43.冬の空と小さい頃の出会い
遅くなりましたが1万PVありがとうございます!
※スレイド視点です。
ーーー君は覚えているだろうか?
馬車の中で隣に座っている彼女の手を握る。
あれは私が6歳の頃、勉強が嫌になって屋敷を抜け出して変装して王都の街を出歩いていた時のこと。
賑わう王都の道を歩いていた私は一人溜息をついた。
元々公爵家の生まれというのもあって小さいころから家庭教師をつけられてさまざまなことを教えられてきた。
この国の歴史、他の国の歴史、他国の語学や文化、貴族としての完璧なマナー、貴族の名前とそれぞれの位置関係の把握、とさまざまな分野を教えられてきた。
小さい頃からパーティーなどの社交に出ることは当たり前で、自分のやりたいことができる時間は一日のうちの数分だけ。
まあ、元々やりたいことがなかったので家の書斎などにある本を読んでいたのですが....。
小さい頃からいろんな人に会ってきたからか、貴族の笑顔の裏に隠れた汚さを目の当たりにしてきた私は貴族としていることが嫌になっていた。
いくら才能があると言われても、周りから公爵家のことを褒められても、本当にそんなことを想っている人はほとんどいない。
皆が大なり小なり嘘を抱えていて、隠し事があることを知っていた私は完全なる人間不信な人間になっていた。
誰も信じられない、親すらも嘘を言っているのではないかと疑ったことがあるほどだ。
そんな人生に嫌気がさしていた私の前に現れたのが彼女だった。
パン屋から元気よく出てきた少女、それがルナだった。
お店の人だと思われる人がわざわざ外に出てきて「また来な!」と言って手を振っていた。
彼女は数個の紙袋にパンをたくさん詰め込んで落としてしまうのではないかというほどの量を一人で抱えていた。
私はまだ家の人に捕まりたくなかったので彼女の手伝いをすることにした。
「手伝うよ!」
なるべく街に住んでいる少年を装って彼女に話かける。
「いいの?ありがとう!」
彼女は曇り一つない綺麗な笑顔を浮かべた。
二つほど紙袋を受け取って彼女の隣を歩く。
「君の名前は?」
「私はルーナトルテ、よろしくね!貴方は?」
「僕は...レイ、よろしくね。」
少し悩んだ結果、名前から文字った名を名乗った。
彼女はまた笑って言う。
「レイ...レイね!手伝ってくれてありがとう!」
「あのさ、こんなに君は食べるの?」
ふと疑問に思ったことを彼女に聞く。
「あのね、実は私の家の近くに孤児院があるんだけどね。そこにいる子達の分も買って持って行ってるの。」
彼女は包み隠さず当たり前のように言う。
「孤児院、そうなんだ。それは親に言われて?」
自ら孤児院に食べ物を持っていこうなんてする人はいないと思っていた。
しかし、違った。
「え?お母さん達には何も言われてないよ?ただ、小さい頃からよく孤児院の子達と遊ばせてもらっているから、その孤児院の子達に感謝を伝えたくて...院長さんに何かできないかって聞いたらこのパンを運んでほしいって言われたの。私もあのパン屋さんによく行くからついでにっていう感じでもっていってるだけだよ?」
「そう、なんだ。君は凄いね。自分の意志でやりたいことがあるんだね。」
「レイやりたいことってないの?」
彼女は不思議そうに首をかしげながら言う。
「僕は...ない、かな。」
「やりたいことは自分で見つけるんだって、昔誰かにそう言われたの。だから、私のしたいことはまずは生きる事、次に幸せになること...かな。」
そう言う彼女は見た目の年齢よりも年上の人に見えた。
まるで前世があるみたいに、死んだことがあるみたいに。
「やりたいことは自分で見つける...か。」
繰り返し復唱した。
クスリと隣から笑う声が聞こえた。
「そんなに真剣に考える事ないよ。何となくでも興味のあることとかでもいいし、まだしたいことがなくてもいいと私は思うの。」
まるで私の心の中を読み取ったみたいに彼女は言った。
そして続けてこう言う。
「レイってさ、貴族の子供でしょ?貴族の子供って大変だって親が言ってたんだよね。疲れちゃったら休めばいいんだよ、やりたくないことはやらなくてもいいんじゃないかな?まあ、やらなくちゃいけないこともあるかもしれない。だけどね、息抜きって誰にでも必要だと思うんだよね。」
エメラルドグリーンの瞳がじっとこっちを見ていた。
なぜ彼女は私が貴族の子供だとわかったのだろうか。
彼女の言葉は当時の私には衝撃的だった。
孤児院まで運ぶのを手伝った後に彼女は俺に言った。
「ねえ、レイ。もしまたここに来たかったら来てね。いつでも話なら私でも聞けるから。それじゃあね!」
彼女はそう言うと家の方向へ走り去っていった。
それから私は屋敷に帰った。
それから何度も彼女に会いに行こうと思ったがやりたいことができたので行かなかった。
誰が何と言おうと私は彼女と婚約するという目標ができたのだ。
まずは自分を磨いた。
彼女に出会ってから何となく今まで短く切っていた髪も伸ばした。
最初、学園に彼女もいることを知った私はすぐに彼女のところに行こうとしたが、行けなかった。
彼女が周りからどういわれているかは知っていた。
それを私は制御できなかった。
しかし、アリシナ嬢が陰口を言う人たちを諭した。
自分自身で制御できなかったことを何より悔やんだ。
そしてまだ自分には彼女に会う権利はないと思った。
魔法学の授業が同じだったことが嬉しかった。
昔私に会ったことは覚えていないのか、変装していたから気づかなかったのか彼女は初めての人にしゃべるように遠慮して喋っていた。
しかし、次第に話す回数も増えたので次の段階に進むために婚約の準備を進めた。
外堀から埋めていこうとした矢先に彼女が誘拐されたと聞いた時は倒れるかと思った。
しかし、彼女の顔を見たら元気そうだったので安心した。
そしてやっと婚約ができたのでそのことをまだ知らされていない彼女に言いにいった時の彼女はとても驚いていたのを今でも覚えている。
そんなに意外だったのだろうか、普通にいつも通り接していたつもりだが違っていたらしい。
そして今に至る。
ルナと私は王城に仕事をしに行くために毎日一緒に登城しているのだ。
子供たちは家の人たちに任せているがたまにルナが二人と遊んでいるのを見る。
彼女曰く「子供には親の愛情が必要不可欠」なのだそうだ。
3歳のアスロルドと2歳のシンシアはどちらとも私の持つライトブルーの髪と、彼女の瞳の色のエメラルドグリーンを受け継いでいる。
妻に次ぐ愛らしさなので私もたまに二人の遊びに付き合っていたりするがどちらとも母親のほうがいいらしく「僕はお母様と遊ぶ」「私も」といってすぐにルナの方に行ってしまうのは何故だろうか?
家にお留守番しているであろう二人のことを考えていると突然ルナが声をあげた。
「あっ、もしかして小さい頃にスレイドに会ったことがありますか?あの時はたしか茶色の髪の毛にグレーの目だったので気づきませんでしたが...。」
と言って私の方を向いた。
思わず笑ってしまう。
「今更気づいたのですか?遅いですよ。」
本当に気付くの遅いと思った。
アリシナ嬢にも結婚式の時に言われていた気がする。
「ルナは他の人のことにはすぐに敏感に気づきますが、自分のことになると気付かないことがあるのでそこは理解してあげてくださいね。」と。
「え、言ってくれても良かったのですよ?何故言ってくれなかったのですか?!」
少し頬を膨らませて怒る彼女が面白くてさらに意地悪をしたくなってしまった私は開いてる手で彼女の頬をつつく。
「気付かないのが悪いんですよ?ちなみに、私は会った瞬間にわかりましたよ。」
「ん~。も、もう!酷いです!そんなこと言うなら私2日は口を利きません!」
それはさすがに困るのでつついていた手を止めて頬に手を寄せておでこにおでこをコツンと優しくあてて言う。
「すいません、言いましたね。」
私はちっとも反省していない声でそう言った。
冬になり寒くなってきた王都では毎日仲良く馬車で登城する夫婦の姿があった。
一方その頃、その様子を見ていた3人はお茶を静かに飲んでいた。
「なんか、暇だね。...平和過ぎて。」
「平和が一番ですよ。でもこれからそうでもないかもしれませんね。」
「たぶん平気だろう。なんたって俺が加護をあげた奴がいるんだからな。」
そう言い切る彼に他の二人は呆れた顔をする。
「いや、だから平和じゃないんでしょ。」
「そうですよ、ユファが加護をあげたこと自体が問題ですよ。いつも誰にもあげないのに。」
「俺だってあげるときはあるんだよ。....なんだよ、その目は。」
「なんでもないよ。」
「私もなんでもないですよ?」
と二人は微妙な顔で言うのであった。
明日からアリシナ視点に戻ります。次回の投稿は明日の20時です。最終話まであと2日。




