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Life 146 ストッパーとしての女子回

あの娘にも、夫にも、明確な役割が定まってから、私だけが取り残された気分だった。

誰が察したか知らないけど、私の後輩たちは、必ずこういう時に、私の様子を伺うように女子回をセットする。

いい子たちよね。この子達がいなかったら、一人の私は完全に壊れていると思う。踏ん張りどころと思いながら、付いていかない気持ちへの歯痒さは、この子たちが受け止めてくれている。



「じゃあ、センパイの旦那さん、定期的に広島に行くことになったんですか?」

「どうなんだろう?私も詳しく聞かないし、あの人も話さないからよく分からないのよね。」

「じゃあ、その時はお父さんの代わりに私が泊まりに行きます。娘さんも大変でしょうし。」

「何が大変なのよ?あの人の代わりに家事が出来るの?」

「先輩ほど出来ないことはないですよ。最低限自分のすることぐらいは家でやってますし。」

「...いや、ああ見えてお父様って、お風呂掃除と洗濯物を畳む以外、ほぼすべてやってますよ?」

「あなたがそれを言うわけ?娘よりなにも出来ないじゃない。年の1/6ぐらい来てるんだから、そろそろ家事をやらせるわよ。」

「意外におねえちゃんが出来そうなものなんですけどね。う~ん、不思議です。」

「そんなんだから、お母様に甘えっきりで、朝起きるのですらままならないんじゃないの。まったく。」

「お姉さんとお母さんがつながってるから、私は先輩の家で素でいられるんです。すごく安心してますよ。」

「いやいや、そういう問題じゃないから。問題は、センパイの家に泊まりに行ったとして、君たち二人が旦那さんにもてなされてばっかり、しかもセンパイも娘さんも家事がまるっきりダメだから、大問題って話。」

「あら、アンタも所帯じみた発言をするようになったのね。でも、アンタは生活感があるもんね。私よりずっと出来ることは多そう。」

「どうなんでしょうね?ほら、私の旦那って、ああ見えて、二人でなら家事をするんですけど、一人だとできないタイプなんですよ。だから、一緒に誘うんです。」

「で、家事の後に本当はエッチしたいけど、その誘いには乗らないわけよね。なんか、本当に不思議な旦那さんよね。若いんだから、もっとしゃぶりつくっていうか、溺れてしまえるのにね。」

「もしかして、結婚したのも体裁なんですかね?」

「そんなんで結婚式なんかしないわよ。なんか、旦那さんなりの考えもあるんじゃない。例えば、一戸建てでも買ったら子供を作るとか?」

「......私、34なんですよ?そろそろ体力的に厳しそうなんですけど。」

「まだ大丈夫よ。あ、でも大真面目な話、40過ぎたら子供は育てられないと思うわよ。そこまでの生活リズムを崩すと、一気に体調が崩れる。それに、私とあの人には、もう娘もいるしね。」

「娘って言ってますけど、先輩の妹さんなんですよね?先輩って、やっぱり女性に好かれる要素があるんですかね?」

「まあ、あなた達の面倒ぐらいならまだいいけど、最近は面倒を見る側になりつつあるじゃない。人事部長というより、本気で母親やってる気分よ。」

「なんだかんだで人事部も人が増えましたからね。嘱託の方もそうですけど、部長補佐が実質的な部長で、センパイや嘱託の方は後見人というか。」

「実務はまだまだよ。補佐が部長をやっていなければ、私がメンタルを壊すと思う。でも、ここんところ、色々考えることが多くて、よく分からないのよね。ほら、男子の世話まで見てるでしょ?」

「そう言えばそうですね。私と同期の男性社員も、気づけば先輩とよく話してますしね。」

「そういうあなたも嘱託の方とよく話してるじゃない。何を話してるの?」

「他愛のない話ばっかりですよ。先輩にもよく話すじゃないですか。」

「ま、あの方々は、あなたのことを娘みたいに見てるもんね。いや、孫かしら?」

「そうなんですか。私はそんなに話す機会もないですけど。お姉さん、私って嫌われてます?」

「う~ん、この際だから言っちゃうけど、あなたは嘱託社員の仕事をほぼほぼやってしまっているのよね。世話の係る子のほうが可愛いというかもしれないけど、あなたは出来た子だから、向こうも少し遠慮してるって。」

「とは言え、それって補佐が仕事を振るバランスみたいなのが、少しずつ変わっていったってことですよね?どうしてこの子と話をしないんですか?」

「そうねぇ...、あとは、私たちに向けてる表情と、社内での表情が全然違うってことぐらい?ウチに来るようになって1年半、入社してから2年半見てるけど、やっぱり会社での表情が硬いのよ。メリハリともいうべきか。」

「私みたいにおどおどしてませんでしたもんね。最近、社内の打ち合わせも増えてきましたけど、私は今でもおどおどしちゃう。」

「その違いみたいなもんでしょ?親心をくすぐるのよ。やっぱり、堂々としてる子は、そのまま頑張ってほしいけど、反面、人事部はなかなか独り立ち出来ない子も多いじゃない。叱咤するわけじゃないけど、一応あなたのほうが1年先輩なんだから、本当は立場が逆転しているべきなのよ。でも、どうしても成長速度とか、適材適所とか、そういうものを見極めた結果が今のポジションだから、二人はそのまま成長してほしいのよね。」

「あれ、センパイ、私は?」

「アンタはもう育てる側に入ってる。IT推進室長さんなんでしょ?人事部預かりにしてまで守ってるんだから、もっとITに詳しいような男性社員を統率する立場にいないとダメよ。」

「経験値だけしか武器がないですよ?」

「それで、夫がいないと困るんだ。知ってるわよ。AIより先に夫に聞くらしいじゃないの?」

「だって、答えてくれるんですもん。LINEで聞けばいいだけですし。」

「その夫ですら、AIで調べてくれるらしいわよ。つまり、アンタがAIに聞いても、夫に聞いても、それほどの違いはない。違いは、アンタの理解度に合わせた説明が出来るか出来ないかよ。」

「その差がめちゃくちゃ大きいですよ。だから、ノーコードアプリで、次々と各種管理ソフトを作れるぐらいに、ソフトを作る知識もついてきたんですよ。」

あの人の恐ろしいところか...。もともとコイツは理解力が高い子だったけど、たかだか2年で一応形だけのIT推進室を本当に形にしようとしているあたり、あの人が昔作って渡したと言われている、外部ベンダー向けの資料で理解度を一気に押し上げ、そして今はソフトウェア開発の概念なんかをノーコードアプリ用に説明してるってことか。つくづく、あの人がなんとなく抱えている狂気が、人を動かせるだけのものであると思う。そして、この子を開花させたと。

「だから、なんか旦那さんが出張に行ってしまわれると、私は大丈夫かなって思うんです。」

「夫はアンタのことを買ってるわよ。きちんとした会社のシステム推進室にいるってことが、どれだけ大きいかってのを褒めてる。彼が出来なかったことを、アンタがやってみせてる。それだけであの人は満足みたいだから。」



「...お父様って、意外にそういうお人好しすぎる部分がありますよね。私たちに優しいのに、どこか無理をしちゃう感覚。」

「それをあなたが言う?私も自覚してるけどさ、あの人は他人のためなら無茶をするのよ。あなたが私ぐらい、朝に強かったら、それだけ彼には負担がかからない。適度な負担とは言うけど、私もすでに出張で出かけてる時に、こうやって集まってもらうじゃない?そういう寂しさや依存している面があることを知ってる。娘に言われたのよ、私も壊れ掛けてるって。あの人も気づいてたみたいだし。」

「それってセンパイだけしか知らなかっただけですよ。センパイが危うい感じなのは、今年に入ってからずっとでしたから。旦那さんがダメになった後あたりから、だんだんと無理をし始めたでしょ?」

「最初は私がおねえちゃんに聞かれてたんですけど、お二人にも協力してもらってます。お姉さんを見守るグループLINE。」

ああ、あの娘はそういう気の回しがよく出来る娘だったっけ。そっか、何にも知らないで、あの人と娘の術中にハマっていたわけだ。...素直に感謝すべきかな。

「それが、最近はセンパイの旦那さんにも情報が行くようになった。でも、さすがに私だって節度をわきまえてますから、彼女が泊まりに行って、旦那さんと発散してるって光景は、やっぱり社内の風紀を乱すというか。」

「あ、それで先輩の肌の艶がすごくいいことありますよね。そっか、そういうことだったんだ。」

「最近はお姉さん自体、私に恥じらいがないですもんね。あ、私、お布団のお金、ちゃんと払いますよ。」

「使ってないものにお金は取れないし、まして私たちの情事を壁越しに聞かれているまま、あの娘と二人で過ごしてもらってる私も悪いと思ってる。娘が案外その辺気にしない性格だから、あなたにも移って来てるのよねぇ。」

「まぁ、先輩の情事は、私たちが口を挟むところではありませんから。でも、肌艶がよくて、機嫌がいい先輩がバレてるってことは、知ってて欲しいです。」

「......反省する。一番年上で、部長なんて大役を任せられてるのに、エッチを覚えたてのように夫としている事実をあなた達にバラしてる時点で恥も外聞もないけど、極力バラさないようにしないとダメなのよね。」

「センパイは年々可愛くなってるし、ちゃんと部長職をしているから何をやっても許される感じがありますけどね。その代わり、口も悪いですけど。」

「フォローになってないのよ。」


「部長補佐が仕事を振って、ガンガン回してる現状を考えると、嘱託の方にも仕事を割り当てる方法があると思うんですけどね。」

「そうねぇ、あの方々にはまだ数年残っていただく形になるんだけど、そのあたりをどうするかを考えていないのよね。補佐は今すぐにでも切りたいけど、私が後進の指導という名目でなんとか止めてもらってるのよ。やっぱり、10年の採用者不在が響いてる。経験者を雇用するにも、部長補佐という絶対的な存在がいる以上は、転職者にどうやってそのプライドをへし折らずに仕事を続けてもらえるかってことに掛かってる部分はあるのよね。だから、人事部の中途採用の求人は出していない。内部でなんとかするしかないってこと。アンタにも期待してるって理由はそこにあるのよね。」

「センパイが43歳でしたっけ?10年間、この会社って採用しなかった理由はなんなんですか?」

「それは部長補佐や社長しか知らない。あ、社長だけか。部長補佐は、アンタが新卒で入った時の準備のために、この会社に入社してる。社長が他社から一本釣りしてきたのよ。」

「へぇ~、それは知りませんでした。で、お眼鏡にかなったってところですか?」

「その頃の採用基準は知らないわよ。ただ、ここ数年は青田買いでありながら、実際は採用するにあたり、適材適所に合わせることが出来るかが基準にある。あなた達も知ってる通り、実は狭き門だったりするのかもね。」


「そういえば、......君って、採用現場で結構鋭いことを聞きますよね。あれが適材適所なんでしょうか?」

「私も彼にそういう目線があるんだって教えてもらってるわね。彼の場合、分からないことに対して、履歴書なり職務経歴書なりに書いてある内容が不十分な場面で、話を聞くことが多い。本人は「分からないんで」と気楽に答えているけど、実際に的を得た質問だと思う。新卒2年目にして採用現場に入れられてる理由は、間違いなくそこにあると思う。これも補佐の思惑が絡んでる。とんだ食わせ物ってところよね。」

「あの、先輩。私たちも打ち合わせや採用面談で、そういうことを聞くのはありだと思いますか?」

「ん~、場面にもよるのかもね。例えばここだけの話よ。あなたの過去を知ってる間柄だから言えるけど、例えば......君のような面接官がいるとして、あなたの履歴書と別途添付されていた資料を読んで、彼がどういう反応をすると思う?」

「多分、聞かれたくないことまで聞かれてしまうと思います。悪意はないんでしょうけど、私が性被害にあったって経験を知りたいと思うでしょうね。」

「そうかもね。でも、それを聞いちゃったら本来はいけないと思う人間もいれば、詳しく知って、会社として入社条件に合うなら採用したいと思う人間もいますよね。センパイ。」

「私は、あなたの採用面談にいたわけじゃないし、あなたが社長や補佐から何を聞かれたのかを想像したくない。けど、ここで補佐に教えてもらいながら、穏やかに仕事を出来ているということは、補佐が聞いたことに対して、あなたが正直に答えて、結果として採用したという話につながる。その後の1年はおどおどしっぱなしだったと思うけど、会社への交渉材料として、あなたの人事権を行使してまで連れてきた甲斐があった。それは事実よ。」

「あの、お姉さん、そうなると私もそんな感じなんでしょうか?」

「あなたは純粋に社内政治の道具にされてしまった感じがある。謝罪する。でも、私にとって喉から手が出るほど欲しかった人材だった。お飾りと言えど、今の人事部を統括するのが私の仕事、それをあなた達二人が支えてくれることをある程度念頭において、2年連続で直談判した。骨が折れたけど、交渉としてうまく行った。これ以上の成果を出せると思ったし、今はちゃんと人事部の仕事が出来ている。私は適材適所というより、自分を知っている人間を少しでも人事部に増やして、目に見える場所におきたかっただけなのよ。だけど、二人がそこにうまくハマってくれた。想像以上で良かったわ。」

「センパイって欲張りですよね。それでもって、IT推進室を人事部管轄に持ってきちゃうですから。」

「さすがに役員への説教はきつかったわよ。まあ、その辺は骨が折れたけど、総務部と経理部も一枚岩じゃないってことよね。経理部はシステム化を推進したかったらしいのよ。で、IT推進室が出来たのが総務部だったわけよね。アナログな備品係を廃止させたのもそういう理由だったし、アンタ達二人を適当に配置しちゃって、かえって都合が良かったのよ。一人は総務部の業務を7割ほど掌握してしまい、もう一人はほぼ外部のようなシステム推進室という未知の領域へ飛ばした。引っ張る材料が出来たってわけ。」

「いや、システム推進室が出来たことが、なんで人事部へと引っ張れる材料になったんですか?」

「もともと、グループウェアの管理をやっていたのが人事部だったからよ。私も総務部の閑職だったから知らなかったんだけど、人事部や営業部が主導しながら導入して、経費精算を行う過程で経理部が関わることになったらしいのよ。その時に今のサイボウズになった理由が、会計管理までできそうだったからって話。でも、様々な決め事は総務が行うからって話で、総務部がシステム推進室をかっさらったって話みたいよ。社長曰く、「総務部側は単に嫌がらせがしたかっただけ」って話。ほら、それで去年の騒ぎよね。あそこで、総務部が知らないうちに今までお世話になっていた外部ベンダーとは別のところを入れちゃったけど、上層部はある意味成功しようが失敗しようがどっちでも良かったらしいのよね。だから、アンタにああいう指示をしたわけ。」

「イヤですね、社内政治の道具にされっぱなしじゃないですか。」

「あら、私は結婚資金として、会社からのご祝儀だって思っていたんだけどなぁ。一応、今でも待遇は係長でしょ?実は人事部での役職ではNo.3よ。」

「えっ、そうなんですか?部長補佐はそんなこと言ってなかったですよ。」

「彼なりの優しさよ。一応、人事査定を通したんだから、まあ、甘んじてその立場にいなさいよ。私もどうせあと1年で部長待遇じゃなくなるしね。」

「えっ、先輩、部長じゃなくなるんですか?」

「たぶんね。部長補佐とポジションチェンジかしら。で、私は人事部というか、法務部というか、まあ、どっちかのメンター的なポジションになると聞いている。最近の話よ。」

「センパイ、本当に若手のオカンみたいになるんですね。今のセンパイにピッタリだと思いますよ。」

「まぁ、私も悩み事を聞いたり、答えて上げたり出来る年齢になったのかな。あの娘と暮らしてて思うわ、私はあの娘に色々教えてもらいながら、あの娘にも私の経験を伝えてる。」

「おねえちゃんがお父様に近い思考なのに、言ってることがお姉さんそのものの時がある理由、なんとなく分かりますね。変な感覚かもしれませんけど、私が彼女をおねえちゃんと呼んでしまうのは、どこか彼女に先輩のような母性を感じてしまうからなのかも知れません。」

「センパイ、母性あるんだ?」

「私もよく分からないわよ。ただ、この子にそう言われているってことは、普通の女性よりも母性があると思わせる説得力があるのよ。お母様の話ってしてもいいんだっけ?」

「大丈夫ですよ。」

「この子は母子家庭で育ってきてるから、母親依存が強いのよ。それに、私と彼女のお母様は、年齢が1歳しか違わない。だから、私はお母様からこの子を託されてる部分もあるのよ。そういう立場で公私ともに面倒を見ていて、私に母性を感じるのなら、あの娘にも感じて当然だと思うのよ。ルーツが全く一緒だから。」

「そっか、先輩の妹で、年齢もあんまり変わらないから、ふと妹さんが先輩に見えてしまうってことなんでしょうかね。」

「見えるのよ。今でこそあの娘のほうが大人っぽくなってるけど、数年前まではあの娘と私はほぼ同じような顔...いや、私のほうが少し疲れた顔をしてたかしら、それぐらい、自分でもそっくりだと思ってたから。」

「それじゃあ、センパイはある意味、今後適材適所に配置されるようになっているわけですよね。いつもセンパイは言ってますけど、会社の傀儡のままでいいんでしたっけ。」

「いいんじゃない。少なくとも、私が会社から追放されるときは、現体制がひっくり返る時。まあ、ほとんど可能性はないんだけど、未だに総務部や経理部からは敵視されている感じよね。そこまでは自分から辞めるとは言わないと思う。夫の実家で暮らすって方法も考えてるんだけど、さすがに2時間かかるとなるとね。年齢を考えると辛いかなって。」

「あの、私は毎日90分以上掛けて通勤してるんですけど。」

「だからあなたはちょくちょくウチに来るんじゃないの。私が子供の頃ならいざ知らず、今は定時退社して、ワークバランスを重要視しないといけないのよ。私の両親の頃はいくらでも働けばお金がもらえた。でも、今は残業代を含んだお給料になってるでしょ。通勤時間はプライベートな時間になってしまっているのよ。これって、実は大きな問題よね。」

「じゃあ、お姉さんが私を公私でご厄介になっているのは、私のためなんですか?」

「半分は私のためかな。夫が壊れた時、あなたの相談にのったことがあったでしょ?私は、あなたを他人だと思えなくなったのよ。あ、勘違いしないで欲しいんだけど、みんな後輩としては可愛いと思ってるし、私が会社にいるうちは世話の係る後輩だと思ってる。それが嬉しい。でもね、あのシチュエーションがそう思ったのか、それともこの子がプライベートな相談をしてくれたのか、どちらかは分からないんだけど、私はこの子を守らなきゃいけないと思ってしまったのよ。少し、変な感覚よね。」

「......今まで、先輩がこの子と親密になっていた理由は、妹さんなのかなって思ってましたけど、実は先輩自体がこの子を好きになったんですね。」

「ストレートな言い方をすればそうかな。私には愛する夫も、同じ血の妹もいる。けど、母性ってものなのかしらね。立派なお母様に育てられて、容姿端麗、仕事も出来るのに、その可愛い相談とか、その後、ウチにちょくちょく来るようになってからの愛らしい表情を見て、少しだけホッと出来る。これが一番大きいかなって思える。どうしても特別視してしまう。ごめんなさい、あなた達に話すことじゃないわよね。」

「ん~、まあ、センパイがそう思うのも無理ないと思いますよ。今でも社内での笑顔はどこかぎこちないし、必要最低限しか話さない。けど、こういう場でそれなりに喋るようになったという点は、少なからずセンパイと融解しているからだと思えますし、私たちと同じく、二人の関係性の良さが仕事を乗り切れる場面がこれから出てくるかもしれない。そして、センパイの後継者ってことで言えば、適任だと思いますしね。」

「あ、確かにそう思えるかもしれない。先輩は、この子を後釜に据えたいって思ってるんですか?」

「私はそんな器じゃないと思いますよ。でも、お姉さんがそれを望むのであれば、私はもっとお姉さんに教えてほしいことがたくさんあります。」

「ま、それはその先の話かな。今は、あの娘と仲良くしながら、仕事以外で楽しめるようなものを見つけて欲しいのかもね。今までのあなたは自己研鑽ばかりしていた。恋愛をして、わざわざ相手と友人関係に戻ってまで、仲良くしているあたりに、私はあなたが成長したなって思えてる。娘とあなたが、私には同じに見える。それぐらい、私はあなたが好きなのよね。」

「いひひひ、愛の告白じゃないですか。センパイも可愛いんだから。」

「これも失態ね。後輩の子に惚れてるって言ってるようなものだもの。」

「なんか、先輩らしいですね。先輩って意外と欲張りですもんね。」

「聞き捨てならない言動なんだけど。でも、もちろん二人のことも、私はこの会社に入社した最初から知ってるから、時々感慨深くなっちゃうのよ。」

「センパイってば、なんか、本当に4年前ぐらいまで、二人で飲み明かしたような感じだったのに、すごく変わりましたよね。あの頃の私たちって、割とずっと色々な愚痴ばっかり言いながら、その夜だけ良ければそれでいい感じがしてた気がしますけど、今はお互いに家に帰らないといけない立場になっちゃいましたもんね。」

「そっか、先輩が可愛く見える理由って、常に恋をしてるからなのかもしれないですね。旦那さんにも、妹さんにも、この子にも恋してる。うらやましいな。」

「あなたには酷な話よね。でも、最近は徐々に同僚達と自然に話をしてるじゃないの。」

「気負わなくて済むようになったし、私が居心地よく生活出来てるからだと思います。先輩には感謝してます。」

「無理はしなくていいから。ダメならダメって言って。あなたにはまだ未来があるから。」

「......。」

「ごめんなさい、一方的な思いを吐き出してしまったけど、私はあの家で、あなたがいることが最近は自然に感じるようになっていたの。普通、可愛い後輩とはいえ、自宅で会社の後輩がくつろぐ姿を見てるのが面白いなんて上司は、やっぱりイヤよね。」

「......前から不思議に思っていたんです。なんで私は先輩の家で、あんなに受け入れられているのかって。でも、理由が分かりました。先輩と、妹さんと、お父様と一緒にいることが、私にとっても心地よいからだったんだって。私の母みたいに思えたのは、間違いじゃなかったんだなって。」

「だから、寝起きが悪いぐらいでも、私は別になんとも思ってないの。でも、夫がやっぱり心配してるのよ。夫もあなたを娘と同じように、自分の娘なんじゃないかと思うぐらいになっているの。だから、好きにしていいのよ。もちろん、今の話を聞いて、離れていくことも別におかしくないと思ってるし。」

「そんなことないです。私は、ただ甘えっきりで良いのかなとずっと思ってました。...皆さんが私を受け入れてくれるなら、私はもう少し、お姉さんに甘えさせてもらいます。」

「なんか、うらやましいな。先輩はずっと私を娘にしたいって言ってたのに。」

「それは本当にそう思っちゃうんだけど...。でも、私は欲張りね。私は、本当に人に恵まれた。これが一番うれしい。長年、会社にいて、初めて分かる感覚なのかもしれない。」

「センパイとはすっと仲良くしてたいです。センパイが会社を辞めるようなことがあっても、私が辞めても、一生つながっていたいです。」

「私もアンタが許す限りは、見放すことは絶対しない。もちろん、あなた達もね。」

「じゃあ、先輩の家、また行ってもいいんですか?」

「別に良いわよ。さすがにあなたには、私の失態は見せられないけどね。」

「見ませんよ。それに、先輩が許可した日にしか行きません。」

「あ、着替えは持ってきてね。さすがにうちも狭くておけなくなってきてるから。」


なんか、しんみりした話になっちゃった。けど、嘘は言ってない。彼女たちと向き合うのが、私の宿命だと思ってる。

何かの縁でこうやって同じ会社に入ったんだもの。自分が育てていく後輩達を見放すようなことは出来ない。あなたなら、多分そうすると思う。


「...あの、今日もお姉さんの家、泊めてもらっていいですか?」

「良いわよ。週末だから、みんなで来る?」

「センパイ、さすがに私は帰りますよ。愛する旦那がいますから。」

「せっかくだから、私は行こうかな。両親に連絡します。でも、お父さんと妹さんは大丈夫なんですか?」

「十分に耐性がついてるから、多分大丈夫よ。まあ、ダメならダメで、別のお店なり、カラオケなりに行くわ。」

「......この辺がセンパイの昭和のノリなんですよねぇ。でも、二人とも、甘えられるうちにセンパイに甘えておいたほうがいいかもね。さすがに世帯を持っちゃうとなかなか同僚の家にも行けなくなるよ。」

「そういうものなのね。私も一人暮らしが長かった割に、アンタと一緒に泊まったりはなかったもんね。」

「そうそう、夜明かしはするけど、ホテルに泊まったぐらいしかないですよね。あのときは大変でしたね。」

「...思い出したくないわよ。あの時のことは。」

「へぇ~、先輩達二人で失敗があったんですか?」

「違う、仕事で終電逃して、会社近くに泊まったのよ。色々あったのよね。」

「今じゃ考えられないですね。でも、面白そうです。」

「いやいや、無理だから。絶対にやらないほうがいいし、多分今のご時世じゃ出来ませんよね、あんなこと。」

「大騒ぎだったものね。ま、大した問題じゃなかったって話だけどね。」

「......なんか、苦労のほうが楽しそうなんですね。そっか、私、もっと楽しめそうなこと、自分でも探さないとダメですね。」

「娘と一緒に探せばいいんじゃない?あの娘と二人は仲良くしてるし、きっとまだ色々出来る年齢よ。冒険しなさいな。」

「そうですね。私、おねえちゃんと先輩と三人で、もっと色々遊びたいです。」

「なんか、先輩って言われるの、少しむずむずするけど、妹さんとも年齢が近いし、私たちで一緒に探せるといいね。」

「さ、立ち話もなんだし、アンタは旦那さんの待つ家に帰りなさい。私は二人を連れて、週末はどうしようかしらね。」



まだ、私はなんとかやっていけると思う。会社で後輩達の成長を見続けながら、夫と共依存する関係で、乗り切れると思ってる。

結婚して、三人で暮らすようになって、こうやって後輩達と話をする生活が出来るのは、私にとってすごく贅沢なことなんだろうと思ってる。それぐらいさせてもらっていいよね。



つづく

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