Life 138.1 ただのおしゃべり(1/2)
「元気そうで良かったよ。あの時の写真見て、襲われたんじゃないかと思ったぐらいだったし。」
「そうだね。顔も声も、表情も変わってない。なんか、顔が歪んでたもんね。あ、メガネが違うか。」
「...気軽に言ってくれるよね。でも、ありがとう。二人なら、別に返事をしなくても、こうやって会えばいいかなって思ってたからさ。」
用事で実家に帰ってきた。今日は娘を連れて、中学の友人とファミレストークだ。しかし、野木町唯一ってぐらいのファミレスだから、相変わらずすごい混んでるんだよなぁ。
「久しぶりに会ったけど、娘ちゃん、大人っぽくなったね。」
「そうですか?私は何も変わってない気がします。」
「彼女とはまた違うような空気があるよね。う~ん、なんというか、笑ってて欲しいって思わせる空気。」
「全然褒めてない気がするよ?」
「ほら、ニコニコしててくれないと、なんか違和感を感じる子がいるじゃん。娘ちゃんはそういう子。表情が曇ったら、君が察して上げなきゃ駄目だよ。」
「...そんなに笑ってますか?」
「笑ってて欲しいって思っちゃうのかな。親目線だけど、この子が笑わなくなったら、真剣に考えちゃう。そう思わせてる。」
「...最近は難しい顔をするようになったんだよ。この子は少し自信がない状態らしい。でも、自分で乗り越えなきゃいけないこと。」
そう言いながら、娘の頭を撫でてあげた。なんか、久しぶりだったな。
「心配はしてない。もともとしっかりしてて、手のかからない娘だったし、今は僕らのバランスをしっかり取れる...ほら、僕も、あの人も、ちょっと甘いところがあるし、この娘がそこをしっかりと締めてくれる。」
「言ってたね。アル中にならないのは、娘ちゃんのおかげだって。」
「あの頃のおねえちゃんは、少しだけ荒れてたんだよね。私達に弱みを見せられないって思ってた時期だったから。」
「ま、それにスキあらばお酒はあるだけ飲む。そういうわけで、この娘が厳重に管理してる。1日500mlってね。」
「おかげで、完全無欠のパーフェクトボディが出来るわけだ。すごいんでしょ?」
「なんか、本人は子供っぽいって言うけど、普通じゃないと思うよ。」
「普通じゃないよ。それに、顔を見ると、毎回のように可愛い素振りをするし。私達と同級生なのを忘れるぐらい。今、娘ちゃんと話しているほうが、ずっとリアリティがある。」
「でも、最近の20代はこんなに可愛いんだよね。お姉さん、娘ちゃんの言う事ならなんでも聞いてあげるよ。」
「えへへ、ありがとうございます。」
僕ら3人、男女でありながら、ただ話すだけの関係。二人はどうだか知らないけど、僕は好き。今は3人とも家庭があるし、家族もいる。
3人で集まるようになったのは、ここ1年の話。
「それにしても、君がちゃんと親の顔になってるの、見てて面白いね。」
彼女は美術部だったが、サボりで会話に加わっていた。今は年下の旦那さんに、中学生の息子さんがいる。一度離婚を経験しているせいもあり、落ち着いている。
「確かに。私達の中で、一番何考えてるか分からなかったもんね。」
彼女は演劇部だった。僕とは趣味が合ったし、電話ではちょくちょく話していた。今は旦那さんと二人暮らし。自主制作映画の主演になったこともあったが、すっぱり引退して趣味に没頭している。
「今も何を考えてるか分からないです。でも、私のオトーサンですから。」
娘は今の二人と、当時の二人を覚えている数少ない存在。不思議なことに、中学時代にほぼ面識はない。うちの奥様は完全にないと言っていたけど、この娘にとっては10年経っていない記憶だから分かったのだろう。
「残念だよ。彼女とも会えるかなと思ってたのにね。」
「そう言われてもなぁ。僕の妻は今日仕事してる。それに、この娘は僕の両親が可愛がってるからさ、余裕があるうちに会わせておこうと思ってさ。」
「...親孝行ってやつ?」
「私が会いたいだけかも。おねえちゃんと同じで、私もおねえちゃんしか血の繋がりがある人間がいないから、オトーサンの両親は自分の両親みたいに思えるんです。それに、両親はもういないですから、今生きてる親しい人と楽しく生きて、最後を見届けたい。そう思ってるんです。」
「二人がしっかり親をしてないからじゃないの?」
「それもあるかもなぁ。母親が倒れたときに、本来は僕が会社を休んででも看病すべきだったけど、この娘が大学の講義がほぼないからって、所属しているゼミに断りを入れて、1か月ぐらい付き添ってくれた。子供として見られなくなったってのもあるよね。」
「君の両親も、君に看病されるより、娘ちゃんが看病してくれたほうが嬉しかったんでしょ。話してて分かるけどさ、娘ちゃんはすごくポジティブな話ばかり出来るし、どこか君と相反するような存在だと感じる。彼女も私達に弱気な面も見せてるけど、娘ちゃんは相談するときも前向き。だから、解決してあげたいって思うかな。」
「一緒に私も考えてあげてる。なかなかおもしろいことを相談してくるから、娘ちゃんは面白いよ。」
「言わないでくださいって。私もオトーサンとか、おねえちゃんに相談出来ないから、二人に相談してるんです。」
「そうなんだ。完全に行き詰まって来て、私達に相談してるんじゃないんだ。」
「私達に相談してくる時の内容、案外聞いてないよね?適当に答えてる?」
「そんなことない。娘ちゃん、私は真剣に答えてるよ...、その時は。」
「...覚えてないわけだ。三人とも、ごめんね。僕が解決できないばっかりに。」
「君が解決出来ないようなことだよ。娘ちゃんは女の子。君は男だから、分からないことばっかりだと思うよ、ね。」
「はい...、二人に相談すると、オトーサンがおしゃべりに夢中になるってよく分かる。」
「あ、楽しいんだ。私達も嬉しいなぁ。いや~、やっぱり、血がつながってないとはいえ、君の娘だよ。」
「私、同級生からオトーサンになりたいんだって言われてます。オトーサンみたいじゃなくて、オトーサンになりたいって。」
「パパっ子で、結婚したいって言うのは...あ、結婚したいのは今もかな?」
「私の恋人ですから。オトーサンはいつまでも私の父親役だけど、私は少なくとも恋人だと思ってます。」
「前々から気になってたけど、オトーサンと呼ばせてるようにしか見えないよね。昔は援交、今はパパ活、言葉は変わっても、禁断の愛というか。」
「結局、妻とは戸籍上の話であって、僕らはあんまり意識してないところが問題なのかもしれない。そうは言っても、この娘に見捨てられるようなことがあったら、多分社会的に抹殺される時だよ。」
「今も実質的な公認愛人みたいなものだよ。現実には問題になりそうだけど、娘ちゃんの場合は姉にも恵まれたというか...、もう、どっちが姉だか分からないけど。」
「老いてますますって言う言葉があるけど、少なくとも僕が知ってるこの3年で、あの人は明らかに若返っている。見た目が少しずつ幼くなってきている。それでいて口汚く罵ることもするけど、最近は人事部長としての発言もだんだんと出来るようになってる。末恐ろしいよ。」
「ラノベみたいな生活って話してるけど、異世界転生しないだけマシなのかな。」
「二人に話したことあったっけ?この娘とあの人が巻き込まれた『事件』の話。」
「聞いたことないかも。娘ちゃんがいいなら、教えて欲しいな。」
「私も興味ある。誰にも話さないし、多分信じてもらえないだろうから聞きたい。」
僕は、娘の許可を取った上で、娘と妻が神隠しにあった話、そして二人が両親を神隠しでなくした話、妻が自分で一度死んでいると言っている話、そして妻の見た目が退化もしない話をした。この娘がタイムスリップして、妻と同一人物であることは隠したまま。だけど、この話で察しが付いてしまうのではないか?という懸念はあった。しかし、杞憂に終わった。
「興味深い話...で片付けるわけにもいかないか。」
「そっか、なんか納得した。彼女と最初に会った時も、娘ちゃんと初めて会った時も、おかしなぐらいに雰囲気も見た目もそっくりだった。けど、娘ちゃんだけが大人になってるのが不思議だったんだ。」
「僕も信じられないけど、ここ3年で彼女は見た目もさることながら、体型の変化も体重の増減もほぼない。グラム単位での増減だって。さすがに内蔵は年相応らしいけど、一方で身体能力は向上し続けている。本人が言わないだけで、週に3回ぐらいは10キロのランニングをして、未だに新記録を出すレベル。」
「ランニングでは未だに私と大差がつきますし、最近は水泳もしています。少し付け加えると、胸のサイズは30日周期ぐらいで変わってるみたいです。下着は2サイズ持ってます。」
「ありえない...と感じるけど、実際に会うと実感出来ちゃうもんね。今の彼女は娘ちゃんより少女って感じがするもん。」
「君が音を上げてるのって、その運動をした後に、さらに求められてるからってわけ?」
「う~ん、トレーニングがない時が多いのかな?トレーニングして帰ってくると、だいたい二人でお風呂に入ってるもんね。」
「おねえちゃんはケロリとして、そのままお風呂に入ると思えば、私に絡んでくることもあります。性欲もすごいですけど、本人曰く、仕事での反動が大きいって言ってます。」
「ストレスのはけ口が本来トレーニングだったはずなのに、責任が重くなって、性欲まで溜まるようになっちゃったのかな。なんか、想像出来ない話。」
「あれ、私は今でも時々夫とエッチしてるけど、全然しないの?」
「私達は全然興味がない。性欲よりも、知的欲求のほうが強いと思う。前にも話したけど、うちの旦那は私ともう20年以上の付き合いになってるし、どちらかと言うと男女の関係じゃなくて、相方って言うのがあってるのかな。平日はほぼ毎日手料理を振る舞って、旦那も喜んでくれる。でも、その後は自由行動で、翌朝、朝食を取るまではあまり一緒にいることはない。休日は知っての通り、二人で旅行にも行くし、リビングでなんやかんや言いながら二人で映画なり演劇なりを見る。生活で喧嘩はしないけど、趣味で喧嘩はする。喧嘩というよりは主張かな。私達は二人揃って演劇畑の人間だけど、見ているところが違うから意見で対立する。でもその時だけで、結局二人で笑って終わり。」
「3か月に1回、旅行話を聞いてた頃が懐かしいね。あれ、今日はいいの?」
「今日も旦那は私の実家にいる。旅行みたいなものだよ。私はパートだし、旦那は明日有給で休みだから、明日は佐野のアウトレットでも行ってみようかな。平日だったら混まないしね。」
「そういう関係が少しだけ羨ましく思える。でも、僕の妻は、ああいうところがあるから愛おしく思えるのかなって。」
「愛嬌って意味では、娘ちゃんのほうがあるよね。彼女は引っ張るタイプ、娘ちゃんは愛されるタイプかな。」
「そうなんですか?三人で暮らしていると、私が引っ張って、二人は甘えてる感じですけど。」
「しっかりしてるもん。自分が娘ちゃんぐらいのときって、こんなにしっかりしてたかな?って。」
つづく




