16 スライム×美少女っていったらお約束ですよね?(1)
ヒュージスライムが『火球』に当てられて蒸発するイメージしかなかった。けれど、ヒュージスライムは『火球』をジュッと打ち消した。防御したのだ。
「お、おかしいですわ……!」
ドリアネスは立て続けに、『風刃』、『水槍』、『石矢』を放つ。けれど、『風刃』は『火球』と同様に打ち消され、『水槍』と『石矢』はヒュージスライムの体内に入った途端に酸で溶かされる。
さすが変異種のヒュージスライム。通常は物理攻撃無効で、魔術攻撃が有効なところを、物理攻撃は通らず、魔術攻撃にも耐性があるのだ。
「ど、どうしてですの!? どうして……。あ、あなたがた!! 見てないで、この魔物をなんとかしなさい!!」
ドリアネスはパニックだ。振り返って冒険者に命令を出す。
「けれど、武器はもうありませんし……」
そりゃそうだ。六人パーティ。ドリアネスを差し引いたら五人パーティのうち、二人がメインの武器を失っていて、もう一人の攻撃も通じないことが分かっている。さらにもう一人は荷物持ちで攻撃力はない。残り一人が、自分の武器を抱えてイヤイヤと首を振っている。
「それくらい、予備の武器があるでしょ!」
ダンジョンで五日間も野営するのに、予備の武器だなんて持っていても短剣がいいところだ。冒険者パーティの士気も一気に下がった。
「お嬢様。今回はここで引き返しましょう」
「何言ってるの!?」
「武器もなく、魔術も通じないんじゃ、打つ手なしです。幸い、スライム種は動きは遅い。転移魔方陣スクロールを使えば……」
「馬鹿なことを言わないで!! そんなことをしている間にあいつに横取りされちゃうでしょ!!」
ドリアネスはビシッと俺を指さした。
なんだ、気付いていたのか。
「予備の武器でも素手でもいいわ。このスライムを攻撃するのよ!!」
「いや……それは……」
と、ぼよよんボディが小刻みに揺れ始める。
「ア、アークさん……。あ、あれ……」
カメラを構えるテマリも気がついたようだ。あの小刻みな振動はスライム特有の攻撃に出るって合図だ。
「お嬢様! 逃げて!!」
冒険者たちが口々に叫んだ。けれど、すでにそれは遅かった。
ヒュージスライムは、いきなり無数の手が生えたように、触手が伸びたかと思うと。伸びた幾本もの触手がドリアネスたち一向に襲いかかった。
ザンッ!! ちっ!
冒険者が触手を断ち切る音と同時にその冒険者の舌打ちの声も聞こえた。
このヒュージスライムは一応物理攻撃は通る。それの長細く伸びた触手ならば断ち切ることは可能。けれど断ち切ったそれは鉄も鋼も溶かす酸で出来ている。冒険者はここでまた剣を一本失ったのだ。一人の荷物持ちを含む五人の冒険者は、これで矢以外のメインの武器を全て失ったことになる。舌打ちするのも当然だろう。
「お嬢様! ここで撤退です!」
「ダメよ! 地上に戻れば、武器なんかいくらでも買ってあげるわ! だから戦いなさい!!」
「無理だと言っているのが分からないのか!!」
「私は依頼者よ!! 私の言うことを聞きなさい!!」
あ。これ、ダメなやつだ……。
冒険者たちは互いに目配せを始めた。誰だって命は惜しい。ましてや正当な理由があるのに、助言を聞き入れない依頼者のために張る命はない。
「……最終警告です。お嬢様。これで引きましょう。今回のダンジョン試験はここまでです。ここで転移魔方陣スクロールを展開しましょう」
「な! ダメに決まっているでしょ!!」
「なら、『依頼者が冒険者の助言を聞き入れず、命の危険にさらした場合』という契約事項に従い、ここで依頼任務を破棄いたします!」
「えっ!!」
目を見張るドリアネス。
その瞬間にも冒険者たちは一気にヒュージスライムから距離を置く。その素早い身のこなしはさすがだ。そして、荷物持ちがさらに素早い動きで荷物から一巻きのスクロールを取り出し、バッと開いた。
「『転移魔方陣』発動!!」
スクロールから光りが放たれたと思った瞬間、五人の冒険者は姿を消していた。たった一人、ドリアネスを残して。
「え……? な、なんで……? 転移魔方陣スクロールは私が……」
ドリアネスは、おろおろと目をさまよわせる。
大方、自分が転移魔方陣スクロールを持っているから、自分を残して冒険者たちは逃げられない。命を握っているのは自分だ。だから冒険者たちに無茶な戦いをしくのも当然だとでも思っていたのだろう。
ばかだなあ。転移魔方陣スクロールは、メチャ高……いやあ、本当に涙が出るくらい高くて、正気を疑うくらい高いけれど……でも、普通に売ってるんだぜ。稼いでいる冒険者なら、万が一のために一巻持っていても当然だろう。
でも、これでさすがのドリアネスも戦意を喪失しただろう。
気付けば、俺はヒュージスライムの前に飛び出していた。
「ドリアネス! 仕方かがねえから助けてやる。俺に任せてお前も自分の転移魔方陣スクロールで逃げ……ぐっほ!」
ドリアネスに思い切り俺の横腹を杖で叩かれた。くそ痛え!!
「お、おまっ! 俺が助けてやろうっていうのに、何しやがるんだ!」
「あなたこそ何を考えているの!?」
「だから、お前を助け……」
「交戦中の魔物を横取りするような真似はマナー違反よ!」
「いや、交戦中って……」
魔術耐性のあるスライム相手に、冒険者パーティも逃げ出して、いったいどうやって交戦するつもりなんだ。そう言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。
ドリアネスの目が死んでいないことに気が付いたからだ。
「はあ。分かったよ。駄目そうだったら、俺と交代しろ。それと、お前が死にそうになったら、否応なく交代な!」
「ふざけないで! 倒すのは私なんだから!!」
「……せいぜい応援してやるよ」
テマリが少しだけカメラから目を離して、俺に問いかけた。
「いいんですか?」
「本人がいいって言ってるんだから、見ているしかないじゃねえか」
「……僕。アークさんを信じていますから」
「ん? お、おう」
ドリアネスは体術もそれなりで、器用にスライムの触手から逃げている。その合間に魔術を撃っているのだが、さすがに全ての魔力はヒュージスライムに無効化されてしまう。
何か他に手があって戦っているのか? それとも、考えなしにただ意地だけで戦っているのか?
足下がかすかに揺れた。
「地震? ……いや」
天井がガラガラッと轟音を立てて落ちてきた。
落ちてきた壁や天井の岩がヒュージスライムに直撃する! いくら酸で溶かせるとはいえ、それは内容物の話。大きな岩がボコンと表面をたたきつければ、そこは大きくヘコむ。ヘコませた岩を酸で溶かす間に、次の岩が落ちてくる。次から次へと。
「へえ。さっきからドリアネスの魔術が時々外れると思ったら、これを狙ったのか! ない手でよく考えたな」
岩々はヒュージスライムを押しつぶした。これで、ヒュージスライムの魔石を壊せていたらドリアネスの勝ちだ。
「やった……。やりましたわ!!」
ドリアネスが荒い息を整えながら、俺を振り返った。
「アーク! やりましたわ!! わたくしが……わたくしが倒しましたのよ!! 地下三十階層の階層ボスを!! わたくしが! わたくしが……きゃあああああああ!!」
触手がドリアネスの足首に巻き付き、そのまま逆さづりにドリアネスを持ち上げた。
「やっぱりか……」
ヒュージスライムの魔石は割られていなかったのだ。だとすれば、粘体であるスライムは岩々の隙間でも生き残り、活動を続けることができる。小さなスライムを足で踏み潰すとは訳がちがうのだ。
「ア、アークさん……」
テマリが不安そうに俺を引っ張った。
「大丈夫」
スライムは触手をドリアネスの体に巻き付かせ、どんどんその衣服を酸で溶かしていく。
「ア、アークさん……」
再びテマリが不安そうに俺を引っ張った。
「大丈夫。……信じるんだ」
大丈夫だテマリ。俺の……いや、俺たちの願いは叶えられる。きっと……。きっと、これからRー18の展開が待っているはず!! 信じろ、信じるんだ!! 俺の願いをを!! この世界の神が俺を異世界に呼んだ理由を!! 神を!!
次回は、明日0時に予約投稿です。
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