Life 137 今更不思議な関係に巻き込まれている
「おかえり......え、3人?」
「お久しぶりです。以前、お世話になりました。」
驚いたな。妻が後輩を二人連れてきた。ということは、僕は今日、布団ですら寝られないってことか。あれ、でも娘とあの子はともかく、彼女はどうするんだろう。一緒のベッドで寝るのかな?
「お父様、只今戻りました。」
「お母様にちゃんと断ってきた?」
「はい、ちゃんとOKもらってますよ。ね、お姉さん。」
「う~ん、お母様に、色々頼まれちゃってるのよね。それにパジャマも下着もあるし。」
「へぇ~、あなたってそんなに先輩の家に来てるんだ。」
「なんか、成り行きというか...。」
「うちの娘の親友だからね。あ、君は何か夕飯のリクエストある?」
「え、いいんですか?じゃあ、私はハンバーグが食べたいです。」
ハンバーグ?そんな注文された覚えは過去にあっただろうか、う~ん。
「買い出し、行ってくるわよ?何か必要?」
「ひき肉とか、パン粉とか、卵とか。」
「えっ、ハンバーグはなしでいいです。何か買ってきます、お父さん。」
「だって、お父さん?」
あんまり言われたことなかったからドキッとしてしまった。お父さんって。
「ま、いいや、あなたに任せる。」
「私も行きます。あなたはゆっくりしてていいよ。それに、娘さんも帰って来るでしょうし。」
「そうですね。お手数をおかけしますが、私はお父様をお手伝いします。」
バタン
「なんか...すみません。」
「君が謝ることじゃないとは思うけど...。う~ん、ベッドは4人で寝てもらう感じだけど、いい?」
「いつも言ってますけど、私がお布団で寝ますから。お父様はベッドで寝てください。」
「いやいや、そっちのほうが無理。だって、僕の匂いとか、あの人の匂いとか...。」
「あっ...。そうですよね...。ごめんなさい。」
想像しちゃったのかな。きれいな顔をしてるのに、可愛い表情しちゃうあたりがまだ大人になりきれない感じかな。いや、それより彼女と僕が二人きりでOKなのか...。信用されてる?
「あの、お父様?」
「ん?どうしたの?」
「私、明日、新卒面接の面接官をやることになりまして。」
「あれ?それは人事部の指示?」
「お姉さんと部長補佐から指示が出ました。今日は先輩がやっていたんですが、どうも私達がローテーションで担当するようです。」
「若い人の感性ってやつか。二人とも僕と同じ世代だしね。」
「教えて欲しいのですが、先輩は履歴書に関して質問していたそうですけど、私も同じでいいんでしょうか?」
「違う会社の話を僕がするわけにいかないけど...う~ん。」
やっぱりあの娘とは少し感覚が違うというか、マイペースなのか、よく分からないことだけはわかる。
「僕も面接官なんてやったことないから分からないけど、とりあえず嘘がなければ、それでいいんじゃないかな。」
「嘘を書く人がいるんですか?」
「少なくとも盛る人間はいる。だから、気になったところは聞いてみる。」
「盛る人間...あ、今日お姉さん達が面接していた人たち、履歴書に突っ込んだら、答えられなかったって。」
「必死なんだよ。あの娘と違って、本当に新卒の人は何を書いていいか分からない。就職参考書を読んでも、全く分からないと思うんだ。」
「そうなんですか?私は大学できちんと対策してもらいましたよ?」
「時代の流れかな。まあ、是非はともかくとして、部長さんたちの話を聞いていくうちに、自ずと聞くべきポイントは分かってくると思う。それに、彼がいるんだろう?」
「部長補佐ですか?」
「彼がいる限り、君たちの会社の人事は問題ないと思うよ。あの人の立場と使い方には、夫として異議があるけどね。」
「......こういう時に、言葉に詰まりますね。」
「君が考えることじゃないよ。そのおかげで僕らは生活出来るし、君を泊めてあげられる。それで十分だよ。」
「...すみません。でも、ありがとうございます。参考になりました。」
「大丈夫、そんなに気を吐く必要はないよ。上司が頑張ってくれるし、空気に馴染むだけでも十分だと思うよ。」
「はい...。ところで、私と二人きりでいいんでしょうか?」
「...それは僕も思ったけど。取って食べるようなことはしないよ。」
「ただいま~っと、あれ?」
「お久しぶりです。妹さん。」
「あの...今日って平日ですよね?お泊り?」
「???なんか変ですか?」
「別に変って訳じゃないんですけど...。」
「おかえりなさい、おねえちゃん。」
「うん、ただいま。でも、二人揃ってこの家に来たことってあったっけ?」
「多分ないわね。それに...。」
「何回か会ってますけど、初めて先輩の家に来たんです。ちょっとだけわがまま言ってみました。」
「で、オトーサンは?」
「お風呂に入って、お風呂掃除して、今は湯船のくみなおしじゃないかしら。さすがに4人も女性がいると、居場所にも困るでしょうよ。」
「あのさ、おねえちゃんが止めるべきじゃないの?しかも、今日寝るところはどうするの?」
「あの人は布団だって。で、アンタたちはベッドでいいんじゃない。私はあの人に添い寝。さすがに今日は失態をしないわよ。」
「...お姉さん、別に気にしませんよ。最後にお風呂に入って、お父様と仲良くしてください。」
「彼女が来ても、夫婦の時間は大事にしてるんですね。先輩の若さの秘訣ですね。」
「...先輩さん、少し性格変わりました?」
「...だいぶ前向きになれたと思います。社内だと、私は先輩の娘ですから。」
「こんなに可愛い後輩が娘になってくれたら、私はもっと頑張れるのになぁ。」
「後輩さん、この人は明日から部長職を辞職するので、上司の方にお伝えしてください。」
「おねえちゃんは自分の姉を社会的に抹殺するんですね。なんか、恐ろしいです。」
「誰のおかげでご飯が食べられてるのかな?誰のおかげで大学生でいられるのかな?」
「くっ...、卑怯者め。まさか、本当に娘になったってこと?」
「違いますよ。毎日、断ってます。私も両親の娘でいられるうちは、娘でいたいと思ってますから。」
「なんだか...わかるようで分からない話ね...。」
「......そういうつもりじゃなかったんです。ごめんなさい。」
「いえ、私も先輩と同じ気持ちですから。お母さんの娘でいられるうちは、私もまだ娘です。」
「ああ、私達のことは気にしないで。すでに妻と恋人だから。」
「私は娘なんだけどなぁ。娘と恋人。」
「...相変わらず恋人って言ってるんですね。結婚してるのに。」
「あら、妻だからといって、恋人とは限らないのよ。あの人は特にそう。」
「おねえちゃんだけじゃないの?オトーサンは多分奥さんだと思ってるよ。」
今日って木曜日だったっけ?まあ、僕はどうせ会社でなんにもやってないからどうでもいいんだけど、3人は明日も出社、娘も何かしら予定があるのだと思う。そう言えば、親とはいえ、この娘の予定ってあまり聞いたことなかったりするな。昔は聞いてたけど、大学生になって、三人で住むようになってから、あんまり予定の把握はしてないんだよなぁ。ま、それで僕もふらっと適当に出かけられるんだけどね。
「なんか、そろそろ布団をもう一つ買おうか迷うわね。」
「あれ?あなたの布団とかないの?」
「3年住んでて、ないのを知ってるでしょ?あれば、あなたをこたつで寝かせるようなことはしないわよ。」
「そう言えばこたつがありますね。先輩、もうすぐ真夏じゃないですか。」
「やっぱりそう思うわよね。でも、ここは年中無休でこたつなのよ。さすがに電源は入れないけど、エアコンの冷え防止みたいなところもあるし、何よりゴロゴロしててそのまま眠れちゃうから意外と便利よ。」
「へぇ~。あんまり思いつかないですけど。」
「確かお父様が発案されたと聞いていますけど。」
「誰から聞いたのか知らないけど...。まあ、そのとおりかな。20代のころ、郊外でこれぐらい...もっと広いかな?そんな部屋に住んでたときがあって、毎週のように4~5人集まってゲームやってたりしてたんだよ。その時に寝床にしようってこたつを使ってたのが始まりかな。」
「単身者向けじゃないでしょ?その物件。」
「普通はね。でも、なんか結構安く借りられてさ。当時不動産会社に勤めてた友人がいたんだよ。紹介してもらって、即契約した。」
「ちなみに家賃はいくらだったのよ?」
「ここの7割ぐらいかな。あの時代でその金額は割と負担だったよ。」
「その時って、お父さんも付き合っている人とかいたんですか?」
「いんや。その頃は自然消滅した彼女と別れたころかな。で、二人目の彼女と同棲する部屋でもある。」
「え、何年住んでたのよ?」
「ざっと14年かな。僕が23歳から37歳の頃。あ、でも二人目の彼女と同棲してたのは、30代前半だよ?」
「その後にこの近くに引っ越してきて、それであの娘と同棲し始めたと。」
「言い方...。でも、引っ越してきて2年目とかだったわけだからさ、狭い世界で生きてたと思う。あの娘に山手線の西側巡りにつきあわされたり、もうないけど上野のABABによく行ったりしたなぁ。」
「私のジョギングコースじゃないの。ABABのそば。」
「不忍池の外周を回ってここまで往復してくるのがおかしい。おおよそ7キロぐらいあるんじゃないの?」
「え、先輩ってそんなに運動してるんですか?」
「あれ、知らなかったっけ?私と娘は一緒にジョギングしてるし、この子とはプールでトレーニングもしてるわよ。」
「私は強引につきあわされた感じでしたけど...、今は気分が晴れる感じがありますね。」
「二人の仲がいいのは知ってましたし、最近はよく笑うようになったと思ってましたけど、プライベートでも指導されてるんだ。」
「いえ、先輩が思うほど甘いものじゃないですよ。お姉さんが素人にいきなり2時間で5キロ泳げって言った時には、さすがに妹さんに助けを求めました。」
「わたしは無理かな。泳げないし、ランニングも多分無理。それに、やっぱり一人で色々やるのが今でも苦手です...。」
「あら、水着や水泳道具は揃えて上げるわよ。一緒にトレーニングしない?」
「先輩に誘ってもらえるなら...今度、やってみようかな。」
「あ、そうだ、あなたにも新しい水着、買ってあげる。2時間で5キロ、安定して泳げるようになったご褒美。」
「いえ、私は自分で買いますから。さすがにお姉さんみたいにガチのスイマーみたいな競泳水着は恥ずかしいです。」
「そう言えば、あなたってタイムを狙うようなタイトな水着が多いよね。何を目指してるの?」
「あ、そういうこと言うんだ。あなたの恥ずかしい性癖のせいで、私はスイマーとして目覚めてしまったというのにね。」
「...どういうことですか?お父さん。」
「大したことじゃないよ。でも、ちょっと言いづらい。夫婦の問題かな。」
「そう言いますけど、週末に寝静まったあと、お二人がお風呂で仲良くされている時とか、お姉さんは着てますよね。」
「言わなくていいのよ。あなたも見ないふりしててよ。」
「私も恋愛相談をした身ですし、男女の行き着く先だから興味がありますよ。」
「あのさ、それって僕の裸も見てるってことになる?」
「お父様が攻めてることもあれば、お姉さんが馬乗りになってるときもありますよね。」
「うわぁ、激しいんですね。先輩。体力もあって、こんなにチャーミングなのに、お父さんを誘惑出来ちゃうなんてすごいです。」
「すごく可愛い声が聞こえてきますけど、私と妹さんはお姉さんに嫌なことを忘れてもらえるならと、聞かないフリをしています。」
「......ごめんなさいね。私、そうでもしないと、本当に自分を保てなくなってる。恥も外聞も捨てて、あなたがいる時でもこの人としちゃう上司の言う事なんて、聞きたくないわよね。」
「先輩が元気な顔で出社していれば、私は別に気にしません。でも、今日してたら、さすがに引くかもしれないです。」
「今日はしないもん。この人も色々疲れただろうし、ベッドも取っちゃうしね。」
「お姉さんが人事部の空気感を形取ってる雰囲気はありますよね。お姉さんがイライラしてると、みんなイライラするような、不思議な空気。」
「なんか、僕らより家族みたいな話してる。でも、主の空気感がその場を支配するっていうのは、あまり良くないかな。」
「じゃあ、あなたはこの場でも私を慰めるぐらいの度胸を身に着けてよね。」
「さすがにその度胸はつかないと思う。無理がありすぎるよ。それにだらしない顔の部長を見せるわけにいかないだろう?」
「ま、そうね。可愛い声を出しているって知られた以上は、だらしない顔も見られてそうだけどね。」
「......見てないですよ。お風呂のシルエットでそう見えるだけで、だらしない顔までは...。」
「いや、そこでお風呂場にいるのがおかしい気もするけどね。」
「ドアを閉め忘れてることが多いですよ。お父様か、お姉さんの問題です。」
「...意外に見てるんだね。やっぱり私とは違う。」
「先輩はそういう機会がなかっただけです。押しかけの私にはたまたま見る機会があっただけ。」
「あのさぁ、それ、私の話でしょ?淡々と話してもらっても困るんだけど。あの、そういう声が聞こえたら、無視していいから。」
「あなたさ、それって今日、自分は一人で慰めますって言ってる?」
「しないわよ。後輩達に示しがつかないのもあるけど、私はこの話をみんなでしていて十分に慰めてもらってる。恥ずかしいけどね。」
「先輩ってそういうところ、大人ですよね。そっか...先輩の娘になったら、先輩の恥ずかしいところが見られるんだ。」
「複雑な心境だわ。娘になって欲しいけど、そこは見せたくない。あなたの過去を知ってるだけにね。」
娘がお風呂から出てきた。代わりに先輩さん...誰の目線で先輩なんだ?ま、娘も先輩さんと呼んでるから、とりあえず僕もそう呼ぼう。彼女がお風呂に入っていった。
僕は娘の髪の毛を乾かしながら、聞き耳を立てる。
「あの、お姉さん。失礼を承知でお聞きしたいのですが。」
「え、そんなに改まって聞くこと?」
「はい。お姉さんって、私が入社したときより、明らかに年齢が退行しているような気がするんです。以前、今日この場にはいませんけど、先輩にはもう少し疲れた顔をしてたって聞いたことがあります。」
「う~ん、そこがよく分からないところなのよ。私の身体能力は、現時点でもまだピークにはなっていない気がするのよね。毎日見てるから分からないと思っていたけど、あの娘の大学の入学式のときの写真。これと比較して、明らかに今の私は幼く見える。ちょっとした敗北感とともに、さっきも言ったけど鍛えれば鍛えるほど身体能力は上がっていくの。でも、女性らしいフォルムを消せるほどにはなっていない。普通、もっと身体ががっちりとしてくるはずなのよ。」
「あ、そういえば、おねえちゃんはがっちりとしてますもんね。それ以上に女性らしいフォルムがいやらしいというか。」
「武器として理解し始めたあとは、そこの髪の毛乾かしてる男に対して、誘惑を覚えたもんね。手に負えないわよ。」
「でも、二人は親子に見えます。恋人も、突き詰めればそうなるんでしょうか。」
「難しいわよね。無償の愛ってやつ。ただそばにいてくれるだけで十分ということもあれば、欲求に応えて欲しいこともある。あなたには見せてないだけで、この娘の若さと色気はすでにこの人を飲み込んでるのよ。毎日顔を合わせているのに、男女の日は月に1日だけ。ここではない場所で、二人は自分達の愛をぶつける。だって、あの娘は私だもん。私がこの人を誘惑して、エッチしてるってことに等しいのよ。」
「おねえちゃんは我慢してるって言ってますけど?」
「...本音を言えば、この人が愛すべき存在はこの娘なのよ。私は今を生きるこの娘。この娘は20年前の私。でも5年も時間経過すれば、それぞれが変わってくることも分かった。あんなにそっくりだった大学の入学式から3年で、私はどんどん幼く見えるようになり、あの娘はどんどん大人っぽく、魅力的な身体つきになった。昔の約束...あの人が、私を迎えにくるって話を叶えたのはあの娘であって、私は彼を迎えに行ってしまった。でも、彼は私の夫として一緒に生きてくれることを望んでくれた。いずれにしても、疲れたロリババアが部長をやっているより、幼げなロリババアが部長をやっていたほうがいいでしょ?」
「いえ、お姉さん...こういうときでもカッコいいと思います。包容力もあるし、今日だって先輩をここに連れてくるバイタリティもある。そしてトレーニングも欠かさずしている。それだけでカッコいいと思います。明日になったら、会社でカッコよく部長補佐と痴話喧嘩しているお姉さんを見て、私は人事部にいるんだなって思うんです。」
「よかった。私が去年引き抜いた時、もしやと思ってたんだけど、人事部は楽しい?」
「はい、みなさんがいるおかげで、すごく楽しく仕事をしています。でも、いいんですか?私は人事部のこの体制、すごく危険に見えるのですが。」
「そこもちゃんと計算済み。今、あなたたちに面接官をやらせているのは、人材の目利きもそうだけど、人をどう見ているのかを知りたいってのがあるのよ。気になればちゃんと話せる土壌は作った。そして旧来の作業はサポートしてくれる嘱託社員がいる。贅沢過ぎよね。備品係20年としてはw」
「その、おねえちゃんがカッコいいって思える部分は、やっぱりずるいって思うなぁ。」
「君はまだあどけないままでもいいぐらいなんだけどね。でも、23歳にもなれば、立派に大人をしなきゃダメな世の中か。」
「忙しないわよ。それに、向こう3年ぐらいを見る余裕すら現状にはない。毎日これだけ世の中が変わっているのよ。そりゃ、新卒求人で見込みより多く入社させても、離職率を下げるための対策は取らないと、そもそもに最後まで付き合ってくれない。」
「そう考えると、私達はお姉さんに生かされているって考え方も出来ますよね。」
「ううん、あなたたちが立派に仕事をこなせるようになってるだけよ。私は何もしてない。強いて言えば、こうやってプライベートで家に連れ込んで、ただ話を聞いてあげるぐらいかな。」
「普通の上司は、そんなことをしませんよ?」
「昔...私の両親の時代には、会社の同僚を招いて色々やっていた。私の生家には客間があって、時々父の上司や同僚が騒いでいた。今はだんだんと世間での関係は希薄になっていってるから、難しいかもしれないって話よね。」
「あなただから、この子たちが心を開いたと考えることも出来るよね。自分達よりも見た目は幼く見えるけど、言動や行動、経験は年相応にしているからこそ、答えがちゃんと返って来る。そんな相談相手がいるだけで、すごく頼もしいと思うよ。」
「それに、おねえちゃん自体も男気あるしね。多分カッコいいって思えるのは、オトーサンみたいにアレコレ考えることをせずにズバッとやってしまうところと、ゆっくりと話を聞いて一緒に悩んでくれるところが同居出来てるからじゃないかなと思ったりする。さすが大黒柱だよね。」
「そういう行動が取れるのも、私を理解してくれてる後輩や同僚のおかげ。それに、きっかけはなんであれ、せっかく一緒に何かするんだったら、その人となりを知りたいじゃない。」
「...お姉さんって、そういうバックボーンみたいなもの、すごく大事にされますよね。それは、自身の経験からですか?」
「あんまりこういう話をすることはないんだけど、例えば彼女みたいに、付き合ってた彼氏とセフレみたいになって、しかもそこから暴行されて男性恐怖症になってしまった。その話を聞いたら、本音を言えば可哀想だと思う反面、付き合い方の難しい人だって思えちゃうわけよ。補佐に聞いたけど、あの子に内定を出した理由は、私が教育係として付き添い、そのまま社内の内部に食い込ませるためのコマに過ぎなかった。そういう状況ですら利用していく彼のほうがよほど冷酷。でも、長く働いて欲しいと考えた場合、彼女と親しくして、彼女の気持ちを解きほぐすことが最適解だった。それはあなたも同じだった。まあ、あなたの場合は、私がこの人と距離を置いた時期だったから、うまく噛み合ったって幸運もあるかな。」
「私の母とも連絡していますよね。母から聞きました。私が泊まるとき、必ずお姉さんがお預かりしますって連絡をくれるって。」
「それは母親同士の関係だから。この娘をあなたの家に行かせないのも、あなたのお母様に面倒を掛けさせないため。それに、あなたのお母様のバックボーンも知っているからこそね。」
「え~、そういう理由だったの?」
「アンタはどこに出しても恥ずかしくない娘だけど、一方で私自身でもある。アンタがするとは思えないけど、アンタの失態は、私の失態。」
「私達はその話を知っているからそれでもいいですけど、世間的には妹さんか娘さんってことになりますよね。それで大丈夫なのですか?」
「私は後輩さんが思っているほど、おねえちゃんを意識してないかな。オトーサンが娘って言ってる以上、おねえちゃんも娘として見てくれてると思ってる。」
「母親っぽくなってるのかしら。私もあなたたちと接して、やっぱり同僚というより、娘みたいにみえてしまうのよね。三人でいる時はあれこれあるけど、基本的にはこの娘を娘だと思ってる。勝手に育ってるし、私はアドバイスだけ。」
「それであれば、私の家におねえちゃんを招いても問題ないと思うんですが。」
「こういうと気分を害すかもしれないけど、この娘があなたのお母様にお手間を取らせることに、後ろめたさがあるの。私はあなたのすべてを知っているわけではないけど、あなたは私に色々話してくれる。あなたにも、私の経験談だったり人となりを知ってもらってる。あなたもこの娘のことはよく知ってるとは思うけど、よそ行きのこの娘は未だに見たことがないでしょ?言ってて矛盾してるように聞こえると思う。」
「子供の失態は、親の責任。部下の失態は、上司の責任。あなたが母親として、部長として行き着いた答えだね。あなた自身ってこともあるけど、この娘をもっと信じてあげてもいいと思うんだけどなぁ。」
「そうそう。おねえちゃんが恥ずかしくないと思うなら、私はどこに行ってもいいと思う。」
「そこなのよね、難しいところ。私もアンタを信じてるけど、なんというか...この子の家に行って、お母様にご面倒を掛けるのが、自分のことに思えてしまうのよ。」
「......それは、僕らには分からない感覚だ。あなたとこの娘だけしか、その感覚は持てない。同一人物であることへのためらいなのかもしれないしね。」
「おねえちゃんって、まさかと思うけど、私の失態とかを直感で分かったりするの?」
「そんなエスパーみたいなことが出来ないから、私はアンタの失態を恐れてるの。まあ、そんな能力があったとしても、アンタを咎めるようなことはしないと思う。それに、今はアンタの責任でも動ける。信頼してる。」
先輩さんの髪を乾かしている。いつから僕はドライヤー係になったんだろう。そのうち妻の後輩はみんなうちに来るとかいう話になったりするのか?そんなバブルみたいなことは出来ないよ?
「...優しいですね。」
「そう?君は普段どうやってお手入れしてるの?」
「私は夜は乾かすだけです。朝爆発しちゃうんで。だから三人とも、お父さんにしっかり乾かしてもらって、朝まで整ってるんだなって不思議に思っていたんですが。」
彼女はセミロング。妻のミディアムボブに近い感じだけど、前髪がない分、不思議とボリュームがない感じがする。前髪があって、ロングヘアが二人いるからそんな感覚になっちゃうのかな。
「手慣れたものね。」
「そうでもない。一応セミロングってどういう乾かし方がいいのかを見てはいる。」
「それでやってしまうお父様はおかしいと思いますけど。」
「おかしいと言われてもなぁ。僕もなんでこんなことが出来るのか、未だに分からないから。」
「でもオトーサンはちょうどいい程度には出来ちゃうよね。この辺が謎。」
「まあ、君の髪の毛を乾かすとことから始まってるしね。慣れで出来ちゃうのかもね。」
「ありがとうございます。本当に艶が出るんですね。先輩の髪の毛、黒髪でミディアムボブだけど、すごく艷やかで滑らかにカールしてるじゃないですか。今の私も少しだけ内向きになってますね。」
「あ、ごめん。なんか失敗した?」
「これでいいです。これから私もこうしようかな。」
「そんなに変わってるのかな?先輩さんは自然過ぎてなんとも言えない。」
「どう、娘になる気になった?」
「この輪に入れるなら、私は娘じゃなくてもいいです。先輩が誘ってくれたから、私も色々知れました。今日が木曜日なのが惜しいぐらいです。」
「ごめんなさいね。パジャマ、ちょっといいサイズがなくって。でも未使用だから。」
「じゃあ、これは私のパジャマにしてください。私も年に何度かはお泊りしたいです。」
「......やっぱり、半年で20回は異常ですか?」
「えっ、そんなに来てたの?」
「あはは~、うん、言いたいことは分かるけど、後輩さんはおねえちゃんに付き合わされてるってほうが正しいと思う。」
「そんなことはないです。おねえちゃん。」
「さっきから気になってたけど、妹さんのほうが年下じゃないんだっけ?」
「そうなんですが、私にとって彼女はおねえちゃんなんです。」
「そうらしいわよ。だから、私がお姉さん。面白いでしょ?」
「社内では部長呼びに変わってたから気づかなかったですけど、なんか面白いですね。」
「私の場合、先輩と呼ぶと色々ややこしいので。それはそうと、今日って先輩もベッドで寝るんですか?」
「...どういうこと?」
4人が寝室に入り、僕はリビングに布団を敷く。少し騒がしかったけど、なんか静まった。
ガラガラっと寝室のドアが開いた。妻が出てきた。
「あれ、寝ないの?」
「寝るわよ。でも、その前にお礼を言っておこうかなって。」
「あらたまって、何?」
僕の傍らに寄ってきて、僕の肩に頭を乗せる。
「無理した?」
「無理してたかな?あなたにはそう見えた?」
「...立派だよ。どうしてあなたが慕われているかっていうのも、なんとなく分かった。」
「人って、育つものよね。二人を見ててそう思う。それに、面白いぐらいに、彼女がここに馴染んでた。」
「どうして誘ったの?」
「二人で話をしてたら、彼女がなんとなく来たそうにしてたの。でも、彼女はあなたがいる家に入れるのか?疑問だったのよ。杞憂だったわね。」
「じゃあ、最初から僕は布団だったわけ?」
「あなたの言う三姉妹...なんで私が入ってるのかが疑問だけど、今日は最初から勢揃いだった。そういえば、今日は彼女があなたに相談ごとがあるって。もう解決した?」
「面接官のコツだかなんだか。僕はやったことないよ。」
「それでもアドバイスをなんとなくしちゃうんでしょ?私の旦那様は立派よ、私以上に。」
「あなたが立派だったら、僕も少しは立派にならないといけない?」
「別にいいでしょ。もう十分に立派だもの。娘だらけの中で、父親役はどうだった?」
「テレビで大家族の番組やってる理由も分かるね。毎日こんなことやってたら、僕は本格的に主夫になる。」
「ゴメンって。一人だけなら当日でもOKだと思うけど、二人で来るときには、ちゃんと前もって話す。」
「でも、よかったよ。彼女、ずいぶん前向きになったし、本来のあの子は意外と面白いんだなって。」
「もう、娘になってもらわなくても、大丈夫かな?」
「大丈夫だと思う。あの子は守られるだけの存在じゃなくなってるよ。今日、恐ろしく馴染んでたことで確信したよ。」
「そう...。なんか、寂しいかも。」
「スタンスが変わることはないし、いい続ければ?口実作った以上は、君にも責任があると思うよ。」
「程々にする。君と親ごっこやってて、一番母親役やってた気分よ。」
少しの沈黙、特に動こうとしない妻。
「一緒に寝る?」
「そうする。若い三人は夜ふかしして喋ってても問題ないでしょ。」
「こっちに来たってことは、てっきり夜ふかしするのかと思ってた。」
「言ったじゃない。今日は慰めてもらってるって。あ、でも、おかえりのギュってしてもらってなかった。」
「じゃあ、ギュってしたまま寝ようか。あ、暑かったら離れていいからね。」
「離さないもん。それに、あなたもそこを熱くしないでよね。」
「...朝は分からないよ?」
「......生理現象だからしょうがないわよ。」
「本当、何話してるんだろうね、僕たち。」
「こういう話で元気になれるのよ。愛してるわ。あなた。」
一人用の布団に、中年夫婦が抱き合って寝るシーンか。でも、妻の見た目が見た目なだけに、パパ活にしか見えないような気がする。やっぱり、布団をもう1セット買おう。
つづく




