第十一番歌:八雲たつ アダタラマユミ(序)
序
霜月十一日、日本文学課外研究部隊で、まゆみ先生のお誕生日会を開いた。
おめでたい おめでたい あなたが生まれて ああおめでたい
ありがとう ありがとう ○○○○○ これからも 健やかに
○○○○○には「まゆみ先生」と入れて、私たちは合奏を贈った。夕陽ちゃんが編曲、楽譜おこし、ピアノ(細長い敷きものみたいな物だった。携帯用なんだって)。唯音先輩がトロンボーン。華火ちゃんがリコーダー。萌子ちゃんが三味線(空満神道の信者は、和楽器の稽古をつけるらしい)。私は、カスタネットだった。
「まゆみセンセ爆誕感謝パーティーっスよー☆ どんどんパフパフ☆」
萌子ちゃんが、早朝に芸人をたたき起こすバズーカのようなクラッカーを鳴らしたのを皮切りに、先生を寿いだ。
「安達太良先生、お誕生日おめでとうございますぅ」
「長生き、して……です」
それぞれ持ち寄った洋菓子と、カレー味のお菓子を夕陽ちゃんが配ってゆき、唯音先輩は希望の飲み物を注いでいった。ふたりともパーティ用品の三角帽子を頭に乗っけて、にぎわいに形から入ることに成功していた。
「よっ、四十肩まゆみっ!」
毎日が無礼講の華火ちゃんは、さっそく年齢で名前の覚え間違いを打ち上げた。クラッカーを八発思い切ったため、彼女の付近は煙くて、足元は縮れた紙ひもと金ぴか銀ぴかのかけらでまぜこぜになっていた。必殺技・はなびボンバーじゃあるまいし、ほどほどにね。
「ふふっ、実家が弓道場だから、日頃運動は欠かさず、体の若さは保っています。それに、レディの年は秘密にするものよ」
上座を玉座よろしくゆったりと腰かけ、「本日の主役でございます」たすきで偉大さを増したご婦人が、かくのたまうた。
「三百六十五日で最も幸せな一日を過ごす私の名前は、安達太良まゆみ!」
一同、拍手いたしました。シジュウカラまゆみ、でもいけたかなあ。
「ヒロインズかラ、まゆみセンセにプレゼントがありマース☆」
両手を広げてYの字にする萌子ちゃん。司会進行役に決まっちゃったね。本日は、先生にちなんで、弓の名手であり、異世界の住人と盟約を交わして平和を守る少女のコスフィオレだ。束ねた黒髪と灰色の制服が凜々しい。
「代表シテ、隊長ノふみセンパイ、ドゾー」
「え、わ、私!?」
贈り物の袋を萌子ちゃんから、ぽんと渡され、びっくりしてしまった。こういう大役、私なんかが務めてよろしいんですか? 相手は教員ですよ? 緊張するんですけど。
「あらー、プレゼントまでいただけるの?」
まつげが羽ばたいていらっしゃる。マラカスだっけ、いや、マスカラか。お化粧に気合い入っていますよね。先輩と夕陽ちゃんと萌子ちゃんは、なにかぬったり粉はたいたりしているなあ。私は……母が、せめて洗顔と保湿ぐらいはしておけってうるさいので、最小限の身だしなみですよ。
「ま、まゆみ先生、ど、どうぞ、お納めください」
「では、ありがたく」
無地の藤色の袋と、銀色のリボンは、唯音先輩が選んでくださった。中には、白い座布団と、白の、何だったかな、薄いけれど柔らかめな板。皆でおおまかに候補を出し合って、夕陽ちゃんと私が泰盤市で買いに行ったのだが、名称が頭からすっかり抜けている。
「クッションと、パームレストです。パソコンでの作業が多いでしょうから、少しでもお疲れが取りのぞけるかと思いましてぇ」
「いとうれしだわー!」
そうだよ、パームレストだ。横文字はどうもついていけない。夕陽ちゃんがほとんど決めてくれたようなものだからなあ。色は、私が。まゆみ先生といえば、白だもの。個人研究室だって、白ばっかりだし。
「研究室に置いちゃおう。椅子がひんやりする季節になったからね」
お気に召したそうで、良かったです。家族にさえ「おめでとう」の声かけですますだけだった私が、学校の先生に贈り物をさしあげるだなんて。明日は雪でも降るんじゃないだろうか。
「おーい、集合写真撮るぞっ! 姉ちゃん、デジカメ」
「……です」
「いおりんセンパイ、グッジョブっス☆ タイマー機能ONデスよ」
「ふみちゃん、こっちやでぇ」
「は、はい」
まゆみ先生を真ん中に、華火ちゃんが左、萌子ちゃんが右で、先生に向けて両手をひらひらさせて主役をより目立たせた。私は夕陽ちゃんに前に押されて先生のかなりおそばに、唯音先輩は真顔でブラインド際に直立されていた。
三、二、一、パシャッ。
「あなた達に寿がれて、私は果報者よ」
太陽がいくつあっても及ばない、まぶしいまゆみスマイルだった。デジタルカメラの画面には、日本文学課外研究部隊の六人が幸せそうに写されていた。




