15 わがままぼよよんボディのあの子
『探査』
地下二十九階層をクリアし、地下三十階層への階段を駆け下りながら魔術のイメージを展開する。
この階層の地図が、まるでゲームのように視界の端に浮かんだ。そこへ、自分のいる場所と魔物がいる場所、それに他に人間がいればそいつらがいる場所がポイントとして表示される。
表示されたポイントをさらに拡大すれば、相手が誰でどんな魔物かもある程度知ることができる。
ひときわ大きな魔物のポイントの近くに、六個のポイントが近づいている。この階層で六人パーティといえば……。
「やべえ! ドリアネスのやつ、この階層ボスのすぐ近くにいるぞ!」
ドリアネスがそのボスを倒したら、ドリアネスは魔術学園の卒業資格を獲得することになる。それはいいとして、俺は賭けに負けるのだ。
負けたら、あのツンとしたおっぱいが……。
「急がねば!!」
「ばああぐう! お、お、おねがびいい!! もっとゆっくびい! じ、じぬ、じぬから! ぼぐ、じんじゃうからあああああ!!」
肩に担いだテマリがうるさい。ついでにテマリの大きなリュックも邪魔だ。亜空間収納に入れてやるっていってんのに拒否された。ま、つい先日、ドリアネスの取り巻きに騙し取られそうになったんだから仕方あるまい。
けれどだからと言って、スピードを緩める気はない。
「うっせえ! 男には譲れないものがあるんだ! 同じ男のお前なら知っているだろ!?」
「ぼ、ぼぐ、ぼぐは……」
「黙ってろ! 舌を噛むぞ!!」
基本的に交戦中の魔物を横からかっさらって倒すのはマナーに反する行いだ。だから、一瞬でも先にドリアネスよりも先に階層ボスと交戦しなくちゃいけない!
途中の魔物は壁を走ってすり抜けて、飛んでくる魔術は絶対防御の魔術で払いのけ、やっとたどりついた階層ボスの前。
火花が散るようなブレーキをかけて足を止めた。
「ドリアネスは!? …………っ!!」
俺は膝から崩れ落ちた。
「遅かったか……」
すでにドリアネスと冒険者のパーティは階層ボスと戦いの真っ最中だったのだ。
こうなったら賭けに勝つために、相手の魔物に回復魔術をかけてやろうか、それとも支援魔術にしてやろうか……。ぐへへへへへ……。
「ア、アーク……。あの魔物……」
テマリに引っ張られて、ドリアネスたちに再び目をやった。
相手はなんていうことはない、ただのスライムだ。ただやたらと大きい。ヒュージスライムといったところか。
あれ? この階層のボスってスライムだったっけ?
魔術学園ではダンジョン攻略についての講義もあり、この階層のボスについての情報もあった。
ダンジョンの魔物は階層によって出てくる魔物がほぼ決まっている。この地下三十階層の階層ボスはメタルスライムだったはずだ。逃げ足が速くて、追い込むのが大変な。
けれどマップでは、ヒュージスライムの場所に階層ボスの印がある。
「……変異種」
俺の隣で、か細い声がした。
変異種……。ああ、そうだ。変異種だ!!
ダンジョンの魔物は階層によって出てくる魔物が決まっているが、時々、本当に時々、どういうタイミングでなるのか分からないけれど、別の魔物が出てくるときがある。全く見たことがない魔物のこともあれば、普通にいる魔物だが通常のよりも数段強く、特殊な能力を持つ場合もある。そのどちらの場合も変異種と呼ぶ。
そっか、変異種なのか……。
「なあ……」
「はい」
「変異種の素材って確か……」
「はい。高く売れます」
テマリがサムズアップする。
「だよな」
悔しい!! やっぱり俺が少しでも早く交戦していれば、あの階層ボスも、変異種の素材も、賭けの勝利も俺の物だったのに!!
やっぱり、魔物の方に回復魔術と支援魔術をかけとくか……。
と、隣でテマリが自分のリュックをごそごそとあさりだした。
「知ってますか? 高く売れるのは素材だけじゃないんですよ。情報も……」
「情報?」
メモでもとるのかとみていると、リュックからL字型をした筒のような物を急ぎ出した。筒の先端にはレンズがついている。
俺の前世の記憶が強烈に刺激される。
「お、おい、テマリ! そ、それは……?」
「記録の魔道具です」
やっぱり! それはハンディカムというよりも8mmビデオといった風情がある。魔道具なんて、イービスにねだられるまま買うだけで、ほとんど使ったこともないけれど、こんな魔道具もあるのか!? すげえ! 異世界すげえよ!!
「はい。すごいんです。父さんが作った魔道具はすごいんです!!」
あ、口に出ていた? それにしても、これを作ったのはテマリのお父さんなのか。ダンジョンを出たら、ぜひ会いに行きたいもんだ。そうしたら、俺の前世知識のあれこれを使って、新しい魔道具を作ってもらって……あ、そういえば、お父さんは瘴気中毒なんだっけか……。金を貯めるのもいいけれど、そっちを解決しなくちゃな。よしよし。
ドリアネスたちとヒュージスライムに目を戻すと、冒険者たちがそれぞれの武器を抜いて、ヒュージスライムに向かっていた。
スライムは踏み潰しただけで倒せる最弱の魔物だ。だから誤解されがちだけれど、スライム種は物理攻撃が効きづらい。スライムを倒すにはゼリー状の真ん中近くにある魔石を壊さなければならないのだが、スライムの上位種にもなるとほとんどの物理攻撃をぼよよんボディで弾き返してしまう。
さて、ヒュージスライムはどうなのか……。
冒険者は槍で思い切り突き、剣で切り裂いた。
けどその剣と槍先がなんの手応えもない、まさに水を突くような感じでヒュージスライムのボディに吸い込まれた時には、冒険者はたたらを踏んで、自分自身もぼよよんボディに飛び込みそうになる。
けれど、なんとか踏みとどまった冒険者は顔色を変えた。
ぼよよんボディに触れた剣先、槍先が、ジュクジュクと泡立ち、ボロボロに溶け始めたからだ。特に槍先はヒュージスライムの体内にまだある。それを冒険者は引き抜こうとしたが、突くのは簡単でも引き抜くのは大変らしい。結局、冒険者は槍を諦めることになった。
「あっぶな~!!」
見ている俺もドキドキしてしまった。
「物理攻撃は通用しない……けれど、ヒュージスライムは大きすぎて槍でも魔石までは届かない。いや、その前に、武器が貫通した途端に武器が溶けちまう……。お、次は矢か?」
さすが冒険者。いろいろと手札が多いね~。
でも結果は、想像通り。矢は魔石までの半分ほどで止まり、槍と同じように溶けた。
ん? なんだ? 矢の尾羽だけは溶けていないぞ?
「来た。本打ち!」
ヒュージスライムが攻撃を弾き飛ばすんじゃなく、武器を沈めて酸で溶かすっていうのは予想外だったけれど、スライム種に物理攻撃が効きづらいっていうのは分かっていたことだ。それなのに、冒険者がそうしたっていうのは時間稼ぎをしていたからだ。
「お待たせしましたわ!!」
スライムの上位種には物理攻撃が効かない。けれど、魔術はかなり有効だ。
ドリアネスの頭上にはメラメラと燃えさかる『火球』が、今や遅しとヒュージスライムに狙いを定めていた。
「行きますわよ!!」
ドリアネスが、元気に手をヒュージスライムの方に向けた。
ゴウゴウと唸りを上げて、『火球』に飛んでいく。
チクショウ。これで賭けは負けか! ……え?
あら? わがままぼよよんボディは期待外れでしたか?
次回は、明日0時に予約投稿です。
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