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もしも、元特殊部隊員が超技術で桃太郎に転生したら  作者: アルファベット・あき蔵


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3/6

影の贖罪と、壊れた演算

『黒金』の地下深くに広がる廃水路。

光すら届かない湿った暗闇に、腐臭と硝煙の匂いが充満していた。


俺と狗牙(クガ)は、暗闇の中を静かに進んでいた。

前衛の狗牙はすでに『K.I.B.I.プロトコル』の仮接続(フェーズ1)を終えており、俺の脳内UIを通じて彼女の鋭敏な知覚──足音、水滴の落ちる音、物陰の微細な体温変化がリアルタイムで共有されている。


「……隊長。奥にいやがる。だが、妙だぜ。匂いが多すぎる」


「トラップだ。すでに誘い込まれている」


俺は淡々と告げた。


目指すターゲットは、裏社会で『影縫い』と恐れられた忍びの末裔──猿渡 申ノ介(さわたり しんのすけ)。

かつて自分の所属する村と妹を守るため、鬼の要求に応じて他の幼子を生贄として差し出し続け、最後にはその村ごと鬼に裏切られて全てを失った男。


己の冷徹な合理的判断が最悪の結末を招いたという激しい悔恨とトラウマから、彼は自分を裏切った裏社会の地下に潜み、自暴自棄な暗殺と工作を繰り返しながら「無意味な死」を拒み続けていた。


「へえ……俺の張った三層結界と光学迷彩を、足音一つ立てずに破ってきたわけだ」


頭上から、ひょうひょうとした、どこか乾いた男の声が降り注ぐ。


見上げると、天井の濡れた張り出しに、影のようにへばりつく男の姿があった。

顔の半分を黒布で覆い、腰には無数の暗器と毒薬の瓶、そして呪術用の符を巻きつけた男──申ノ介。


「で? 鬼の差し向けた追手にしては、妙な取り合わせだな。片目の狂犬と、目の死んだ小僧か」


「買収に来た。識別コード:S.A.R.U.(Tactical Signal-Analytic Recon Unit)──猿渡 申ノ介」


俺は単刀直入に言い放った。


「貴様の情報網、罠の設置技術、そして呪術による電子(精神)撹乱工作。それらを俺に提供しろ」


「ハッ! 爆笑もんだね」


申ノ介は軽やかに天井から飛び降り、水たまりに着地した。手にはすでに数本の麻痺毒の仕込み針が握られている。


「小僧、俺はな、『無駄金』と『無駄死に』が一番嫌いなんだよ。お前みたいなガキの妄想に付き合う暇はない。鬼に勝てる人間なんざこの世に存在しねえ。命が惜しけりゃ、その狂犬を連れて地上へ帰りな」


「無駄死には俺も嫌いだ」


俺は冷ややかに奴を見据えた。


「だからこそ、確実に『鬼王』の首を取る作戦(ミッション)を立案した。数学的に最も成功率が高い戦術だ」


「……は?」


申ノ介が眉をひそめた瞬間。


──シュッ!


申ノ介の背後の暗闇から、十数本の黒い針が雨のように降り注いだ。

暗闇に潜んでいた追手──鬼の配下である蜘蛛型の妖怪『絡新婦(じょろうぐも)』の奇襲。


「ちッ、追手か……!」


申ノ介が瞬時に身を翻し、毒針を構える。だが、攻撃の範囲が広すぎる。完全な死角。


「狗牙、左30度。踏み込み二歩」


俺の脳内UIから、ダイレクトに狗牙の神経へ指示が飛ぶ。


「任せなッ!」


指示と同時に、狗牙が目にも留まらぬ速度で跳躍。二刀の刃が空を裂き、申ノ介を襲うはずだった黒針の全てを完璧に撃ち落とした。

寸分の狂いもない、未来予知のような割り込み。


「なに……!?」


申ノ介が目を見開く。


狗牙の反応速度だけではない。まるで『俺の目』が申ノ介の死角を捉え、『狗牙の腕』がそれを代行したかのような、あり得ない精度の連携。


「ミッションクリア。ターゲット(妖怪)の弱点──背面の核を破壊する」


俺は胸元から小太刀を引き抜き、影から飛び出してきた絡新婦の核へ、最短軌道で突き立てた。

ナノマシンの超振動が核を粉砕し、妖怪は声を上げることもなく泥のように崩れ落ちる。


戦闘時間:1.2秒。


暗闇に再び静寂が戻った。

申ノ介は手に持った暗器を握りしめたまま、信じられないものを見る目で俺たちを凝視していた。


「お前ら……今、声を掛け合ってなかったぞ。どうやってあの死角を……」


「これが【K.I.B.I.プロトコル】だ」


俺はポケットから、二つ目の『生体量子セル(きびだんご)』を取り出し、申ノ介の足元へ放り投げた。

銀色に明滅する丸薬が、水たまりの中で怪しい光を放つ。


「俺のナノマシンと血液を媒介とした、脳内データリンク。これを飲めば、お前の多重思考と罠構築の演算速度はチーム全体に共有され、声を出さずとも完璧な戦術連携が可能になる」


申ノ介は足元のセルを見つめ、次いで俺の「光の宿らない目」を凝視した。


「……引き換えに、何を差し出せばいい?」


流石は知恵者だ。甘い話には裏があることを誰よりも理解している。


「命だ」


俺は一切の躊躇なく言い放った。


「鬼王を倒した瞬間、またはナノマシンの過剰駆動により、四人の細胞と魂は量子レベルで完全崩壊する。生き残る道はない。絶対の死だ」


申ノ介の顔から、軽薄な笑みが完全に消えた。


「……狂ってる。全員死ぬために手を組めだと? それのどこが『最も成功率が高い戦術』だ!」


「生き残ろうとするから、負けるのだ」


俺の冷徹な声が、廃水路の静寂を切り裂く。


「生への執着、情、恐怖……それら全てが戦場においては致命的な『ノイズ』となる。全員の死を確定的なコストとして計算に組み込むことで初めて、人類は鬼王という絶対的強者を殺す数式を完成させられる」


「……」


「申ノ介。お前は妹を見捨てて生き残った自分を許せず、死に場所を探しているはずだ。……無駄死にするな。お前のその薄汚い後悔と知恵を、鬼王を殺すための純粋な『弾丸』として俺に投資しろ」


静寂が支配する。


申ノ介は深々とため息をつき、頭を抱えた。


「ハ……ハハハ……! 参ったね。前世でどんな地獄を見てきたら、そんな目ができるんだよ、隊長さんよ……」


申ノ介はゆっくりと屈み、水たまりから銀色のセルを拾い上げた。

そこに迷いはなかった。己の冷徹な計算と後悔の果てに辿り着いた、最初で最後の「価値ある投資」。


「いいだろう。俺の命、安売りはしねえ。確実に鬼王の首を取るってんなら……その地獄の数式、俺の頭脳も組み込んでくれ」


申ノ介は迷わず『きびだんご』を口に放り込み、飲み込んだ。


【K.I.B.I. Protocol: Phase 1 Link Test.】

【Target: S.A.R.U. (Shinnosuke Sawatari). Neural Sync Rate: 15%... 60%... 92%...】


申ノ介の脳内に、俺と狗牙の視界、そして『K.I.B.I.』のホログラフィックな戦術HUDが展開される。


「うっぐ……! なんだこれ……思考が、十重二十重に加速していく……! お前の冷酷な計算も、この女の狂気的な反射神経も、全部俺の脳内に流れ込んできやがる……!」


「歓迎するぞ、参謀」


狗牙がニヤリと不敵に笑った。


【Target S.A.R.U. (Shinnosuke Sawatari): Sync Agreement Completed.】

【Party Member 2/3: Secured.】


「これで前衛と参謀が揃った。行くぞ、申ノ介(シンノスケ)」


俺は申ノ介の肩を叩き、静かに告げた。


「残るピースはあとひとつ。……鬼の呪病に侵され、余命いくばくもない狙撃手──識別コード:K.I.J.I.、雉子島 雉羽を迎えに行く」

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