Life 143 広島は未知との遭遇(半年ぶり2回目)
「で、悪いけど、それってうちで被るしかないと思うけど、相手はどう言ってるわけ?」
「結局、提供出来るレベルで抑えられなかったから、契約破棄もありうると言ってます。しかし、250台のうち、100台しか注文が来ていない以上、交渉する余地はあるんじゃないかと思っています。」
「ありうるって...。いや、僕らはもう諦めてるからいいけどさ。君はどうするわけ?社内のパワーバランスを崩してまで言いたくないけど、路頭に迷いますよ?大体、なんで250台一括納入って契約して、100台の注文を飲んだんです?」
「いや、社長がOKというから飲んだんですが、そのせいで今回のマイナスが出ているのです。それをなんとか出来ませんか?もう、説得出来るのがあなたしかいません。先方の契約元から指名されています。」
「......広島なの?呉なの?その理解はちゃんとしてます?」
「えーと、うちと契約を結んでいるのは、呉のシステム会社です。今回の機器更新で、もう広島の契約元会社と呉のシステム会社間では金額が決まっているみたいです。」
「じゃあ、もう被る必要があるよ。数千万をどこでカバーする?」
「だから、また交渉についてきて欲しいんです。予算をどうにかこうにか引き出して、発注先を納得させて欲しいんです。」
「行くのはいいよ、結果は芳しくないと見えてるけど、その覚悟はある?僕は、そんなに便利な交渉役ではないよ。」
まあ、言いたいことはわかる。デジタルライセンスを保持したミニPCと27インチのディスプレイ、そこにキーボードとマウス一式、これを250台もキャンセルされてしまうと、会社はあっという間に倒産。僕は晴れて専業主夫となるわけだけど、このフロアで仕事をしている人間には何ら関係ないところで、突然会社がなくなる経験をすることになる。
規模的にはたかだか数千万の世界だが、自転車操業はこういう時に苦しくなる。何とかお金をかき集めるために営業を掛ければいいんだけど、僕がここの営業より営業が出来てしまう時点で、よくもまあ潰れないものだという。ホワイトボックス系の業者といくつか契約しておくと、こういった危機をなんとか乗り越えられる可能性があるから、無駄ではないんだろう。まあ、ホワイトボックスのPCなんて、自作PCの冷え込みを見る限りは、ちょっと前に比べてバンバン売れるような状況ではないだろうけどね。
「で、大将は広島に行くわけ?」
「すまない。君にはまた迷惑をかける。」
「迷惑?そんなことで迷惑することがあるか?むしろ、ご苦労さんといった話だろ?」
「このやり取り、前にもやったな。」
「ご苦労さんだろ?俺はなんだかんだでここを動けない。大将のほうが小回りも利くし、手分けとはいえ、またドキュメントベースの資料を作ってるんだから、もう営業になればいいんじゃないか?」
「心がすり減るんだよ。まず打席に立つのが難しい、打席に立って三振かホームランになる結果で、ホームランになるケースは非常にまれ。今回の場合、ホームランを打った後に、ホームベースを踏む前に、三塁を踏み忘れてアウトになるような状況だよ。しかも僕の問題ではない。その4K縦型のモニターでレッドディザイアを育てられているうちはまだいいってこと。来月からはそれもできない可能性がある。それでいいならと、僕は広島に交渉に行く。つまり、僕がうまく説得できたところで、君の生活までは保証できないってことだよ。」
「ほら、その辺は大将と一蓮托生。大将が失敗したら、それで終わりでいいんじゃないか。」
「簡単に言ってくれるよなぁ。まあ、それでいいならという話か。」
「大将も俺も別の仕事をいくらでも見つけられるだろ?まあ、あと経理さんとかさ。」
「......会社の存亡がかかっていて、軽い人間だよなぁ。」
「気楽にいけよ。別に俺は責めないから。」
「君に責められなくとも、責任はあるよ。僕が自由を謳歌できないだろう?」
「自由ねぇ。ま、確かに、この4Kディスプレイのウマ娘は死守できなくなるし、大将がどれだけリスクを軽減できるか?ってことね。」
「少なくとも、ここは嫌いじゃないし、僕みたいなのが適当に仕事をしてて、お金がもらえる。そういう環境をみすみす逃したくないだろ?」
「そりゃそうだ。とは言え、俺は無力か。ま、気楽に広島観光してこいって。契約元と遊んでるんだろう?」
「心外だよ。向こうは接待という名目で、僕を案内してくれてる。そして僕はそれを甘んじて受けてる。現代社会でこれは越権行為だよ。しかし、それが営業として成立してる。地方の会社であっても、向こうは超が付くほどの一流企業だ。長い物には巻かれろって判断。」
「立派なこった。俺も大将も、都落ちして大正解って?」
「君はわからないけど、僕は少なくとも大手企業では生き残れない人間らしい。決められたことをやることが苦手だからね。」
「ま、それがいいのかどうか知らないけどね。少なくとも、俺は大将の奥さんには怒られたくないからな。」
「僕も、君の奥さんと息子さんに恨みは買いたくないね。」
別日、否応なしに僕は広島へ向かう。現地で合流するのだから、別にどうでもいい。
N700S系になっても、東海道新幹線というのは、なんかこう堅苦しい感じがある。快適性は700系の時代からはるかに上がってるのに、狭さを感じる。不思議なものだ。
そして、広島というのは、絶妙に遠い。昔は3時間どころか4時間以上掛かっていたはずなのに、今や同じ座席に3時間も座って移動することですら不快感を感じる。これでも出張族だったはずなんだけどなぁ。
「お久しぶりです。また、来ていただきましたね。」
広島駅の新幹線改札。もう向こう側は僕を友人扱いしてるんだろうなぁと思ってる。まあ、プライベートの連絡先を交換しているのだから当然か。
「間の会社がやらかしたみたいですね。できれば僕はプライベートでお会いしたかった。もう、営業と同行するのも嫌ですよ。」
「相変わらず手厳しいというか、かばう気がゼロですね。」
「どうやっても黒字化できない状態を黒字化しろなんて要求をされて、出来ますと言い切る勇気がないだけです。僕は技術屋です。エンジニアでも営業でもない。」
「その技術屋をわざわざ呼び寄せさせたんですから、私の会社の財布からお金を引き出すうまい言い訳を考えてください。」
「驚いた。あなたほどの立場の人が、それを言ったらまずいんじゃないですか?」
「技術屋としてではなく、一人の人間としてのあなたを見込んで、あなたにお越し頂いたわけです。大丈夫、根回しはしておきましたから。」
「根回しですか...。間に入っている会社、問題ないんですか?」
「問題しかないですよ。今治に設営したキッティングスペース、あの会社は使っていないですからね。」
「...すでに100台程度はお送りしたと聞いてましたけど、要はその先が進んでいないから、こちらも確保に二の足を踏んで、結果的に赤字を補填しろって話ですか?」
「伝わってなかったようですね?御社へは割増でお支払いする予定は出来ています。向こうの契約は100台でおしまい。あなたが新規で窓口となって、残りの150台の交渉を行って欲しいんです。」
「僕はまんまと広島旅行に呼んで頂いたわけですか。」
「まあ、間に挟まる営業の力が違いすぎるんです。御社の営業力不足をあなたが補っている。それが事実だと感じたから、お呼びしたんですよ。」
「......僕は地域柄、日産派ですけどいいんですか?」
「ロータリーと旋回力の良さがマツダの武器です。それに、あなたはスバルに近い。常に安定してブレがない。GT-Rは高速域であればあるほど安定しますからね。しかし、今は下道、いいとこ時速40キロの交渉。今のあなたの説得力は水平対向エンジンを積んだ全盛期のインプぐらいの安心感がある。」
「まいったな...。僕はペーパーですよ?」
「ペーパードライバーがRB26の話をしている時点で、立派な技術屋ですよ。さ、また案内します。」
現実は絶望的だった。何も出来ていないというのはリアルな話。150台もの27インチディスプレイが本来存在しない対岸の広島にある。この会社は今治がメイン機能を持っていると聞いていたが、本来はそこですでにキッティングが終わっているミニPCを接続し、一体型のPCとして利用が可能だったのだろう。なおさら、わけがわからない。現地合流したうちの営業ですら、この光景に唖然としていた。
「これ、本当に使えるようになるんですか?」
「そんなのわかるわけないでしょ?もうボールはシステム会社に投げてしまった。250台確保せずに100台しか確保しなかった社長や君たちに疑問しか浮かばないよ。あの時、僕は250台一括納入って話をしたはずなんだけど?」
「相手が100台だけ確保して欲しいと話したので、ウチは150台しか確保しなかったんです。」
「あんさ、社長もそうだけど、契約書になんて書いて契約したの?250台一括納入って書いて、あとから相手に100台だけ確保して欲しいって言われたら、その時点で契約破談だよ?この前にも聞いたけどさ、どうして飲んだの?」
「社長がそれでいいと話したんです。だから大丈夫なんだろうと。」
「日本だからまかり通る話でしょ?君の祖国でこんなことをやったら、どこも取引してくれないで終わるでしょ?僕さ、もう帰るよ。あとは君がなんとかしてくれ。手遅れだよ。会社がなくなっても文句は言えない。自業自得だ。」
「......なんとか出来ませんか?」
「出来ない。君がシステム会社と協力して、この絶望的な状況を打破する方法を模索するしかないね。なんなら、社長も巻き込めよ。もう付き合いきれない。ほら、システム会社さんがお待ちだよ。」
「そんなに白状な人だと思ってませんでしたよ。」
「買いかぶりすぎだよ。いいか、僕は営業じゃない。営業の仕事をしていて、一度締結した契約を捻じ曲げた責任は、自分でなんとかするしかない。僕に出来るアドバイスはそれぐらいだよ。契約社会なんだろ?君の祖国。」
失態だった。一部始終を見られていることに気づかないまま、エキサイトしてしまった。
「怒鳴るんですね?」
「呆れて怒りが込み上げてきますよ。あんなデタラメな契約があるんですかね?」
「日本は契約社会ではないですけど、そんな適当な話も聞いたことがありませんがね。現時点でも弊社とシステム会社間では250台の納入のままになっていますからね。」
「あれ、そうなると、僕がこの場で150台契約を結んでしまったら、御社に400台納入ってことになりますよね?」
「それはないです。当然ですが、システム会社側に契約破棄を通告し、違約金か、あるいはペナルティが下します。だって、明日250台欲しいと言って、実は100台しか確保出来ていませんって話、到底飲めませんよ。作業工程表すら送られてきていない。まあ、誰かがやってくれている的な話が、いつの間にか誰もやってなかったってことになったんでしょう。」
「...疑問なのですが、それって結構前に発覚してると思うんです。3ヶ月ぐらい泳がせていますよね?」
「猶予期間というやつです。御社の営業さんにその話を聞いた時、私はもうあのシステム会社を切ることを決めていました。いずれにしろ、今回の納品が終わったら、あそことは契約終了ですね。また一から調達開拓ってやつです。」
「先手を打ちますけど、ウチは1000台単位で受注出来るほど、規模は大きくない会社ですよ?」
「あなたにしばらく通って頂くことにしますよ。宮島も、呉も、なんなら今治も案内出来ます。」
「当然、旅費込みですか?」
「そりゃもう当然です。提供して頂いたノウハウに対しては、技術料も払います。」
「御社のIT部門に一度お伝えすれば理解できることですから、それはサービスでいいですよ。」
「理解できる人、いますかねぇ。ウチのIT部門は割とザルですよ?」
「理解できないなら、御社が外注さんを使った方が安心じゃないですか。って、長年付き合ってきたシステム会社があれじゃあ、また新規で開拓ですかね。」
「IT部門と一緒に地元のシステム会社を当たってみます。長年、なあなあで契約をし続けたウチの問題です。こちらこそお恥ずかしい話です。御社との直取引は、御社にとってもリスクがある。その辺は考慮してあります。さ、とりあえず新しい契約、直接結びましょうか。」
「...お話は理解できました。しかし、100台確保しているのであれば、一括契約を150台に修正しても事足りるのではないですか?」
さすがに大企業の総務部だ。説得するのは無理そうな気がするけどね。
「現実には足りると思います。ですが、今後のリプレース計画では、最終的に予備も含めて250台は確実にリプレース対象となるんです。こちらの会社さんと以前に契約した際、半導体不足の話をいやというほど聞いています。それどころか、ウチの事業自体にも原材料高騰による予算のしわ寄せが来ている。世界情勢を考えると、ウチは確保できるものを早めに確保しておく。予防線という考え方で通してもらえませんか?」
「...さん、理解は出来ているんです。もちろん、予備も含めて150台というのは私も理解できる話なので、その点は通せます。ただ、予算という点が問題なのです。今年度予算では250台が計上されていて、同額相当をそのシステム会社と締結しています。しかし、現実に150台しか準備していないのであれば、契約破棄にする方法は可能です。その場合、まず100台は御社に返品という扱いか、あるいはシステム会社が所有することになります。」
「......つまり、一旦契約を白紙にした上で、今年度の予算ではなく、来年度予算にて250台を購入して頂き、その100台をスライドする。この場合、僕ら...あ、すみません。弊社側が受け取っているシステム会社からの売上はどのように処理しますか?」
「少々疑問が出てきましたね。システム会社から御社に入金がされているのであれば、その金額をお知らせください。弊社側から仲介しているシステム会社には支払は行っておりません。システム会社が都合よく100台分を建て替えた可能性があります。当然ですが、御社にも落ち度があったと考えますが...。」
「返す言葉もありません。契約上、台数が揃わない状態で入金があったことと、納品台数に対する乖離を弊社の営業が見過ごしていたことは、100%弊社のミスです。僕もその点に関しては事実を受け止め、なぜこのような自体になったのかも把握し、結果、弊社営業とシステム会社間でその100台の納入を認めてしまっている資料が存在しますため、言い訳は出来ません。」
「私も丸投げみたいな状態でシステム会社を信用していました。この方の話が事実ではありますが、間にシステム会社をおかず、直接取引で、この方と連携を密にしていく。それで、来年度予算として計上することは出来ませんか?」
「御社とシステム会社間の話に関しては、弊社側では一切関与出来ません。無論、システム会社側はゴネるでしょうけど、弊社側としては、システム会社に、本来作業すべき今治工場のスペース確保を行いながら、現時点で納期と作業工程表の提出などがされていないことは、契約条件の中にある期限内の250台一括納入に対する契約違反となります。したがって、契約破棄を行います。御社には、システム会社から返金を求められる可能性が極めて高いですが、発注元は弊社側ですので、今年度の予算より、場合によってはシステム会社への返金を肩代わりする。それが現実的な話でしょうか。」
「そうして頂けると、弊社側も非常に助かります。本来ならこのようなことはあってはならない話。僕が会社を代表する立場の人間ではありませんが、ご配慮頂き、会社を代表して感謝を申し上げます。」
「......いやぁ、噂通り、しっかりと受け答えも出来て、非を認めて責任を被るような発言を出来る。本当に、あなたは営業や役職持ちの人間ではないのですか?」
あれ?口調が変わったぞ。もしかして、僕は茶番を演じさせられてた?
「僕ですか?僕は普段、社内SEとして仕事をしていますが、営業の人間がまるでダメ...、ご存知かとは思いますが、お国柄なのか、上位に対して断れないというか。今回も、僕がこの話を聞いた時、思いっきり問い詰めました。契約社会の国で、こんなことがありえるのかって?ただ、僕も生活がありますし、何より一人の営業のミスで会社存亡の危機になるレベルの規模なんです。彼らは国へ帰ればいいですが、他の人間のことを考えると、僕には見捨てられなかった。それだけです。」
「その営業、今日も来てますよ。これからシステム会社と呼び出して、契約破棄の話ですか?」
「そりゃそうですよ。あ、一応ですけど、御社には一度契約破棄として話をします。そのうえで、あらためて契約締結の時に、直接取引は多分厳しいので、間に信用出来る今治側のシステム会社を入れます。現状、準備出来ている100台の金額は呉のシステム会社が支払った金額をお伝えください。御社に極力被害を出さないようにした上で、契約破棄の条項に弊社側より補填するとでも一文入れておきます。」
「あ、なんとか出来ちゃいます?お金の管理までノータッチだったから、私も必死に必要性を訴えましたけど、必要なかった?」
「知っててやってたんでしょ?何年付き合ってると思ってるんですか?かれこれ20年ですよ、...さん。迫真の演技ってやつでしたよ。」
「そうですか。いやぁ、大根役者で申し訳なかった。」
「それはそうと、今年度予算の話、どうしますかね。一応付いちゃってるし、契約破棄で来年度予算に繰り越し出来るとして、来年度予算に繰り越し額とは別に、大枠で追加分の予算を組み込めるかわからないですよ。」
「そこは物価高でなんとかなりません?事実、私はこの方の説得で、現場側から一括納入を要求して、予算を通して頂いた。事実として250台を確保出来ていれば、予算オーバーにはならなかったわけですし。」
「耳の痛い話ですね。なんか、うまい言い訳、一緒に考えてもらえませんか?」
「僕が発言出来る立場ではないです。謝罪に来ていますから。」
「ああ、もう大丈夫ですよ。ここからはざっくばらんに行きましょう。」
「試すような真似をするのはどうかと思ったんですが、あなたの対応を知りたかったんです。...さんに聞いてた通りだったし、意外とかばうもんだから、私も連中を呼んで堂々と交渉出来る口実ができました。多分、別の方が来られていたら、完全に白紙になりましたし、あの100台の行方も全部返品になってたでしょうね。」
「......あの、非常に疑問なんですが、お二人から見て、僕はそんなに信用出来る人間ですか?」
「まあ、営業って感じではないですよね。ただ、嘘はないし、現状把握もしっかり出来ていた。弊社の営業さんを悪くいうわけではないにしろ、彼は物を売りに来ているだけ。お国柄とおっしゃる通り、日本では通用しないですよね。その点、あなたは営業マンにはなれないと思いますが、どのような選択が全てにおいてベストなのかを探っていた。多分、そういう性分なんだと思ったんです。あなたの誠実さだけで、形式的な営業の話よりも、こうやって気楽に妥協点を探り出すほうが、あなたも得意なのでは?」
「慣れないのは事実です。ただ、僕は一応会社を代表して来ていると勝手に言ってるだけで、本心はどうなっても仕方がないと思っていました。社内の立場もありますし、何より僕は営業ではありません。今後、御社とのお取引があった場合のみ、僕はこちらにお伺いをして、極力ご希望に沿う形でご提案はさせていただく。それぐらいしか出来ません。これが僕が御社に出来る誠意ある対応です。」
「あ、じゃあ、もう自社が潰れる覚悟で来て頂いたってことですか。お迎えに上がった時、スバルなんて言ってすみません。完全にマツダの人間だ。」
「RX-7の開発思想にそんな話がありましたね。零戦の話でしたっけ?別に特攻したかったわけではないです。ただ、死ねばもろともという覚悟を決めてきただけです。」
「こういう切り返しの凄さですよ。例え話だけで、それを汲める能力はなんなんですか?」
「僕も分かりません。知っているとか、聞いたことあるとか、そういうレベルでお答えしているだけですよ。」
「あらためて、こちらこそ、本来巻き込むような事態を下請けに起こさせてしまったことは、申し訳なく思っています。...さんには広島側に新しいIT機器やネットワーク・インフラに関わるシステム会社を新規で探してもらう...と言っても、情報が漏れればどこかが聞きつけてくるでしょうけど。」
「そんなに楽じゃないですよ。うちの規模だと、東京の大手システム会社が営業に来るんじゃないですか?それこそ下請けいじめが起きちゃうんじゃないですか?」
「...昔はあそこもこんなにいい加減なことはなかったんですけどね。20年前ぐらいにシステム更新をしたじゃないですか。あの時に不眠不休でサポートしていた会社とは思えないですよね。」
「あの、御社にも社内システム部門があると思うんですが、どうしてそこからの話にならないんですか?」
「お恥ずかしい話、社内のシステムに特化しているんで、機器などはリースがもっぱら。さすがに基幹システムのメインサーバーはここにありますが、末端の端末の世話は、そのシステム会社に行ってもらってたというわけです。」
「今回の250台の話、たまたま御社の営業がシステム会社に売り込みに行って、そのままウチに話が来たって聞いてますけど。」
「僕もその話は聞いています。確か、発端なった話に『今年度に150台、来年度に100台という予算』って話をされたのを覚えていますか?あの時、僕が無理強いをして、250台を一括納入して、ちまちまとシステム会社側にボールを投げるというう話あったはずでしたけど、システム会社側はそれを前提に話を進めていたって可能性はあります?」
「あ~、なるほど、その線はありそうですね。つまり、基本線ではこちらが無理やり付けた予算に対し、システム会社側の都合で分割納入に切り替えたと。」
「それにまんまと条件を変える当社の人間もどうかしてると思います。庇えません。」
「......失礼ですけど、どちらの味方なんですか?」
「敵味方を気にするほど物事を考えていません。その時にどうやったらベストな選択肢を作れるか、身内であろうと、そのためなら僕は自社の人間の提案ですら否定します。そういう人間なんです。」
「本当に営業に向いてないですね。だから、信用されるんでしょうね。独立する気は?」
「ないです。独立していいことがあるとすれば、多分信用を買ってもらえる。しかし、こういう人間ですから、法人としてすぐに倒産でしょうね。」
「NPO法人より非営利的な仕事をしてそうな会社になりそうですもんね。面白い人に会えた。...さん、隠してないで、こういう人だって言ってください。」
「前情報は十分伝えたつもりですよ?聞き漏らしてるんじゃないですか?」
同期と言えばいいのだろうか。こういう関係の人たちを見ていると、組織の中で戦友みたいな人間がいるのは、メリットしかないように思える。羨ましいとは思うけど、僕はそういう類の人間じゃないことは明らかだしね。
つづく




