その141 僕はお風呂が嫌いなんだよ
お風呂から上がってきた。僕も最近はシャワーだけだと辛いものなんだな。
年齢からそう感じるのかもなぁ。
「やっぱり、シャワーだけじゃ物足りなくなってるって?」
「うん、昔の僕は空いた時間に入るって概念だったからさ、なんか良さみたいなものが分からなかったかなって。」
「女子は大変なんだよ。お肌の手入れ、髪の手入れもあるし、冷えにも効果的...って、ミニスカート履いてる私が言う事じゃないか。」
「親としてはそろそろミニスカートは止めて欲しいけど...、まあ、脂肪は冷えるもんね。僕もお腹が冷えるのはそれが原因だからね。」
「でも、一番なのは、気持ちの問題かしら。やっぱりお風呂に入って、アレコレと考えるのが、次の日につながるのよ。」
「アレコレ?」
「アンタはなんか考えない?明日は何があるんだっけとか、今日は何をしたんだっけとか?」
「あんまり考えないかな。ゆっくりとお湯に浸かってるだけで、気持ちよくなる感じが好き。」
「僕はなんとなく分かるけど、シャワーを浴びてるときはむやみにそういうことを考える。一方で湯船に浸かると、なんかどうでも良くなるというか。」
「こういうところは三者三様なのよね。」
「昔は朝シャワー派だったんだよ。出勤にゆとりもあったし、適当に会社にも通えたし。」
「そうだったよね。オトーサンが朝早く起きて、シャワー浴びてるところに、私がトイレに入りたいタイミングとかあったもんね。ユニットバス生活って結構不便だったよね。」
「破廉恥な親子ね。私でもそのままトイレに入っちゃうかもしれないけど。」
「まあ、僕の裸を見てもなんにも思わなかったでしょ?」
「半分寝てるような状態だしね。でも、なんでやめちゃったの?」
「う~ん、身体が辛くなってきたから?ほら、冬でもそういう生活をしていたから、当時はシャワーを浴びるためにセラミックヒーターをつけてたじゃない。」
「あったあった。トイレも温かいから、結構重宝してたんだけどね。」
「ああしてまで、朝シャワーを浴びるのが辛くなってきたのと、あとは時間の余裕のなさかな。」
「私、今でもたまに朝シャワーを浴びるわよ?」
「今は早朝にマラソンしなくなったのに?」
「日によって寝汗が気持ち悪い時があるのよ。寝ているのに不快感があるから、それを振り払うというかね。」
「......エッチなことを考えて?」
「夜明けから発情してるなら、あなたを巻き込んでるわよ。なんというか、ほら、寝汗ってボディシートとかで済むような時もあれば、パジャマにまで汗がしみてる時もあるというか。」
「僕もたまに胸騒ぎがして目が覚める時があるけど、そういう時って身体がこわばってたり、妙な気持ち悪さがあるよね?」
「それよ。私はその時に汗をかいてる。あ、これは流石に無理だと思って、シャワーを浴びる。だけど、その日はあなたに髪の毛を乾かしてもらえないから、会社だと寝坊ですか?って言われる。」
「面白いね。そうか、そういう時って、シャワーを浴びれば、気分転換にもなるかもしれないね。」
「二人はそれで納得してるけどさ、やっぱり怖い夢とかを見てるの?」
「記憶はないよ。だけど、身体が明らかに緊張してる。これはだめだと思う。僕はそういう時がよくある。寝覚めが悪いとかじゃなくて、この日は完全にダメだと思う日。」
「うつ病の問題なのかしら?結局、抗うつ薬も効かないような状態にあるってこと?」
「理由はわからないけど、そういう日ってめちゃくちゃ早く目が覚めるんだ。1時に寝て、4時に起きるとか。で、気分が落ち込んでいて、今日は動けないなと感じちゃう。二度寝も出来ない。これで若干の体調不良を起こす。」
「オトーサンが朝急いで出かけていく時って、そういう時?」
「正確には出かけられるのはまだいいとき。本当にダメなら、会社を休む。今はめったになくなったけど、そういう時って体調不良なことが多い。」
「私と二人で暮らしてたとき、そんなことあったっけ?」
「気持ちが安定してたからだと思うよ。僕は眠りの質がそのまま気分に関係しているパターンだったりするから、強烈な眠気が続く場合は、薬の副作用ではなく、よく寝られてないってこと。シャワーを浴びるだけでは解決出来ない。」
「今はそういう時、あまりないわね。」
「あまり...、まあ、ほぼないかな。逆に週末にぶっ倒れてたりするのは、明らかに平日にオーバーワークしている証拠だと思うよ。何をもってオーバーワークなのか、それもわからないけどね。」
「仕事より家事かもしれない......おねえちゃん、私たちも家事手伝ったほうがいいよね。」
「だって、たまに掃除機を掛けても、この人が端っこを掛け直してるんだもん。だったら、最初からやらないほうが良いかなって思うのよ。」
「気持ちはうれしいんだけど、意識してやってもらえば出来ると思ってて、出来てないからね。結局任せられる家事って、トイレ掃除だったり、お風呂掃除だったり、食器洗いだったりだよね。」
「お風呂は私が洗ってるから......おねえちゃんはほぼ何にもやってないってこと?」
「洗濯機のスイッチを入れるぐらいかしら。食器洗いも、結局はお惣菜がパックにでも入っていれば、毎日してるわけではないし。私、なんだかんだでめんどくさがりだから。」
結局、何の話だかよくわからなくなってきたけど、あ、そうか、お風呂に入るって話だった。
「お風呂掃除って結構大変じゃない?」
「そうでもないよ。毎日念入りにやるってことはないし、今はバスマジックリンで手早く水垢は落とせるよ。」
「ふ~ん、意外だね。なんか、もっと大変なのかと思ってた。ほら、昔の家の時のバスタブ、あれ小さいのに、なんか水垢が取れなくてさ。」
「あったね。ユニットバスだからなのかと思ってたけど、この家のバスタブの素材と多分同じだよね?なんでだったんだろう。」
「アンタ達がお風呂掃除に慣れてなかったってだけじゃないの?」
「言えてるかもね。僕はあそこでシャワーしか浴びてなかったしね。」
「いやいや、私と暮らし始めたら、ずっとお風呂に入ってたじゃん。」
「そうだったっけ?さっきも言ったけど朝シャワー派だったから、覚えがないんだよね。」
「ふ~ん、それで、アンタは毎日お風呂掃除してたんだ。私よりもマメよね。」
「マメかな?きれいな状態でお風呂に入りたいじゃん。」
「私、案外湯舟は2日に1回程度しか変えなかったのよね。追い炊きでなんとかしてたみたいな?」
「...結局、お風呂に入ろうが、シャワーを浴びようが、あなたはお風呂掃除すらマメでもなかったってことね。」
「だって、私は別に不便じゃなかったんだもん。それぐらい許容よ。」
「えっ、じゃあ、身体を洗ってから湯船に入って、また身体を洗ったりするの?」
「私しか入らないんだから、そんなに気にしてなかったわよ。アンタ達と会うようになってもあんまり変わらなかったし。」
「あ、それでホテルに行った時に、えらく長風呂してて延長料金取られちゃったわけだ。」
「そんなことあったわね。ほら、私たち、いつでも長風呂でしょ?」
「風呂?洗い場にいる時間のほうが長いのに?」
「あん、意外に辛辣よね。毎日じゃないから、許して欲しいわ。」
「う~ん、おねえちゃんにとって、お風呂ってなんかいろんな場所なんだね。夫婦の営みもするし、プライベートで考え事もするし。」
「明日の活力になるならなんでもいいのよ。お風呂でリセットして、明日も頑張ろうってできればそれで十分。」
「明日の活力...活力にはならないような気がするけど、ま、本人がそう思ってるなら、別にいいか。」
「余裕なうちはいいわよね。今日は一緒に入らなかったから、少しさみしかった?」
「多分逆。だから、こんなことを考えてるのかもしれない。エッチするのが嫌いなわけじゃないけど、君とエッチしたあとは、お風呂に浸かる気持ちよさより、君と触れ合った体温のほうが心地よいから。」
「はいはい、のろけはもういいよ。二人がそこまでお風呂に執着していないのに、入ってると意外に考え事してるって分かっただけで十分だよ。」
「アンタは私を馬鹿にしすぎ。ま、いいわよ。アンタも私達ぐらいの年齢になれば分かるって。無意識に考えることの重要性ってやつは案外必要よ。」
「できれば気持ちを翌日に引きずりたくないからね。無意識に切り替えをするって意味で、お風呂に浸かるという行為はちょうどいいのかもしれない。」
「お風呂の重要さが分かってないんだよなぁ、この二人は。」
お風呂に入ったあとに、お風呂の話をする。自宅のお風呂の話なんてする必要なんかないと思ってたけど、意外と面白い。
......しかし、うちの妻、めんどくさがりなようで、なんか意外と繊細なのかもしれない。壊れかけたままなのは危険だと思ったけど、僕を彼女がそう言うように、彼女にも儚さがあって、それに惹かれるのかもしれない。
つづく




