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Life 138.6 ただのおしゃべり(2/2)

僕と娘は、僕の中学二年のときのおしゃべり友達...、元美術部と元演劇部の二人と、野木町唯一のファミレスで話を続けていた。

妻と娘が同一人物であることを避けて、彼女達の過去を話した...はずだったのに、何か違う話になってきていた。


元演劇部の友人が、話を続ける。

「あ、でもその頃、私はまだ役者でずっとお芝居の勉強をしてたから、しっかりしてたかもね。旦那とも同棲してたし。」

「え~と、23歳だっけ?私はその頃は社会人になって、今の仕事をしてたかな。あれ、話したことあったっけ?」

「ああ、前の結婚相手が勤めてたっていう。」

「それは結構先かな。出来婚だったし。29歳だからね。」

「え、出来婚だったの?」

「そっか、二人で会う時も多いのに、言ってなかったね。息子は前の旦那と付き合ってたときにエッチして出来ちゃったんだ。出来婚だったから、結婚式もしてないけど、すぐに離婚してるしね。」

「......で、23歳のときは?」

「ごめんね、娘ちゃん。お姉さんこんな感じで。」

「大丈夫です。なんか、オトーサンが三人になって話してる感覚になります。」

「でも、こんなにポンポンと話を被せないよね?」

「おねえちゃんもそうですけど、私達は全員受け身なので。」

「......で、また話を戻すけど、23歳のときは?」

「あ、ごめん。そうだったね。私が23歳のときは大学を出て、こっちで働き始めた頃だね。何にも知らないし、何にも出来なかった時代。そういう君は?」

「僕は就職浪人だったけど、すでに管理側の仕事をやってたりした。適当な個人経営の学習塾だったけどさ、3つぐらいある教室のシフトとか、営業のビラ配りとか、あんなの意味があるのか分からなかったよ。」

「あれ、オトーサンってそんなことまでやってたの?」

「成り行きでね。バイトしてたら、なんか気に入られてさ、家電量販店で接客をしてたこともあって、保護者対応とかもやってた。個人の成績表を引っ張り出して、あーだこーだ言ってくる保護者を撃退する。今はどうか分からないけど、学習塾って成績が上がらなければ、怒鳴り込んでくる保護者も多いし、生徒は...まあ、今の年齢になって気づくけど、些細な言葉に傷つきやすい。親に怒られたことがない子もいれば、親に怒られすぎて単純に怒られることに嫌気が差す子もいる。さらにその子の成績の話に黙っていてもダメ、だからと言って何が出来ないのかを説明するのも怒られていることに同義らしくダメ。あの頃は、僕も自分自身の中で基準がよく分からなかったから、結局クレームが入れば僕の責任になる。」

「へぇ~、軽口でも、営業トークでも通用しない世界ってことか。そういう意味で、一人になりきる演劇と、どっちが難しかっただろう。」

「君の演技のほうがよほど難しいよ。でも、アドリブ力があればって思うことは多々あった。今なら対応出来るけど、昔はね。」

「それがオトーサンがよく言う......」

「言い訳みたいなものだから、その先が続かないよね。これはアドリブ。決して、その先を見据えた話はしていない。」

「私達の会話って、全部アドリブ、全部軽口、思ったことが噛み合うから面白いのかもね。」

「雑談をそこまで考えることがなかったから、聞いてて面白いよ。さすが、1子の父。」

「馬鹿にしてくれちゃって...。親として思うことだけど、君が求めているクリエイティビティってやつは、その呼び名に対して大したことがないもの。言い換えれば、ブレる部分があったらダメなものなんだ。」

「あ、だから、最後にたどり着く先にあの仕事があるって考えろって言ってるんだ。」

「......23歳?こんなに小難しいことを聞いて、私もよく分からないよ。演劇もクリエイティブな仕事だと思うけど。」

「演劇のことには詳しくないけど、演技の幅はあっても、演技にブレが生じる俳優を、監督は使うだろうか?凝り固まった意見だけど、TVで見る俳優さんは、演技指導は受けていても、演技のブレ...例えば、役になりきるようなことは当然として、その役が見てる僕たちには、その人としか思えないように立ち振る舞う。しかし、どこかで演技が演技に見えなくなる瞬間があったら、それだけでリアリティが下がる。そういう演技を求めた監督がいたとしたらば、一概に俳優の責任とは言えないけど、ブレが生じる瞬間というのは、どこかで意図を汲み取れない結果、起こるものだと考える。そこをカバーするのがアドリブだったり、俳優の個性だったり。」

「う~ん、言ってることは分かるんだけどなぁ。色々さ、しがらみだったり、エゴの使い方だったり、演劇の世界もあるんだよ。」

「だから正論をぶつけてみた。でも、演技に芯が通っていれば、少なくともそのブレ幅は小さい。器用に出来る俳優はそれが出来るから、何者にもなれると思ってる。」

「引退した身としては、それが足りなかったのかもって思っちゃう正論だね。それだけで演技は出来ないから、私は演劇を辞めたんだけどね。」

「僕が今口にしたのは、言葉の暴力だよ。ごめん、何も知らないのにね。」

「ま、理想は高くってね。別視点もわかったし、何事も無駄な経験はないってことだよ。」

「......なんか、私は本当に母親しかしてないんだなぁって、今の話を聞いて思っちゃった。」

「今が幸せなら、それ以上のことはないと思う。君も色々苦労してるし、立派に乗り越えてきたでしょ?あの人よりずっと母親だよ。」

「甘えたくなった?」

「甘えるぐらいなら話に付き合って欲しいかな。」

「オトーサンっぽい言い方。なんか、口説き文句みたいだよね。」

「娘ちゃんの年齢だと、これぐらいでも落ちちゃう女の子はいたりするんだよ。気をつけなよ。」

「この娘にそれはないから安心する。自覚があれば、いくらでも男性を引っ掛けることが出来るのにね。」

「一応私の親なんでしょ?それを娘に言うなよw」

「親目線での感想だよ。心配するけど、今の君ならナンパぐらいじゃ落ちないって知ってるから。」

「この会話の軽さだよね。本気なのか、おだてなのか、全く分からないまま淡々と話す。」

「だから三人の会話は、変に噛み合う時がある。自然と役割分担がはっきりしてる。不思議だよね。」

「意識してないもんね。」

「意識する必要がないんだよ。それに、男一人に女性が3人、一人は明らかに娘と思しきおしゃべりなテーブル。端から見たら、変な構図だよ。」


「お二人は、仕事ってどうやって選んだんですか?」

「私のほうが簡単かな。役者を辞める前に、将来は今の夫と暮らすって決めてた。その頃は同棲もしてたし、私だけが役者を続けてたけど、あの時代だから許されてた感じはあるのかもね。その代わり、将来の話はすごくした。そのうえで、夫は『趣味に使うお金は自分で稼ぐ』って明確なルールを決めてくれたんだ。だから、仕事は自ずと自由にシフトが組めそうな場所...一応派遣みたいなものなのかな。事務仕事が中心だよ。」

「オトーサンとあまり変わらない感じですか?」

「僕は働かないと、君たちの生活が成り立たない程度には負担があるよ。水道光熱費、通信代もそう。Amazon Primeなんかも僕が負担してるでしょ?」

「あ、そうか。なにげにおねえちゃんは家賃と食費だけなのか。」

「食費は思いっきり手を抜いてるから。今の物価高で厳しいのが本音だよ。最終的に出前に頼るのも、日によっては効率が悪いと感じるからだね。僕らは2日カレーでもいいけど、あの人はそれを許さないじゃん。」

「私達、案外そこは雑食だしね。」

「はいはーい。母親としては見逃せないよ。娘ちゃんも今はいいけど、将来は大変になるよ。ま、それはいいとして、私も就職出来たところにそのまま入った感じかな。そのままずっと勤めてるから、なにげに勤続20年だね。」

「あれ?育休とかは?」

「あ、そうか、あなたに話したことなかったっけ。前の夫とは離婚してる。息子が1歳の時ね。でも、実質的には結婚生活は1年ぐらいだったかな。前の夫はね、子供が生まれても育児には参加しないし、子供を認知してくれなかったの。離婚するときは、親権が私、一生子供に会わないで欲しいってお願いだけした。不倫でもなかったし、養育費も...今考えたら、もらっておけばよかったかな。」

うまく誤魔化してるけど、彼女の前の夫も、彼女だけを愛していただけだったんだよな。性的DVと言いながら、彼女も女であることをやめられなかったから、どこか子供に対するけじめを付けたのだろう。

「あれ、ちょっと気になったんだけど、その前の旦那さんって、そのあとどうしたの?」

「彼が会社を辞めた。あの人も、すごく真面目で誠実な人だった。離婚した原因が子供に関することだったから、さすがに責任を感じたんじゃないかな。」

「今の話を聞いてると不思議だよね。すごくいい旦那さんに聞こえる。」

「その...う~ん、彼は男女の関係を求めてたけど、私は親子として息子を育てるべきだと思った。でも、あの頃は彼に身体を求められても嫌じゃない自分だった。私に両立は無理だと思ったから、夫とは別れることにした。」

「......難しいですね。職場恋愛すると、そういうところも考えないといけないですよね。」

「そうだね。娘ちゃんはあんまり興味がないと思うけど、若いうちは盲目になりがちだよ。あの人も、似たような年齢で、もっと酷い別れ方をしてるよね?」

「してるかな。ま、その経験もそうだけど、今の娘の学費がその経験に対する対価って言ってるぐらいだし、過ぎた火遊びみたいなものだって。」

「あ、その言い回し、これから使ってみよう。でね、そのままシングルマザーだったけど、私は実家に帰れたから、仕事も辞めずに済んだし、母親が専業主婦やれてた時代の人だったから、子育てもガッツリ手伝ってもらえて、食費だけで住まわせてもらえたことが一番大きかったかな。おかげで、今の夫とも再婚出来たし、息子は夫と悪巧みをする年齢にもなった。案外、長く働くっていいことだよ。」

「なかなか波乱万丈な気がする。意外な話が聞けた。へぇ~。今も旦那さんと夜な夜なしてるんだっけ?」

「前々から夫に応えるように行為自体はしてたんだよ。でも、私もこの年齢でエッチして、まだ女として求められてることがうれしいことが分かっちゃった。息子もある程度大きくなったし、多分私達がやってることも分かると思う。」

「ふ~ん、僕には想像出来ない世界だな。あの両親の関係を知ってるし、僕が息子さんの年齢の頃って、もう家庭内別居みたいになってたしね。」

「え、あの二人って、そういう感じだったの?」

「そりゃ孫の前では仲良くしてるよ。昔は仮面夫婦みたいな感じだったし、なんだかんだで世間体も、経済的負担も怖くて離婚出来なかったってのが本音らしいからね。オカンに聞いてみたら?」

「やめとく。それはそうと、なんで長く勤められてるんですか?」

「う~ん、一つは事情を知っている人がまだ少しいるってことだね。夫と同じ職場っていうのも大きいかな。もっとも、私とは仕事中は真面目に仕事の話をするし、お互いに家を出る時間と帰る時間が違うから、同一人物には感じないんだけど、切磋琢磨しているって気持ちになれる。あとは待遇と関係性だよ。娘ちゃんの『おねえちゃん』が部長になったみたいに、私も一応総務の仕事をずっとやってるから、それなりのお金をもらってるし、それなりに会社には顔を知られてる。頼りにされてると、自然とモチベーションも上がってくるよ。」

「あ、確かにモチベーションの維持は重要かもね。私も趣味のためのお金だと思えば働けるし、娘ちゃんの両親...両親でいい?」

「なんで許可を求めるの?」

「だって、恋人と本妻でしょ?」

「大丈夫ですよ。変に気を使われなくても、どうせバレてますし。」

「大人で助かるよ。両親は両親で、しっかりと役割分担して働いてる。君はどうだか知らないけど、彼女は休日出勤して、どうせまたグループLINEで連絡してくる。ストレスが溜まっても、モチベーションが維持出来れば問題なかったりすると思う。そのために...ねぇ。」

「いやいやじゃないし、あの人に求められる限りは頑張る...つもりでいる。どちらかと言えば、僕があの人の後輩まで面倒を見ているあたりが問題ではあるけどね。」

「ちょくちょく話をする子だね。娘ちゃんと仲良しなんだし、娘ちゃんよりも危なっかしいって聞いてるよ。」

「そうなんですよねぇ。う~ん、なんか、残念な美人というか。あ、別に何か問題があるような人じゃないですよ。寝起きが最悪なだけで。」

「それって問題だと思うけど。娘ちゃんが問題じゃないって言うなら、君も面倒を見てあげていいと思うよ。しかし、そんなに会社の先輩の家に入り浸る後輩なんて、聞いたことないけどね。」

「僕もそんなに動じないし、あの人もああ見えて姐御肌なところがあるからさ。それに、本人達が楽しそうにしている。夫として、それぐらいはかぶろうかなって思ってるだけだよ。」

「カッコいいね。昔の君はそういう面倒事が好きじゃなかったはずだけど?」

「分かったのはここ1年ぐらいだよ。あの子が妻に懐いて、この娘と仲良くなって、それから僕もそう思えるようになった。」

「お父様って呼ばれてるんだよねw」

「はぁ~。いいオチが付いて助かるね。やっぱり、なんかそういう響きに弱いんだよ、君は。やっぱりラノベ主人公だよ。」



相変わらず、三人で集まると無意味に話してるって感じがする。5月ともなれば日も長いというのに、真っ暗だ。

「あ、旦那が迎えに来るって。三人はどうする?」

「私は帰るね。夫と息子に心配掛けたくないしね。」

「僕らは歩いて帰るよ。どうせ15分も歩けばつく距離だしね。」

「でも、この辺真っ暗なんですよね。駅前なのに...。」

「駅前通りだけど、東口はロードサイドというか...。」

「スーパーとかドラックストアとかはたくさんあるよ。でも、車がないと大変だよね。あ、すぐそこにクラモチがあるね。」

「西口に出ればすぐにセブンイレブンがあるし、夜食やお菓子を買うぐらいならそこで十分だよ。」

「あれ?東京に帰らないの?」

「明日は僕も休みをもらってる。この娘ともう一日、実家に世話になるよ。なにかあってもリモートワーク出来る機材があるしね。」

「ははーん、それで、さっき私に休みの話を振ったわけか。一緒にアウトレットいく?」

「いかないし、それじゃなくても、二人のどっちかがグループLINEに話を入れれば、休日出勤の人が事細かに聞くだろうし。明日は早々に東京へ帰るよ。」

「おねえちゃんは私達の保護者ですけど、私達もおねえちゃんの保護者です。今日は飲んだくれて、どうせ裸になって寝てると思いますよ。」

「......本妻をああ言い切ってしまう愛人、そばにいてもいいの?」

「愛人ではないよ。この娘は立派に僕の娘だって言える。僕とこの娘にとって、自宅での妻の行動はだいたい分かるし、ほぼ間違うことはないよ。聞いてみたらいい。」

「そうなんだよね。彼女、お風呂からビデオ通話してくるし、案外そういうところは緩いよね。やっぱり家族でも言うことは聞かないんだね。」

「若いんじゃない?ここにいる誰よりも見た目が若いよ。」

「言えてますね。私より幼い感じですもんね。」

「娘ちゃんが言っちゃダメだよ。まったく、可愛いんだから。」

「ま、それぐらいにしておこう。立ち話で君の旦那さんを待たせるのも良くない。今日はお開きにしよう。」

「やっぱり、喋り始めちゃダメだね。」

「お互いさまだよ。三つ子の魂、百までってね。私達は、もう43まで来ちゃってるけど、あと57年は変わらないって。」

「先は長いな...。でも、茶飲み話で色々出来るといいね。」



街灯ですら消えている。東京駅から80分。駅前通りというのに、畑があるのが、この街ののどかなところだと思う。

「あのさ、オトーサン?」

「ん?どうしたの?」

「結局、何の話だったのかな?」

「意味のない話だよ。話すだけで満足感を得るだけの話。それで十分だよ。」

「私は......本当になんだったんだっけ?」

「それでいいんだ。無駄なことの積み重ねが、何かの役に立つかもしれない。身を持って君がここ数年で体験したことだよ。」

「あ、そういうことなんだ。なんか、無駄なことって、意外とないんだね。」



そう思ってもらわないと、僕の人生って全否定されちゃうからなぁ。



つづく。

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