園長が少し目を細めた。「灰島が」


「お前の知らない灰島だ」


 学園長が——少し、黙った。


---


 白瀬が俺の隣に来た。


 小声で言った。


「灰島のところに行け」


「全員が——」


「俺たちに任せろ」白瀬が真っ直ぐ俺を見た。「お前がやるべきことをやれ。俺たちがやるべきことは——時間を稼ぐことだ」


 俺は白瀬を見た。


 朝霧が頷いた。


 咲が「行ってください師匠!!絶対戻ってきてください!!」と言った。


 柊が俺を見た。「大丈夫。ここは任せて」


 奥津が遮断を強化した。


 桐島が「行け」と短く言った。


 瑞樹が——俺を見た。


「終わらせて」


 俺は全員を見た。


 全員が前を向いていた。


 俺のために、前を向いていた。


「……ああ」


 俺は——灰島に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ