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7.この愛には無限の可能性がある

 その落雷の瞬間、清照はあまりの音の大きさに筆を取り落としてしまった。書きかけの詩が綴られた紙の上に、びしゃりと墨汁が飛び散った。


 清照は紙の上の黒々としたいくつもの点を眺め、それからおもむろにその紙を引き裂いていった。何度も何度も、極限まで小さくなるまで――。


 気づけば机の上には爪の先ほどもない細かな紙片が散らばっていた。生まれつつあった言葉は、清照自身によって無残にもこの世から抹消されたのである。


 仁威への愛もまた、清照の手によって冥土の奥底にまで葬らなくてはならないものだといえよう。


 それは清照にもよく分かっていた。いまだこの世に愛の片鱗があるゆえに、清照はこの迷宮から抜け出せないでいる。いつでも脱出できる戸は開かれているというのに――。だがそのための鍵は清照自身の手によって一度投げ捨てている。一度捨てた鍵は二度と目の前には現れない。それは深い沼の底に沈んだままだ。


 しばらくは雨が続くだろう。

 毎年この時期は決まってそうなのだ。


 清照は悲しくなった。雨が続けば家を出るのもおっくうになり、そうすると清照は机に向かってしまう。心にたまった感情を言葉にのせたくて仕方がなくなる。だが言葉にすればすっきりするかというとそうでもなく、また別の言葉が胸の奥からせり上がってきてしまう。


 書いても書いてもきりがない。


 いつまで書いても終わらない。


 愛を冥土に葬れない代わりに、生き地獄に住まわされているのかもしれない。


(でも、愛のない生活のほうがよっぽど地獄だわ……)


 たとえ苦しくても愛したい。


 あの人のことを愛するこの気持ちによって苦しむのであれば、それは本望。


 この想いが成就することがなくても、あの人を愛していたい。


 机の上の紙片をさっと払い、清照は新しい紙を取り出した。そしてすらすらと書き連ねていくそれらの言葉は、先ほどの書きかけの詩とはまったく別のものだった。


 清照はこの愛に無限の可能性があることを確信している。


 だからこそ言葉が次々と生み出されるのではないか?


 だからこそ――この愛にわずかな可能性を今も夢見ることができる。清照にとって詩を書くとはそういうことなのだ。


 だが清照は起こりうるべく一つの未来だけは見ないようにしていた。


 もしも愛する人の目に自分以外の人間が映し出されたら――?


 自分の愛を守ることと、愛する人の幸せを祈ること。

 この二つの価値を清照はいまだ検証する勇気がなかった。

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