42.秋の訪れと新しい家族
※ライアー視点です。
俺はあの時彼女に会っていなかったら今頃どうしていただろうか。
今思うと、あの時出会っていなければ違う未来があったかもしれないと思うほど奇跡的な出会いだった。
あれは俺が10歳だった時の話。
騎士団長の父親に辺境に行って強化合宿を受けてこいと言われたことが事の始まりだった。
辺境というだけあって周りは自然であふれていてとても空気の澄んでいる所だった。
カサルト辺境伯家の敷地を借りた強化合宿は1週間という短い時間で行われるが、まだ未成年の俺の家ような騎士を昔から排出している家系の令息を集めて行われるその行事は子供たちにとってはかなりハードな合宿として知られていているが、貴族の令息の親は我が子を鍛えようとする人がこの合宿に参加させるのだ。
俺も親に「行け」と言われたので仕方なく参加した合宿だったのだ。
しかし、意外にもいつも住んでいる王都の屋敷とは違っていたので辺境に興味がでた。
休憩時間は自由にしていいというので皆それぞれ自由に出歩く。
休憩時間は多くとられていたので俺は近くにあった森に入ってみることにした。
しばらく歩いていると一人の少女を見つけた。
それがこの辺境伯家の長女、ミラディエ・カサルトだった。
長く伸ばした薄いブラウンの髪を一つに結い上げて分厚い本を片手に何かをつぶやいていた。
何をしているのか気になったのでこっそりと気配を消して回り込んで彼女の様子を窺ってみた。
なんと、真剣な色を帯びたオレンジがかった茶色の瞳の先にはキノコのようなものを見ていた。
彼女は持っていた鞄からルーペを取り出してまじまじとキノコの観察をして本の中に描いてある植物と比べ合わせをしていた。
最初は、辺境伯家の長女がこんなことをしていいのかと少々呆れて見ていたが、彼女の顔は真剣そのものでその姿は自分と同じ10歳だとは思えないぐらい大人びて見えた。
そんな彼女を何分見ていたか分からない、そう言えばと思い懐中時計を確認すれば休憩時間の終わりがあと数分前というところまで迫っていて焦って訓練場に向かう。
急に茂みから音がしたからか彼女は視線を俺の方向へと向ける。
その瞳は今まで見てきた誰よりも澄んでいて、思わず足を止めてしまいそうになるが今の自分の状況を思い出して俺は向きを変えて走り出した。
後ろから声が聞こえた気がしたが俺は気にせずに走り続けた。
その日から合宿期間の間はいつも休憩時間に森に行った。
もしかしたら彼女に会えるかもしれないという期待からいつも森へ行くと毎回彼女はどこかで植物の観察をしていた。
昔の俺は令嬢への話しかけ方もわからなかったので話すきっかけができないまま合宿を終えた。
合宿が終わりこれから馬車に乗って帰るというときにたまたま彼女の姿を見つけた。
きっと彼女の兄が強化合宿に来た子供たちを送り届けていたからだと思う。
乗り込むときに彼女と目が合う、彼女は目を見開いて驚いていた。
きっと最初に見て出会って逃げた時に見た俺の顔を覚えていたのだろう。
彼女は俺に向かって手を延ばそうとするが彼女の兄が「ミラ?どうしたの?」と言ってその手を取った。
俺は彼女に微笑んでから馬車に乗った。
その時に俺は彼女に次に会うときはしっかりと話せる人になろうと決めた。
そして11歳になってアリシナ嬢の誕生会がヴェルディーン家で行われるパーティーで彼女と再会した。
もしかしたら覚えていてくれるかもと期待していたが彼女は「初めまして、私はミラディエ・カサルトです。以後お見知りおきを。」と淑女の完璧な礼をして挨拶をした。
その彼女を見た俺は心の中で落ち込んだ。
忘れてもいい、忘れられていてもいいからこれからは彼女に覚えてもらえるようになりたい。
そう思った俺は自分の自己紹介をした。
一か月後に行われた彼女の誕生会に親に無理を言って参加させてもらい、オパールの宝石が付いたネックレスをプレゼントした。
プレゼントした時彼女はとても喜んでくれたのを今でも忘れることはない。
学園に入って1年生の休み明けにミサンガをプレゼントしてくれたこともとても嬉しかった。
どんどん彼女への思いが募っていって、俺は何度も彼女に求婚した。
最初は「ごめんなさい、私は貴方のお気持ちに答えられませんわ。」と言っていたのが次第に彼女は変わっていった。
そのおかげか彼女は2年半の月日が経った頃に婚約を受けてくれたのだ。
かなり彼女の兄を説得するのに時間はかかったが今では彼女の兄とも上手くいっていると思いたい。
そして今目の前にいる彼女を見つめた。
カップを手にした彼女と目が合う。
どちらからともなく笑みが零れた。
そして彼女はいたずらっぽく微笑んでこう口にした。
「私、覚えていましたのよ?ライアーと最初に会った森のこと。」
俺は目を見開いた。
「...え?それをどうして...」
それを遮ったのは彼女の隣に座っていた娘のシェリーナ・フィバルブだ。
彼女はまだ3歳にしてはかなり達者に話す子供に育った。
「お父様とお母様は森で出会われたのですか?!この前見た絵本にもそんな出会い方がありました!凄いわ!」
元気にそう言う娘のシェリーは目を輝かせている。
「そうなのよ。でもね、ライアーったら会った時...」
これ以上喋らせたら余計なことを言いかねないので彼女の口にマカロンを放り込んだ。
「会った時になんですの?その先が気になりますわ!」
ミラの方に身を乗り出してさらに目を輝かせたシェリーは早く続きが聞きたいと言うような感じだ。
「ミラ、その話は後で...二人の時にしようか。」
あまり圧を入れた笑顔をするのは友人達のようで好きではないが仕方なく、そう、仕方なくその笑顔をミラに向けた。
「...そうですわね。後で、話しますわ。シェリーにもいつか話しましょうね。」
圧を入れた笑顔をしたら圧を入れた笑顔を返された。
俺はやばい人を妻にしてしまったかもしれないな....。
と今更気づいたライアーなのであった。
窓の外は紅葉の葉が風で揺れていて、色付いた葉は秋の訪れを感じさせるようなそれは綺麗な景色だ。
なんだかんだで仲の良い親子は外で妖精が微笑んで見ていることを知らない。
「ふふっ、ここにもう一人増えるのね。きっと彼は幸せに生きれるわね。」
「ルーシエ、人間に見つかる前に戻るよ。もう見終わったでしょ?またアリシナに勝手に外に出てきたこと怒られちゃうよ?」
「それもそうね。じゃあ帰りましょうか、私達の契約主、アリシナのところへ。」
可愛らしい妖精たちは仲良く話す家族に気づかれないうちに姿を消した。
次回の投稿は明日の20時です。最終話まであと3日。




