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第99話「仲間」

 (かがみ)が感知していた。


 複数の気配。


 南から。北から。東から。


 全方向から、同時に。


 学園長が俺から視線を外した。


 周囲を見た。


 穏やかな顔が、少し変わった。


---


 最初に来たのは白瀬だった。


 南から走ってきた。


 息が上がっていた。でも目が——本気だった。


「見つけた!!」白瀬が叫んだ。「17、生きてるか!!」


「……生きてる」


「よかった!!」


 次に朝霧が来た。


 北から、静かに走ってきた。


 俺を見た。膝をついている俺を見て、目が一瞬だけ細くなった。


 それだけだった。


 感情を出さなかった。でも——目が全部言っていた。


 東から桐島が来た。


 走り慣れていない走り方だった。でも速かった。


「状況は」桐島が言った。


「学園長が来た。灰島は——」


「見えてる」桐島が静かに言った。「灰島は地面に倒れている。生きているか?」


「わからない」


---


 学園長が全員を見回した。


 穏やかな笑顔が戻っていた。


「これは——賑やかになりましたね」学園長が静かに言った。「でも、困ります。今は17君との大事な時間なので」


「大事な時間」白瀬が前に出た。「17をどうするつもりですか」


「連れていきます」学園長が穏やかに答えた。「世界のために、必要なことですから」


「世界のために」白瀬が笑った。笑っているが、目が笑っていない。「それ、本人の同意は取りましたか」


「必要ないでしょう」


「必要あります」


 白瀬が能力を展開した。


朝霧が同時に展開した。


 桐島が後方に回った。


 学園長が——少し、目を細めた。


「……管理局の能力者が三人。それに」


---


 別の気配が来た。


 俺は蚜で感知した。


 ——咲だ。


 咲が走ってきた。


 制服姿だ。学園から来たらしい。息が上がっている。


「師匠!!」


 咲が俺の前に立った。


 地面に手をついた。


 菌根菌が爆発的に広がった。


 演習場で見たことのない速度だった。


 学園長の足元に絡みつこうとした。


 学園長が霧散した。


 菌根菌が空を掴んだ。


 学園長が別の場所に現れた。


「……菌根菌型か」学園長が静かに言った。「面白い。でも——私には届かない」


「わかってます!!」咲が叫んだ。「でも師匠を踏み越えていくなら、私を通ってからにしてください!!」


 俺は咲を見た。


 震えていた。


 怖いのが、背中からわかった。


 でも——立っていた。


---


 もう一つ、気配が来た。


 西から。


 柊だった。


 走ってきた。息が上がっている。棘を全力展開していた。


「17!!」


 柊が俺の横に来た。


 俺を見た。膝をついている俺を見て、目が赤くなった。


「……ひどい怪我」


「来るなと言った」


「言ってない」柊が俺を見た。「こういうときのために来た」


 柊が学園長を見た。


 棘を——学園長に向けた。


 学園長の綻びを探した。


 柊が少し、目を細めた。


「……綻びが、見えない」


「見えないでしょう」学園長が静かに言った。「私の存在は定義が曖昧です。綻びは、定義された存在にしかない」


「そうですか」柊が静かに言った。「でも——根は使える」


 根を展開した。


 地面に繋がる全てを感知した。


 学園長が——少し止まった。


「……根か。面白い能力ですね」


「実も使います」柊が続けた。「綻びが見えなくても——育てる場所を作ればいい」


 実を展開した。


 学園長の足元の地面に、何かを育て始めた。


 菌根菌じゃない。


 柊の実が——根と繋がって、地面から何かを引き出していた。


 学園長が少し眉を寄せた。


「……これは」


「まだわかりません、私も」柊が俺を見た。「でも——やれることは全部やります」


---


 最後に。


 俺は蚜で感知した。


 拠点の方向から、二つの気配。


 瑞樹と——奥津だった。


 二人が来た。


 瑞樹が俺を見た。


 目が——揺れていた。


 でも、足が止まらなかった。


 俺の前に来た。


 膝をついた。


 俺の顔を見た。


「……馬鹿」瑞樹が静かに言った。


「ああ」


「一人でやろうとして」


「ああ」


「馬鹿」もう一度言った。


 俺は答えなかった。


 瑞樹が俺の肩を支えた。


 奥津が反対側に来た。


「奥津の能力は——知覚系遮断だ。学園長の干渉を、少し遮断できるかもしれない」俺は言った。


「わかってます」奥津が静かに言った。「やります」


 奥津が能力を展開した。


 学園長の能力の霧が——わずかに薄くなった。


 完全じゃない。


 でも——確かに、薄くなった。


---


 全員が揃った。


 白瀬、朝霧、桐島、咲、柊、瑞樹、奥津。


 全員が学園長の前に立っていた。


 学園長が全員を見回した。


 穏やかな笑顔が——少し崩れた。


「……これは、想定外でした」学園長が静かに言った。「17君一人を相手にするつもりでした。これだけの人間が——」


「17の仲間です」白瀬が言った。「当然来ます」


「仲間」学園長が少し首を傾けた。「灰島には、仲間がいなかった。三十年、一人で動いていた。だから——こういう場面を、想定していなかった」


「それが灰島との違いです」白瀬が学園長を見た。「17には、仲間がいる」


 学園長がしばらく黙っていた。


 それから——笑った。


「なるほど」学園長が静かに言った。「でも——私には関係のないことです。全員、まとめて相手にするだけです」


 学園長の能力が、展開された。


 霧が、広がった。


 全員を包もうとした。


 奥津が遮断を強化した。


 霧が——止まった。


 完全じゃない。でも、広がらなくなった。


「……面白い」学園長が言った。


---


 白瀬が俺を見た。


「17、今すぐ動けるか」


「……少し待て」


「わかった」白瀬が学園長に向き直った。「その間、俺たちが時間を稼ぐ」


「無茶だ」


「無茶じゃない」白瀬が笑った。「俺たちがいる。それだけで十分だ」


 朝霧が静かに言った。「心配するより隣にいればいい」


「……ああ」


 咲が振り返らずに言った。「師匠、絶対復活してください!!絶対です!!!」


 柊が俺を見た。「大丈夫。ここにいるから」


 瑞樹が俺の肩を支えたまま、静かに言った。「終わらせて」


 俺は全員を見た。


 白瀬。朝霧。桐島。咲。柊。瑞樹。奥津。


 全員が、学園長の前に立っていた。


 俺のために。


---


 俺は地面に手をついた。


 体に力を入れた。


 震えていた。


 でも——動いた。


 少しずつ、立ち上がった。


 瑞樹が支えた。


 奥津が反対側を支えた。


 俺は——立った。


 まだふらついていた。


 でも、立っていた。


 学園長が俺を見た。


「……立ちましたか」


「ああ」


「無駄ですよ。あなたは今——」


「うるさい」


 学園長が少し止まった。


 俺は全員の背中を見た。


 全員が前を向いていた。


 俺のために、前を向いていた。


 胃の底の何かが——動いた。


 棚に上げていたものが、全部降りてきた。


 整理できていなかったものが、一つになった。


 俺は息を吐いた。


 長い息だった。


 体の震えが、少し止まった。


---


 灰島が——動いた。


 全員が気づいた。


 地面に倒れていた灰島が、わずかに顔を上げた。


 俺を見た。


 目が——まだ動いていた。


 口が動いた。


 声が出なかった。


 でも——俺には、見えた。


 口の形が——二文字だった。


 俺の、名前だった。


 聞こえなかった。


 でも——わかった気がした。


 わかった、気がした。


 俺は灰島を見た。


 灰島の目が——少し、緩んだ。


 それから——閉じた。


 動かなくなった。


 俺はしばらく灰島を見ていた。


---


 白瀬が学園長に向かって動いた。


 朝霧が同時に動いた。


 咲が菌根菌を展開した。


 柊が根と実を同時に展開した。


 奥津が遮断を維持した。


 桐島が後方から状況を見ていた。


 学園長が全員を相手に動き始めた。


 霧が広がった。


 奥津が遮断した。


 白瀬の攻撃が学園長に届きそうになった。


 学園長が霧散した。


 別の場所に現れた。


 朝霧の攻撃が来た。


 また霧散した。


 柊の実が——学園長の足元に何かを育て始めた。


 学園長が少し動きを止めた。


「……これは」


 霧散できなかった。


 一瞬だけ、実体が固定された。


 咲の菌根菌が絡みついた。


 学園長が——ぐらついた。


「……面白い」学園長が言った。「でも」


 学園長が能力を全力展開した。


 霧が爆発的に広がった。


 全員が吹き飛んだ。


 奥津の遮断が——限界に達した。


---


 俺は全員を見た。


 全員が立ち上がっていた。


 白瀬が腕を押さえながら立った。


「痛いな」白瀬が笑った。「でもまだ動ける」


 朝霧が立った。無言だった。


 咲が立った。「まだです!!まだやれます!!」


 柊が立った。「大丈夫」


 桐島が立った。「状況を維持している」


 奥津が立った。「遮断、もう少し持ちます」


 瑞樹が——俺の隣に立っていた。


「全員、立った」瑞樹が静かに言った。


「ああ」俺は言った。「全員、来た」


---


 俺は体に力を入れた。


 震えが止まっていた。


 体の痛みはある。


 でも——動く。


 俺は学園長を見た。


 学園長が俺を見ていた。


「準備ができましたか」学園長が穏やかに言った。


「ああ」


「では——」


「今度は」俺は言った。「こっちから行く」

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