07 違和感
出発前から災難だったが、目的地までは何のトラブルにも見舞われなかった。
自分より一回りも年上の女性にこう言うのもなんだが、ローレルがポンコツなだけだろう。
既に一時間遅れのスタート。
ギルドで確認したから依頼が被ってる事はないはずだが、依頼とは無関係に採集をするハンターに先を越されるかもしれない。
ランクが低級に昇格すると、街の外での依頼活動が認められる。この話しは先ほど述べたが、この話には色々と問題がある。
ずる賢いとも賢明とも言えるが、とりあえず簡単な依頼を受け、その依頼期間を外で過ごしながら自分の目当ての採取や討伐に当てるのだ。
依頼以外での街外での活動では、当たり前だが税が取られる。いわゆる通行税である。昔は人頭税とも呼ばれていた。
これが村、街、国ごとに定められており、これを節約するため行商人は商業ギルドに加入し、なるべく荷物(商品)税以外の出費を出さないようにし、ハンターは冒険者ギルドに加入して節約する。それ以外の一般人は仕方無しに税を払う、という仕組みだ。
この世界にも節税という考えは古くから存在する。
もともと節税や脱税がされるのを防ぐために、税は芋から小麦、そして金へと変化していったのだ。
変化していく事に、隠したり誤魔化したりが困難になる。
現に、平原を進む中でチラホラとハンターらしき者のテントを確認していた。
冒険者ギルドでは依頼が被らないため、そしてハンターの生存確認のために、エリア毎に5W1Hに則った活動を可視化したボードがある。
ハンター各々はそれを見て獲物が被らないエリアや、他のハンターの性格や仕事ぶりから目的の獲物がどう移動するかなどを推測して、依頼に望むのだ。
ちなみに5W1Hとは、When・Where・Who(誰が)・What(何を)・Why・Howという6つの疑問詞の頭文字をとった略語であり、各疑問詞の頭文字を見ると「W」で始まるものが5つ、「H」で始まるものが1つあるため、5W1Hと呼ばれている。
現代社会人の常識であるが、遥か昔からもある当然の考えと実感したのを覚えている。
今朝ギルドで確認した数よりも多いテントが確認される。
実際ただの脱税行為だが、証明が難しいし、何よりハンターに安全な依頼は事実上存在しない。常に命の危機に晒され、苛まわれる。だからギルドも黙認してる、という見解だ。
顔見知りのハンターに手を振り、軽く挨拶をする。
平原を進みながら、目当てのエリアが見えてきた。
今回の目的の薬草は三種類。そのどれもが薬草とされる前は雑草として扱われていたものだ。放っておけばいくらでも生い茂る。だからこそ生えてる場所さえ分かればすぐに見つかる。
はずだった。
(あれ……?)
薬草が既に採取されている。正確には手で無理やり引っこ抜くように、毟り取られている。
課外活動中のハンターに先を越されたか。
それにしては手際が雑すぎる。こんなやり方をしていれば他のハンターにいい顔をされないどころか、ギルドにチクられて問題に発展する可能性すらある。黙認されているからこそ、取りすぎない&キレイに、が暗黙のマナーなのに。
ディーは毟り取られた場所を、身を屈めて確認する。
乱雑に採取された草はそうだが、周りの木々や地面も荒れている。
地面は何度も足裏の汚れを落とすように擦られている。その地面で落ちている小枝はバキバキに折られている。そして薬草の周りの雑草は踏みしめられている。
随分細かく踏まれている。
いや、目を凝らすとそうではない事がわかった。
一つ一つの足跡が小さいのだ、少年であるディーのより、ほんの少し小さい。
なぜ、こんな足跡が?
ディーの他にこのブールストリームに幼いハンターは少ない。
街内の野犬討伐で遭った少年ハンターのような者は、数は少ないが居る。
しかし、それは最低ランクで街の外には出られない。だからこそ周りのハンターからディーは多少なりとも認められたのだ。
それなのになぜ?
周りの状況確認をするが、これ以上の手がかりは無さそうなので身体を起こす。
膝についた土埃を払い、空を見て気分を切り替える。
こういうこともあるだろう。
ハンターにもローレルみたいな駄目な大人も居るし。
それに他のエリアにも、群生地はある。少し遠いがそちらに足を伸ばそう。
(ウソだろ……)
あれから30分ほど歩いて別の群生地に辿り着いた。
しかしここでも、お目当ての薬草たちは全滅だった。
(おいおい、マジかよ)
まさかこの場所すら取り尽くされているなんて、冗談じゃない。これはやり過ぎだ。
もしかして最近きたハンターの中に、不作法をする奴でもいるのか? これはギルドへの報告事案だ。
小遣い稼ぎ程度の採取なら見逃されるが、肝心の正式な依頼に支障をきたすようでは本末転倒だ。
ディーは苛立ちしながら、他の方法を思案していた。
元は雑草、更に足を伸ばせば別の群生地はある。
しかもそこは、他のハンターよりディーにとって慣れた場所だ。
ズバリ“死の森”だ。
現在居る地点は、街、平原、森、山の順番で“死の森”に近づいている。
更に“死の森”は安全地帯(人間種にとって死亡率が低い)から危険地帯、そしてダンジョン地帯と危険度がどんどん跳ね上がるエリアへと分けられている。
そこの安全地帯ならディーには覚えがある。森人の里に居た頃、何度か訪れたことがある。
その森を一定距離外周すれば、街へと続く平原が現れるので帰路も確保できてる。
数ヶ月前にディーがエルフの兵士に送られた場所の地続きである。
(面倒だが行くしかない。それにローレルの依頼で失敗はプライド的にも許せない)
残っている薬草はないか、念のために再度確認したところ。
(あれ……?)
先程のエリアとは何かが違うと感じた。
なんだろう、何が違う。いっしょのはずだ。
ディーは注意深く観察する。
土は荒れ、枝は折られ、薬草は刈り取られている。
そうだ、さきのエリアでは薬草は毟り取られていた。しかし今回は違う。刈り取られている。
根こそぎ毟り採られているわけではない。薬草は採取されているが、薬草以外の雑草は踏まないよう丁寧に残されている。踏みしめられた跡がない。
(さっきのエリアとは別人? こっちこそハンター?)
一時、頭を捻り考えるもすぐ止める。
結局薬草が残ってないことを確認したディーは、気を引き締めて“死の森”へ向かい始める。
この足跡がやはり小さい足跡だったことを、ディーは知らない。




