17 スライム×美少女っていったらお約束ですよね?(2)
ちょっといつもより長めです。
ヒュージスライムが触れたドリアネスの服が、シュワシュワと泡を立てて溶けはじめた。生地の薄いスカートが隠していた脚や、腹の部分が徐々に見え始める。
ドリアネスの見えちゃいけないところの肌がだんだんと露わになっているが、その肌はただれ落ちるどころか、少し赤みがかかりつやつやと輝いている。
剣や矢の木の部分は溶かせても、矢の尾羽は溶かせなかったヒュージスライム。きっと、その触手は動物性タンパク質を溶かせないだろうと予想していたが、それが嬉しい事に当たっていた!!
信じてよかった!! ありがとうこの異世界の神よ!!
ここに始まる! スライム×美少女のお約束!!
そうだ。き……記憶。記憶のための魔術ってなかったか!? 俺、作っていなかったか? ってか、今、そんな魔術を構築でき……っ!! そうだ! テマリがカメラの魔道具を持っていた。きっと、この瞬間も余さず録画をしているはず。
その動画って、焼き増しできるのかな?
「きゃああああああ…………あっ、ああっ!!」
触手はドリアネスの口を犯……じゃなくて、侵した。
ありがとうヒュージスライム先輩! ごちそうさまですヒュージスライム先輩!!
どんどんと服が溶けていく。
おおおおお!!
そしてぬらぬらとした粘液がドリアネスの素肌をテラテラと照らす。
ふぉ――っ!!
そしてとうとう、お、お、お、おおおおおおおおおっぱいの谷間を……。
「!!」
次の瞬間、俺は衝撃で固まった。
「ど、どういうことだ……?」
次々と溶かされていくドリアネスの衣服。
ついに最後の砦が露わに。
けれど、そいつはヒュージスライムの粘液なんてものともしない。
「……ま、まさか。まさか、あれは……絹……か?」
絹は言わずと知れた蚕の糸からできた布。そう。動物性タンパク質だ。動物性タンパク質は、ドリアネスの肌と同様、待っていても溶かされることはない。
「あ……あのクソ女! やりやがったな!」
「えっと……アークさん、あの人が何を?」
「絹の下着!! あの女、絹の下着なんかつけていやがる!!」
「えっと…………貴族様の下着はだいたい絹らしいですよ~。って、聞いてます?」
「許せねえ! 下着は昔から綿って決まってんだよ!! 絹なんて神への冒涜以外何者でもないじゃないか!!」
「えっと………………アーク君? 君は何を言っているのかな?」
「ぶったぎってやる! あの絹でできた下着をぶったぎってやる」
そうだ。別にヒュージスライムにばかりやらせなくてもいいんだ。俺が、この手であの絹を……。
「おーい。アークさ~ん。それよりも、早く助けないとあの女の人、スライムの中心に飲み込まれちゃってますよ! 溶けなくても息ができなくて死んじゃいますよ~!!」
「ちっ! 急がないとな!!」
ドリアネスの魔術は全てヒュージスライムに防がれた。けれど、おかしいと思わないか? 魔力で作った『火球』や『風刃』はかき消え、同じく魔力で作った『水槍』と『石矢』は体内の酸で溶かされた。
『水槍』と『石矢』は具現化された物質だからだ。
じゃあ話は簡単だ。魔術で物質を具現化する。それも酸で溶かされないような物質を具現化すればいい。
俺は亜空間収納から、このダンジョン試験中にため込んだ、ヒュージスライムの酸で溶けない物質。つまり、動物性タンパク質。今まで魔物から剥ぎ取った素材を大量に出した。
これで酸にも溶けない鋼の刃を作る。
物質を他の物質に変換する技術。それを『錬金術』という。
魔物から剥ぎ取った素材がみるみる消えていく。想像よりもずっと多く……。というよりも、ほとんどが消えていく。
浄化魔術を覚えて、これを売れば元手はタダで現金がっぽりだったのに……。
俺はキュッと涙を拭った。
「金なんかよりも、目の前の宝の方が大切だ!!」
素材が消えた歪んだ空間が渦巻くようにして、一本の剣……いや、刀が形を現した。
その刀を手に取る。
寒々しいまでの怜悧な刃でありながら、どこか怨念を帯びているような刀。魔物の素材で出来ているからか、柄の部分にぎょろぎょろと動く目玉のついた刀。……なんか、怖いんですけれど。
い、いや……。そんな、今はそんな事を気にする時じゃない。
俺は、手にした刀をヒュージスライムに突き刺した。刀はやすやすとヒュージスライムのボディに突き刺さった。やはり錬金術で作った刀は魔術で作っていても物理攻撃になっている。さらには、もくろみ通り、ヒュージスライムの酸では溶けていない。
よし、いける!! ドリアネスの鎧を真っ二つにするのだ!! 気をつけなきゃいけないのは、ドリアネスごとぶった切らないことだ。
「丁寧に、丁寧に。ぶった切らないように真っ二つ」
「アークさん!! 言っていることがおかしいです!」
と、刀の柄にある目玉がギュルンギュルンと動いた。
な、なんだ!?
タンパク質で出来た刀は、その刃先がうねりまるで獲物に食いつく蛇のように急激に伸びた。そして、的確にヒュージスライムの魔石を真っ二つに……。
「……………………え?」
プツンと何かが弾ける感触が腕に伝わった。その瞬間、
ブッシャ――――!!
ヒュージスライムは、酸と……ドリアネスを吐き出した。
いったい何が起こったんだ!? え? 目玉! 何を「俺、やったぜ」みたいな目つきをしてんだ! 刀の仕事は、ドリアネスのブラジャーを真っ二つにすることだっただろう!! え? 知らない? 「真っ二つ」って聞いたから、てっきり魔石のことだと? んなこと、言ってねえだろうよ!! はああ!? 説明不足だって!? お前が聞いているだなんて知らねえし! 目玉ばかりで、耳なんてどこにあるんだよ! …………え? そんな……泣くなよ。えっと、俺が悪かった。確かに説明不足だったな。ごめんよ。うん。お前、いい仕事したよ。お前。すごいな。え? 俺もすごいって? いやあ……。じゃあ、二人ともすごいって事で。うん。俺たち、親友になれるかな? ………………はああああ!? 俺、そんなにチョロくねえし! っていうか、
「げほっ、げほっ、げほ!!」
あ。ドリアネスのことを忘れていた。どうやら無事だったようだ。
おい目玉の刀。俺は、あのブラジャーのひもを切りたい。アーユーオーケー? オー! アイシー、アイシー!! 今、ならブラジャーのひもを切っても、もともと切れていました。ヒュージスライムのせいですって言えるよな? ギリセーフだよな? お前、いけるか? よし……。
目玉の刀を握りしめてドリアネスの後ろにじりじりと距離を詰め寄る寸前、駆け寄ったテマリが上着を脱いで、ドリアネスの体に巻き付けた。
何すんだよ――――!! 余計なことをしやがって。
「大丈夫ですか!?」
「げほっ……げほっ……あ、あり……」
「しゃべらないでください。もう、大丈夫です。アークさんが助けてくれましたから」
「ア、アーク……?」
ドリアネスはキッと俺をにらんだ。さっきまで死にかけていたのに、ずいぶん元気があるなあ。
「な、なんで……、何で私を助けたのよ!?」
「な、なんでって……別に……ただのなりゆきだけど……」
さすがに見殺しにするつもりはなかったけれど、こんな風にヒュージスライムを倒すつもりもなかったよ。
「なりゆき……? 私を助けることが……ただのなるゆき……?」
「ま、まあな……」
「そう。あなたにとって、私はその程度……。ただのなりゆきの女なのね……」
ドリアネスは、悲劇のヒロインみたいにガクンと肩を落とした。
って、「なりゆきの女」って何だよ!? 誤解されるだろう!? あ、テマリの目が冷たい……。ちっ!!
「お前が死んだら困るからだ」
「……困る? 私が死んだら……?」
「ああ」
階層ボスを倒した俺が賭けに勝利し、ドリアネスは負けたのだ。
賭けは終わった。そして、俺にはそのツンと上向きおっぱいを揉みしだく権利がある。
「……一緒に帰るか?」
幸いこのフロアには常設された転移魔方陣がある。多分、下に降りる階段の近くの小部屋だ。そこまではちょっと遠い。パーティも武器も、服すらもないドリアネスが一人で行くのは大変だろう。
ところが、ドリアネスにはキッとにらまれた。
「誰があなたなんかと!」
俺は肩をすくめた。断る相手に何度も差し伸べる手はない。
「そうか」
俺は無意味に足音を鳴らしてその場から離れた。
テマリはドリアネスのところに急いで戻って何か渡してから、俺に付いてきた。
「……魔物よけの魔道具を渡したのか?」
遠目に見たが、かなりいい品物のようだ。ただ、歩き回って使えるようなものじゃない。その場に魔物の嫌いな臭いを振りまくものだ。
どこか物陰にでも引きこもるのならば、今日一日は魔物に遭遇しないだろう。
「………………だめでした?」
下から見上げるテマリが困ったように眉をしかめた。あざといまでのかわいさだ。胸がズキュンと打ち抜かれる。
いかんいかん、だからこいつは男。
「いいや」
頭を冷やす時間はたくさんある。
どのみち明日はダンジョン試験が終わる日だ。転移スクロールで地上へ帰ればいいさ。
「ですよね! アークさんなら、そうするかと思ったんです」
「ん? 俺なら?」
「だって、アークさんは僕を助けてくれたじゃないですか!」
テマリがこりと笑った。
ズキュンと胸が打ち抜かれる。
うさぎってやつは、かわいいかわいいと思っていると、思わぬところで妙な色気があるからな。危ない、危ない。こいつは男。
俺たちは地下三十階層の常設されている転移魔方陣で地上に戻った。
地上では大騒ぎだった。
俺が地下三十階層の階層ボスを倒したからじゃなくて、ドリアネスを残して冒険者パーティだけが地上に帰還していたことがだ。
あの状況じゃ引くしかないにしても、自分たちだけ転移魔方陣スクロールで帰っちまうのはさすがにやりすぎだろう。ドリアネスが無事に帰ってきたら、一応、冒険者の肩を持つような証言をしてやるつもりだ。
売れる恩は売っておいた方がいいからな。キシシシシ!
もちろん俺に気付いた人間が一人もいなかったわけじゃない。ミュウミュウは俺の胸に飛び込んできて、開口一番に「おめでとう!」と言ってくれた。
ああ。俺のことを見てくれる人がいるって、いい気持ちだな。
――俺は卒業資格を獲得した。そして今までのダンジョン試験クリアの最短記録を更新した。
次回は、明日0時に予約投稿です。
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