15.メイドの昔話
※とあるメイド視点です。
私はいらない存在、ずっとそう思っていた。
伯爵家の三女として生まれてきた私に親からの期待はなかった。
いつも期待されるのは2人の優秀な姉だった。
数年先に生まれた姉2人はとにかく優秀でどっちのが家を継ぐのかと周りの人たちは見ていた。
私はいつも一人で部屋の隅っこで泣いていた。
いつも少しでもできないと上の姉と比較された。
「姉の二人はお出来になるのになんであなたはこれほどのことができないのかしら。」
これは私付きの家庭教師に言われたことだ。
いつもそう言われるたびに姉達は他の人に見えないように扇子で口を覆いながらにやりと笑う。
私はいたたまれなくなりよく自分の部屋に逃げて泣いていた。
何度泣いたか分からない。
そんな私の日常はあることがきっかけで一変する。
伯爵家や男爵、子爵を集めた立食パーティーがあった。
このパーティーでは公爵家や侯爵家などの上流貴族の使用人を採用するために設けられたものだ。
使用人になり少しでも高貴な方に近づきたい、という下心丸出しで親たちは公爵家や侯爵家の当主達に言い寄る。
姉たちは自分たち自らが選ばれようと当主達に言い寄っていた。
私はというと、きっと自分は選ばれないからと垣根の近くでじっとしていた。
そんな私に声をかけてくれた私より何歳か下の美少女がお嬢様だった。
「どうしたの?どこか体調でも悪いの?」
と心配そうに私の顔を覗き込んできた。
紫色の瞳が心配そうに揺れる。
私は首を横に振る。
いつの間にかにお姉さまたちが私のほうに近づいてきていた。
「アリシナ様、もしかしてその子を使用人にと考えていらっしゃるのですか?」
上の姉がそう問いかける。
美少女は首をかしげる。
「やめておいたほうがよろしいと思いますわ。だってその子は出来損ないですもの。」
下の姉が言う。
私は思わず下を向いてしまう。
するとすぐに声が聞こえた。
「あの、貴方たちは誰なのでしょうか?勝手に人を傷つけるのはよくないのでは?」
その時のお嬢様はたぶんわざと名前を知らないふりをしたのでしょう。
ヴェルディーン公爵家のアリシナ様と言ったらなんでも完璧に覚えてしまう天才と言われているほど頭が良いと聞いたことがあった。
そんな一度覚えたことを忘れないお嬢様が人の貴族の名前を覚えていないはずがないのだ。
私はその言葉に驚き、顔を上げる。
お姉さまたちは悔しそうに扇子を握りしめているのが見えた。
「決めたわ、私この子を私のメイドにする。」
彼女は決心をしたようにそう言うと私の手をつかんで公爵家の当主のところまで連れて行った。
「お父様、私この子にします。」
と私の方を見ながら彼女は彼女の父親に言う。
公爵様は少し考えてから答える。
「アリシナがそういうならそうしよう。手配を頼んだよ、ジェラウス。」
後ろにいた執事だと思われる黒髪に紺の瞳をした人が頷く。
「手配してまいります。」
と彼は一言残し姿を消した。
その日私はヴェルディーン公爵家のアリシナ様専属メイドになることが決まった。
数日後、私は早速屋敷に向かう。
アリシナ様は玄関で私を出迎えてくれた。
「私はアリシナ・ヴェルディーン。これから私のメイドとしてよろしくね。」
そう彼女は笑顔で私に言った。
「私はティナ・ドートライトです。よろしくお願いいたします。あの、ひとつ聞いても?」
私はお嬢様の許可をとると質問した。
「なぜ私をメイドに?他にもたくさんの方がいましたよね?私はドートライトで一番の出来損ないですよ?」
彼女はすぐに答える。
「私はティナが出来損ないだとは思わないわ。だってあのパーティーの中で一番優しかったじゃない?他の人は色目を使っている人が多かったようですし...。」
私は驚いた。
お嬢様はその時まだ5歳にもならない子供なはずなのにしっかりと人の感情を読み取っていたのだ。
さらには私のことを出来損ないではないと否定した上に、私のことを名前で呼んでくれた。
今まで私は名前を呼ばれたことが少なかった。
私はいつも「おまえ」や「あなた」「その子」などと不確定な言い方で言われてきた。
実の親にも名前を呼ばれた覚えがあまりない。
しかしお嬢様は最初から私に接してくれた。
さらには名前をしっかりと呼んでくれた。
周りから見ればたったそれだけのことでも、私は嬉しかった。
そして、一生お嬢様についていこうと思った。
私を肯定してくれた、私を見つけ出してくれた。
私はそれだけで心が満たされた。
私はお嬢様にそう言われたときに思わず涙を流してお嬢様に今思っているありったけの思いを伝える。
「ありがとうございます、お嬢様。」
あまりうまく言葉に出せなかったが伝えられただけでも私はよかったと思った。
それからお嬢様のおかげでいろんな人に出会えた。
屋敷の使用人の人たちは誰もが優しく、慣れない私に丁寧に仕事を教えてくれた。
ふと、仕事の合間に庭を見た時にお嬢様は婚約者様に笑いかけていた。
私はお嬢様が笑っているだけで幸せな気持ちになれた。
お嬢様にとって婚約者様は大切な人なのだろう。
いつも皆に見せる笑顔とは違う笑顔をその方には見せるようになった。
これかもお嬢様には幸せでいてほしい。
私はそう思いながら仕事に戻った。
数年たった今では私は成人して、完全に公爵家の使用人として仕事もできるようになった。
そして、大切な人もできた。
なんと、先日彼の方からプロポーズされたのだ。
半年後には結婚する予定だ。
今日も私はお嬢様が屋敷に招いた友人と楽しそうに会話するお嬢様を見て一人幸せな気持ちに浸っていると彼が私に声をかけた。
「ティナ、何をしているのですか?」
彼いつでも少し硬い口調で話す。
理由を聞くと「慣れ」なんだそう。
「すいません、少し休憩をしていたんです。」
私はそう言った。
彼はため息をついた後に少し微笑んで言う。
「またですか。...休憩もほどほどにしてくださいね。」
そう言って踵を返して屋敷のほうに向かっていった。
彼の左手の薬指にはティナと同じ指輪がはまっていて光の反射できらりと光った。
次回の投稿は明日の20時です。




