Append Life 145 自信が欲しいだけ
「でさ、結局はその仕事に入ることにしたの?」
「一応、他の会社からも内定をもらったよ。でも、新卒って感じに出来ないみたいなんだよね。」
「おかしいんだよ。バイトのシフトリーダーだけでも十分なのに、......のしてることって、バイトの人がやること?って思うもんね。」
「面接で話すと、まあ、なんというか、すごく微妙な反応を返されるんだ。私はそんなにすごいことをやってるつもりはないんだけどね。」
「十分すごいと思うよ。もうすぐ24歳でしょ?18歳から6年も同じバイトをしつつ、大学に通ってて、なぜかコンビニのFC本部に出入りしているって、少しおかしいと思うよ。」
「ほら、パートさんと一緒だから。こういう学部だし、多言語なのは当たり前だと思ってたんだけど。あ、でも、インドネシア語は比較的わかりやすいよ。日本文化から意味合いもわかるし、そこからなんとなく読めるようになった。アラビア語とか、ヒンディー語はまだまだかな。会話がパッと浮かばないよ。でも、英語と合わせてなんとなく意思疎通出来ちゃう感じ。」
「...言ってることが、少し異次元なんだよなぁ。これって、私がギャルファッションの話をしてる時と同じ感覚?」
「私はそう思ってるけど。ギャルファッションも私には分からないことが多いもん。だから、いつも聞いてるじゃん。」
「うん、まあ、日本語で意思疎通出来るって、当たり前だけどすごいんだなって思うよ。私たちが日本人じゃなかったら、英語じゃなかなか言い表せないことも多いしね。」
「ジャパンカルチャーってやつだよね。アニメの主題歌も、なぜか日本語で歌ってる映像とか見るけど、外国人から見て、日本の文化がそのまま言葉になるってケースは多いもんね。」
「で、そんなことを言ってるお嬢様は、今もバイトはしていないと。」
「短期バイトばっかり。イヤじゃないけど、身に付くようなこともないし、なんかただ平坦に作業してるだけって感じ。大学にも週3回ぐらいしか来てないし、ゼミが終わって、こうやって話す時間に、スキマバイト的に色々やってみてる。でもね、やっぱりスキマバイトでも、外国人は多くなってきたし、時々言葉が分かればよかったなぁって思う時はあるよ。」
「ふぅ~ん、コンビニだけじゃないんだね。ま、でもしょうがないか。インバウンドがいつまで続くか分からないし、日本に憧れて来る人がこれからもいるのか分からないけど、私はそういう仕事が出来るタイミングだったって考えれば、前向きに仕事出来るよ。」
「...やっぱり、考え方が変に社会人なんだよなぁ。ま、......の両親も、結構すごい人だもんね。」
「お二人とも、普通の会社員って感じじゃないもんね。でも、サラリーマンなんでしょ?」
「知ってるでしょ?おねえちゃんはあんな感じでも会社では人事部長やってるし、オトーサンは...正直何をやってるか分からない。仕事してるはずなのに、ネットカフェで寝てたりしてるし。」
「お父さんって、確かに父親って感じじゃないよね。どこか、ずっと大人になりきれないような空気がある。」
「そう。だから、私の恋人。でも、最近は私がオトーサンっぽくなってきてるって言われる。」
「ああ、なんか納得。でも......はちゃんと大人だよ。相変わらず無防備なところと、あどけない笑顔を除いてはね。悪い男に引っかからないのがすごいぐらい。」
「この子、懐に入りやすい割に、拒絶も早いもんね。あと、理屈バカじゃないと信じないし。」
「あはは...、はぁ~、褒められてる?」
大学のカフェスペースで、こうやって3人で話が出来るのも、あと半年か。
社会人って実感が沸かない。私は、こんなに簡単に就職出来てしまっていいのか、それすらもわからなくなってる。
「それを私たちに聞く?娘ちゃん。」
「だって、お姉さん達しか聞ける人いないんですよ。両親に相談しづらい話、聞いてくれるんじゃないんですか?」
「まぁ~、言っちゃったもんだし、私たちが答えて上げる必要もあるよ。」
「...でもね、私たちの意見って、多分参考にならないよ。だって、私たちは娘ちゃんと同じ年代の頃、全く違う生活だったんだから。」
「それを言っちゃうとさ、私なんかどうする?売れない俳優でしたって話になるよ?」
オトーサンのおしゃべり友達の二人。今はおねえちゃんともしょっちゅうオンライン通話してる。けど、私が二人に相談することも最近は多くなってきた。
私、この人達と同じ時代を生きていた経験があるのに、両親のように相談してる。なんか、不思議な感じがする。
「まあ、やっぱり異常だよね。私たちは娘ちゃんの事情も知ってるし、実年齢と戸籍年齢が違う理由も知ってる。なんなら、娘ちゃんが名乗っている名前は、本来彼女の名前だってこともわかる。けど、名前とか年齢とかで判断されてないから、そんなよく分からない仕事を持ちかけられたんでしょ?だったら、胸を張ってしっかりと受けて、やり始めるのも重要だと思うんだよね。」
「まあ、聞く間でもないんだけど、当然あの二人は、自分で決めろって言ってるんだよね?」
「二人は好きにしていいって言ってます。けど、そろそろ一人の部屋があったほうがいいって、ずっと言われてます。」
「それはその通りだと思うよ。だって、あの二人はバカップルじゃん。正直、娘ちゃんをほっといてお風呂で仲良くやってるわけだし、本当なら一人暮らしをおすすめしたいところ。」
「でも、娘ちゃんも二人が大好きだし、離れたくないって気持ちはちゃんと汲んでるんだよね。結果として、三人で一緒のリビングと寝室じゃ、そろそろ生活に支障をきたすかもしれないってことじゃないかな。」
「話をしてると思うけどさ、彼女って大丈夫かなって思う時があるよ。彼依存もそうだけど、結構メンタルをすり減らしてる気がする。」
「おねえちゃんも自覚してるんですけど、オトーサンほどひどい感じじゃないと言ってるんです。オトーサンも自分の二の舞をさせたくないとは思ってるんですが、オトーサンはもう抗うつ剤や睡眠導入薬を飲んでも、気分の落ち込む日がある。だから、あんまり良い表現じゃないですけど、傷の舐めあいというか、最終的に踏み込みすぎた結果、共依存者として生活せざるを得ない感じですね。」
「相変わらず、娘ちゃんは彼に話し方が似てきてるよね。思考とかもそうだけど、病んでいない彼ならそう冷静に見られる視点を、娘ちゃんが代わりにしてるみたい。」
「それって健全じゃないよ。それに、娘ちゃんだって、彼の恋人なんだからさ、立場上はもっと色々して欲しいんでしょ?だから、父親の意見と、彼氏としての意見を両方聞きたいって思ってるんじゃない?」
「あ、それがしっくり来ますね。もしかして、私はただ、オトーサンではなく、彼として進路が正しいと言って欲しいだけなのかもしれないです。」
「そんなもんかね?私みたいに我が強くて、俳優やってたって人間だと、勝手に決めちゃって生きてるから気にしないんだけど、そこんところ、お宅はどうなの?」
「え、私?うちはきっちり話すよ。両親も巻き込んで話す。夫と二人で出勤するってことがイヤだけど、クルマを2台持ったり、維持費がかさんだりするから、両親まで巻き込んで話した。でも、それぐらいかな。息子のお小遣いぐらい?あとは、私たちも決め事ってないし、今でこそ夫が息子と兄弟みたいに遊んでるけど、そこを締めるのが私の役割。だから、依存するほどでもない。あ、この前、息子から母親の喘ぎ声なんか聞きたくないって言われちゃったけど、そういうことが言える間柄になってる。いやぁ、私もさすがに壁越しに声が聞こえるほど声出してたんだって気づいたよ。」
「......なんか、おねえちゃんとあんまり言ってることが変わらない気が。」
「確かに。二人が今でも仲良くやってるのはわかるけど、う~ん、娘ちゃんへの答えにはなってない気がするんだよね。」
「でも、二人にはちょいちょい言ってるんでしょ?それに、彼女はだいたいお酒の量の文句をいうし、その辺は徹底して管理してるんだから、どっちが親だか分からないよね。そういう立場だからこそ、二人は娘ちゃんの意志を重要にしてるんじゃないかな。本心を言えば、二人はちゃんと答えてくれると思う。まあ、それが世間的に正しいかどうかってのも問題になりそうだけどね。」
「三人とも、やっぱり甘えるのが苦手なタイプなんだと思う。悪いわけではないんだけど、彼が薬に依存してるように、弱みを見せまいとしてる感じはあるよね。」
「私は、心配を掛けたくないだけなんです。だけど、これって親に甘えてもいいのか分からないんです。」
「それは甘えるべきだよ。娘ちゃんを大人だと見てるから、二人も少し負い目を感じてると思う。彼女が、娘ちゃんをうらやましいって言ってること、よくあるけど、それって彼へのヤキモチ半分、親として姉を頼れるうちは頼ってほしいって言ってるのが半分って気がする。だから、甘えてもいいと思うかな。」
「頼りがいのあるふたりとは言えないかもしれないけどさ、三人で考えることも重要だと思うよ。でも、今の娘ちゃんが思ってることは、もう娘ちゃんの中で答えが出てる。確認をしてあげたらいいだけだと思う。」
「確認って発想はなかったです。やっぱり、頼りになります。」
「どんどん頼って。答えられるレベルはそれほど高くないけど、何かしらのヒントは出せると思うよ。」
「さっきと言ってることが違うけどね。うん、でも、私たちも、あの二人もそうだけど、娘ちゃんの2倍ぐらいは生きてるんだから、娘ちゃんの高次元な悩みはともかくとして、力にはなれると思ってる。でも、まあ、今日の話は、娘ちゃんが決めたことに、私たちがどうこう言える立場じゃないから、なかなか難しいよ。自分が決めたことに、もっと自信を持って欲しいかな。それだけで、二人へ色々伝えられると思うよ。」
私は、すごく不器用な気持ちのまま、大好きな二人と暮らしてる。好きだから言えない気持ちを、誰かが代わりに、私に教えてくれる。それだけで、私は幸せだと思う。
私の仕事が、本当に天職だと思っていないけど、意思疎通の手助けをしてあげられる、そんな仕事を選んだって、二人に誇っていいよね?
つづく




