Life EX5-1 彼女の場合 その1
「あれ、大学は?」
「飽きた。君も、予備校なんじゃないの?」
「飽きちゃった。今日だけ、君と一緒に...その、いちゃいちゃしたい。」
水曜日。大学にも慣れ、バイトし始めた僕は、あの時に、一緒に生きていきたいと思った彼女と同居生活を送っていた。
同棲生活は、僕を好きだった君の本当の意味でのワガママだった。今、彼女のワガママを聞けるのは僕だけ。そして彼女は、予備校生になっていた。
僕はその中でいくつか大学を受けたけど、結局は滑り止めながら、一番面白そうな大学に進学することにした。出席日数は足りた君だったけど、大学受験までに気持ちが戻らなかった。軒並み、大学には落ちてしまった。
卒業式のあと、僕と彼女は正式に男女の関係になった。彼女の親御さんは、僕に責任を託してくれた。彼女を守ること、そして彼女とは別々の大学になりそうだけど、恋人として甘い生活を送っていた。
未成年、僕らは引っ越すときにお互いの漫画を持ち寄り、漫画書庫を作った。高校生活ではクラスで色々言われた関係だったけど、ここは僕たちだけの住処。ベッドで一緒に寝てる。
「あの、嫌じゃないんだけど、もう少し時間とシチュエーションを考えて、触って欲しい。」
「カーテンを閉めっきりにすれば、別にシチュエーションとして文句ないと思うんだけど?」
「にぶいよね。それに、デリカシーもない。寝汗、かいてるから汚いよ。」
「いい身体をお持ちなのにね。事実は小説より奇なりとは言ったものだけど、君の身体はもっと主張してくれていいと思うんだけどなぁ。」
「それを昼間にいうから、私がにぶいっていう。男の人に愛されるってことも理解してるつもりだし、君が愛してくれるから、予備校生でも劣等感なく通えてる。でもね、昼間からエッチしたいと思わない。」
「仰せのままに。でも、一緒に買物に行って、なにか作って、お風呂に一緒に入って、エッチしよう。それで、明日はお互いに大学なり、予備校生なりに行く。それでいいでしょ?」
「......なんか、急にエッチになったよね。私が好きだった君は、もっと純粋な人だと思ってた。」
「僕が好きな君が、こんなにエッチだったって知ったからだよ。高校時代には隠してたんだから、ずるいよね。」
「ちょっと、いちゃいちゃしたいって言ったのは私だけど、あん、だから、おっぱいばっかり触らないの。」
「柔らかい。独り占め出来てるのが幸せ。」
「私は、少し不幸せ。でも、大好き。」
8畳にベッドが2つ。並んだベッドは、今はくっつけて、嫌なことがあったら、何かと理由を付けて、僕らはエッチをしている。
東京に引っ越して、初めてキスをした。初めて抱き合った。そして初めて素肌を見た。君は遠慮がちな顔をしているのに、身体はすごくいやらしかった。生まれつき、男を誘うような身体に驚いた。
最初はうまく行かないことが多かった。避妊具の付け方、彼女の身体のほぐし方を覚えた。同棲して半年、ようやく一緒にお風呂に入って、気分を盛り上げてから、前戯でお互いを温めあい、一緒になって快感に溺れる。そんなことが自然に出来るようになった。
「ねぇ、少しだけ、教えて欲しい。」
「ん?どうしたの?」
「私、いいのかなって。勉強して、好きな人と一緒に暮らして、アニメを見て感想を話したりしながら、女性として愛してくれてる。私みたいな子でも、君は好き?」
「好きじゃなかったら、僕だって親御さんを説得しなかったし、今、目の前でグラマラスな胸を揺らしてる君を見て、嫌いになれる?」
「身体目当てみたい。」
「それだったら一緒に住んでないよ。君と生きていくって決めたから。それに、二人で責任が取れるようになったら、所帯を持って、子供を育てよう。まだまだ先の話だけど、子供を育てる僕と君、思い浮かべるだけで楽しいよ。」
「どうせ、そのときにどさくさにおっぱいを吸うんでしょ。今でも大きな子供なんだから。」
「好きなんだからしょうがないじゃん。さ、シャワー浴びて、寝よう。明日は学校だよ。」
「うん、起こして」
彼女はまだ異物が中に入ってくる感覚を拭いきれないという。でも、自分でするより、気持ちが良くなってきたって赤裸々に言ってくる。にぶいって言う割に、ズレてるのは君だよっていいたい。
そんなんだから、彼女をベッドから抱き起こす。彼女しか知らないけど、すごく柔らかい肌。この仕草だけでも、僕は十分に興奮する。
「当たってる。」
「自分の彼女が素肌でいて、興奮しない男がいますか?っての。さ、シャワー浴びよう。」
「ふぅ。また、気持ちだけじゃなくて、身体を押し付けようとしてる。湯船は入れないの?」
「あ、ちゃんとお風呂に入るなら、先に僕だけシャワー浴びながらお風呂を沸かしておくよ。」
「お願いする。やっぱり、腰が少し痛いかな。なんでだろうね。あんなに気持ちいいのに。」
「僕のせいかもしれないから、次は色々体制を変えてみよう。一緒に試していこう。」
「......大好き。」
僕の胸板に顔を埋める彼女。思わず頭を撫でてしまう。本当にかわいい彼女だと思う。
「何を作ろうか。」
「何でも。でも、二人で一緒につくろう。あんまり手の込んだものは作れないけど、作るのも楽しいし。」
「お料理の本、色々読んでるけど、2人分って分量、あんまりないね。」
「そういうものなんじゃない。お金があるわけじゃないし、余ったら冷凍しておいて食べればいいよ。」
「......作るのは楽しいけど、食べるのは好きじゃない?」
「二人で作って、二人で食べるのが好きなのかな。僕が作って、君が美味しいって言ってくれれば、もっとうれしいかも。」
「そういうもの?」
「そういうもの。君が楽しそうにしてくれてれば、僕はそれで良いのかな。」
「変なの。君らしいね。」
「僕らしい...ね。それは、にぶいって言ってる?それとも、いやらしいって言ってる?」
「全部ひっくるめて、君。それで納得する?」
「納得した。納得するのもおかしいと思うけど、君が好きだから納得出来るかな。」
「...全然意味が分からない。」
「単に、こういうのが愛のチカラってやつ?」
「なおさら意味が分からない。」
「君に言われれば、何でも納得しちゃうってこと。期待しちゃうな。」
「いやらしいこと、考えてる。」
「我慢してるんだもん。そりゃ、期待する。」
「さっきしたばかりだけど?」
「したいんだからいいでしょ?」
「......うん、負けた。その前に、ご飯作ろう、一緒にお風呂入ろう、そのあと、ね。」
「ねぇ。」
「ん?どうしたの?」
柔らかな身体、潤んだ瞳、彼女は僕にとって女神様。ぶっきらぼうで、夢見がちで、感性も独特。それでも、ずっと自分の彼女でいてほしいと願ってしまう。
「私、一緒の大学に入学する。それで、二十歳になったら、籍を入れよう?」
「......君はそれでいいの?」
「もちろん、周りには秘密。でも、配偶者がいますって話しておけば、勘違いされずに済むでしょ?」
「でもさ、もっと文学部とかに進むべきだと思うよ。」
「変かもしれないけど、私は小説を書いてみたい。そのために勉強できる環境なら、君の大学の文学部や、文芸サークルでも十分学べることはあると思うんだ。」
「ファンタジア文庫の知識とか、少コミの男同士の恋愛とか、僕には理解できないけど?」
「理解できないのが当然。私たちが同居してること自体、理解できないことが多いもん。」
「でも、君はそんな状態で、籍を入れることがいいと思うの?」
「離れたくなかった。予備校に行っても、たまに声をかけられる。君がいるから断るけど、しつこい相手が多い。それに、同じ大学に進学すれば、守ってくれるでしょ?」
「安易な考えだけど、僕には止める手立てはないから、頑張ってほしいとしか言えない。僕のために考えてくれてるなら、僕は君に従うよ」
「従うなら、おっぱい、ずっと揉んだままなのはなんでなのかな?」
「柔らかくて気持ちいい。君のように優しい身体。」
「......当分、お預けにしようかな。いやらしい。」
それから、いろいろなことがあった。籍を入れるのは、彼女の両親に反対された。二人が社会人になったら、責任を持つ自覚が出来るとみなして、婚姻届を出すことは許された。
僕も両親に彼女を紹介した。僕の両親からは、僕が甘えん坊だと聞かされたらしい。それでいいと思ってる。
彼女は、僕の大学へ進学して、文学部に入った。大学に一緒に通い、講義の時間とともにバイトのシフトを入れた。彼女は地域のコミュニティ誌のバイトを見つけて、そこで起こったことを夕食のときに楽しそうに話してくれた。そして八畳間にはいろいろなものが収まりきれなくなった。漫画はいつの間にか二人合わせて1000冊を超えていた。
「どうしようか。ベッドの下も漫画だらけになっちゃったね。」
「いやらしい本を隠してるみたいに言ってる。」
「もっといやらしい描写のある漫画もたくさんあるのにね。」
「...そう言われると、いやらしい女の子に思われてる。」
「彼女がいやらしいって、僕には自慢なんだけど。」
「むぅ、そういう言い方がいやらしいの。」
「う~ん、なにか言い方を考えるけど、それよりもどうしようか。この漫画。」
「......引っ越ししよう。一部屋ぐらい漫画が置ける部屋が必要だよ。」
「それ、本当に言ってる?僕らは仕送りが足りなくて、バイトしながら生活してるんだよ?」
「ワガママなのは分かってる。でも、この漫画は、私達が一緒に暮らした証だよ?次の部屋の更新まで、どうにかしてお金を貯めよう。」
夢見がちだからこういうことを言っちゃうんだろうなぁ。でも、彼女の言う事もそれほど悪いとも思わない。
「少し遠くから通おうか。大学に1時間ぐらいで着ければ、もう少し広くて安い部屋があるかもしれない。」
「バイトはどうするの?」
「バイト...どうしようか。」
「......やっぱり、我慢する。バイトを辞めてまで引っ越すのは嫌。」
「好きなんだね。コミュニティ紙のバイト。」
「私の天職...かな。バイトなのに、記事を書かせてくれるし、アドバイスももらえる。読んで喜んでくれる人がいるから、ずっと続けたい。」
「当分は二馬力...年間200万ぐらいしか稼げないね。」
「まだ学生だもん。200万円稼いでも、手元に残るのは20万円ぐらい。二人で大学に行きながらお金をもらってるから、あまり文句は言えない。」
やがて、就職活動の時期。しかし、僕は就職試験にことごとく落ちていた。はぁ、大卒で就職率が80%ないって、5人に1人は無職だもんな。たまたま僕がそうなってるのか。
「焦ってる?」
「そりゃあ、焦るよ。君の両親にデカいことを言った手前、僕は僕で君を支え続ける必要がある。今のバイトだっていつまで続くか分からないし、どうしようかなって。」
「......ひとつね、夢があるの。笑わない?」
「笑うわけないよ。」
「二人で、小さな喫茶店をしない?私達の思い出の場所で。」
「...宇都宮に戻るの?しかも、喫茶店を始めるにも資金がないよ?」
「私は当たるとは思わないけど、細々とやっていくぐらいには、お客さんがいるんじゃないかなって。それに、おしゃれなカフェじゃなくて、喫茶店。ここにあるマンガを全部お店に並べるの。」
「えっ、マンガ喫茶じゃなくて?」
「う~ん、なんというか、好きな人が集まって話す場所...、コミュニティスペースって言えばいいのかな。本当に小さな街の喫茶店。常連さんが毎日のように通ってくれるような場所。朝ごはんも、夕飯も出して上げるの。」
「それって...食堂じゃん。で、お年寄りは友人を連れて1日中おしゃべりをするって。」
「そうそう、素敵な場所に出来ると思うんだ。」
相変わらず突拍子もないことを言う。でも、果たしてそんなことが出来るのだろうか。やる前から分かる。収支バランスは確実に赤。そして完全に夢敗れる結果しか見えなかった。素人でも分かる。経済学部の授業も役に立つもんだ。
「......やりたいというなら、僕は協力するとしか言えない。君の夢はすごくいいと思うし、どこかでそういう体験をしたから僕に話してくれたのだと思ってる。でもね、共倒れになる未来が見える。だからさ、」
彼女のおでこに僕のおでこをくっつけて、目を見るように話した。
「その夢は、ずっと先に取っておこう。いつか、都会の暮らしに疲れたときに、それまで貯めた開業資金をそこで使って、ゆっくりとやっていこう。」
「すぐに出来ないのは分かる。でも、いつかはやってみたい。」
「君のワガママは今に始まったことじゃないし、これから生まれてくると思う子を育てなきゃいけない。その後に叶える夢なら、僕は賛成する。あ、でも喫茶店の店主は君ね。」
「こういうとき、カッコよく責任を取るって言ってくれたら、私も安心出来るのに。」
「それはだめ。夢には責任を伴う。君が言った夢だから、君が責任を持つんだ。僕はその責任を一緒に背負う。たぶん、君とはもっと喧嘩が増えるし、それがきっかけで終わりになっちゃうかもしれない。でも、いつものように最後に僕がワガママを許して、甘えてしまうのは君だと思う。その分だけ君を守って、支えるのが役目かな。ま、支えるための仕事が決まらない今、僕が何を言っても説得力はないけど。」
「ううん、そんなに先の話をしてくれるとは思ってなかった。慎ましく暮らして、いつかその夢を叶える。」
「いつになるのかな...。ま、僕は家族揃ってで楽しく生きていけたらそれでいいと思ってるよ。」
「家族...そっか、私達だけじゃなくて、子供が生まれたら、二人だけで楽しくってことは出来ないね。」
「それは...夫婦の時間というか...まさか、大家族になるとは思っていないけど。」
「ふふっ、それもいいね。」
おでこを離した彼女は、満足したように僕に微笑んだ。
「でも、あと1年経ったら、叶う夢があるね。」
「知ってる。僕は、急がなくてもいいと思ってるけど。」
「気持ちが冷めてからじゃダメだよ。でもね、結婚式はしないの。そのお金も、次の夢に使いたい。」
「次の夢って...。子供を生んで、育てて、喫茶店を開いて...分かってるだけでもう3つあるよ。」
「君が隣にいてくれるから、叶えられる夢だよ。私は、このまま初恋の君と一緒にたくさんの夢を叶えて、生涯君と夢を叶え続けるの。」
「......相変わらず、可愛いことを言うんだから。僕は君と一緒にいられるだけで、夢のようなんだけどなぁ。」
つづく




