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現世でも異世界でも捨てられた俺、孤児たちを見捨てられない――気づけば孤児院が町を動かす商会になってた件  作者: 薬屋 翼
Prologue

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03 商談

 ディーは人間種(ヒューマン)の街に来た目的を果たす為、行動を開始していた。


 森人の里から持ち出しの許可を得た唯一のもの。

 それは森人の知識。

 里で学んだ知見を本にまとめたもの。

 それを販売するために、成人前から数年がかりで準備をしてきた。


 その前に、まずはヒューマンの街に慣れることを最優先に。

 次点で、森人の知恵や考えに需要があるのかを調べること。

 10年間里で見聞きした限り、森人からのヒューマンへの忌避感は凄まじいものだ。

 人間種(ヒューマン)も森人と同等なら、ディーの行動は危険だ。

 万が一広まって反感を買った結果、魔女裁判に掛けられ処刑なんて、笑えない。

 しかし、冗談では済まされない。

 そもそも、この世界に信仰の自由という発想が存在するのかさえ怪しい。

 なので一方向からではなく、双方向から見比べなければならない。


 結果は良好。

 森人の凄まじい嫌悪感とは裏腹に、人間種からの矢印は好意的だった。

 人間種にも思うところは多々あるだろうが、事が大きくなければ概ね問題なし。

 寧ろ森人に関することなら食いつきが良いとさえ来た。


 そうした情報から、ディーは主に大店の商店と書店に営業を行っていた。

 もちろんアポイントメントなんてない、いわゆる飛び込み営業だ。

 想像の通り、反応は芳しいものではなかった。

 トップ営業マンでも成約率5%を常に維持できるかどうかという世界だ。

 だからこそディーの表情にそこまでの落胆の影はない。

(まだ本命は残っている。それに断られた商店も思いの外、温度感は低くなかった。……意外にも話を聞いてもらえる)

 日本の都会で体感した冷たさとは比較にならない、ティッシュ配りさえ冷たくあしらわれる。

 海外なら笑顔や冗談を言いながら勝手にもらってくのだから、面白い。


 そして狙いの店に辿り着く。

 事前にリサーチ済みである。

 大通りより外れた通りに店を構え、外の明るさに比べ店内の暗さが際立つ、古本を主に取り扱ってる店だ。

 ハナから大店の店に置いてもらえるとは思っていない。挨拶と顔見せが出来れば充分だった。


 店の古びたドアを開ける。

 店内で取り扱う著書や、年代、扱い方、見せ方を観察しながら奥に掛けている店主と思われる初老の男性に話しかける。


「こんにちわ、ちょっと見させて頂きますね」

「…………お好きにどうぞ」

 明後日の方向を向きながら無愛想に店主は答える。

 ディーは笑顔で返事をし、しばらく店内を観察する。


 お目当ての豪華な外装かつ、ややマイナーな本を手に取る。

(たしか、これは……)


「店主……これ、ダボの【天涙】の初版じゃないですか! 珍しいですね」


 ディーは厳かな雰囲気の外装をした本を手に取り、その装飾に使われてる毛糸を観察する。きめ細やかで美しい発色の毛糸だ、これは特定の虫の血液からしか採取できない高級品だ。

 著者ダボは貴族御用達の書き手で、貴族向けに作られた豪華な初版はディーのような一般人にはお目にかかれないのだ。一般用に卸す場合は、中身だけ写本して、外装は質素で簡素なものになる。


 店主は少し驚いたように顔と声音を上げた。

「子どもがよくダボなんて知ってるね」

「知り合いが持っていましてね。その人のお気に入りだったんですよ」


 貴族御用達の書き手には、貴族をイエスマンとした書き手か、貴族へすり寄った本を書く者が多い。そんな中ダボは市井(しせい)の者にも好かれる書き手だ。

 だからこそ本好き、読書好きには堪らない餌や取っ掛かりとなりえる。


「その分じゃ読ませてもらったんだろ、どうだった?」

(本好きの同士かどうか見定めようとしているのか?)

 ディーは多くを語らないよう、慎重に言葉を並べた。

「天涙という名の施しを民に垂らすことができるのは、お貴族様だけだと皮肉ってるのが好きですね」

「……当のお貴族連中は【(かみ)が泣いているならば、民は頭を垂れて神からの許しを請え】って解釈したけどね。ほんと嫌になるよ」

 二人で皮肉を言い合い、最後に鼻で笑う。

(どうやら審査は合格のようだ)

 ようやく店主の両目がこちらを向いた。



 その後ダボについて語り合ったり、貴族(パトロン)がいないと書き手が育たない社会問題など、お互いとめどない読書トークを交わした。

 最後に一番盛り上がった書き手の変態エピソードが終わった頃。


「それで、なにか探してるのかい。ダボの初版みたいなレアものか、それとも掘り出し物か?」

(来た、ここだ!)

「後者ですね」

「どういうのだ?」

「森人に関する本とか」

森人(エルフ)? 関わったことへの後悔や戒めが載ったのは数冊あるが、エルフに関してのみの本はないな」

「あったら読みたくありません?」

「そりゃ読んでみたいさ、先達のバカ者のやらかしのせいで、エルフはめっきり人里に来なくなったからね」

 溜息をはき「愚かな」と店主がボヤいた。


 ディーは鞄から一冊の本を手に取る。

 まだ店主の視界には本は映り込んでいない。

 喉に痰が絡みついている気がする。

 急に喉が渇き上がった錯覚さえし始めた。

 ディーは声が上ずらないように、ゆっくりと発音した。


「こちらがその本です」


 店主の目は、冷ややかだった。

 趣味を語り合える友が、同士だと思っていた者が急に別人と感じ、途端に目の前の人間から体温を感じられなくなったのだろう。

 営業か詐欺師か、はたまた迷惑な押し売りか怪んでいるのが目に取れる。

 本気の拒絶反応は心にクるものがある。

 しかし、ここで折れるわけにはいかない。


 商談相手が真顔になってからが正念場だ。


「証拠は?」

「こちらをご覧ください」

 ディーは首飾りを外し、本の上に置く。

「……これは?」

「森人の里で一人前の証とされるものです、過去、里に認められた人間種はこれをつけ、エルフと人間種の架け橋になっていたと先達から聞いております」

「先達? お前は人間種だろう」

「はい、その通りです」

 店主は尚もワケが分からないと眉を曲げた。

 ディーはそんな店主の顔を見つめ、キッパリと伝えた。


「私はエルフに育てられたヒューマンです」


 店主は今度は本当に驚いたのか、前のめりになった。

 一瞬口を開くが、すぐ口を閉じたあと顎に親指を置きディーに尋ねる。

「なるほど、この首飾りには森人の里近くの崖でしか取れない緑仙石が使われてる。古門書に記載もあるし、人伝てにも聞いたことはある」

「信じていただけましたか? 私がこの街に来たのも、再びエルフとヒューマンをつなぐ架け橋の役目を与えられたからです」

「それなら街長や貴族に掛け合えばいいだろう」

「エルフは再び人に裏切られるのを恐れているのです」

 今度はこちらが冷ややかな声を放つ番だ。


「そんな中エルフ達は私を育てられたのです。

 これは森の意思ではないか、人間種にもう一度寄り添うべきではないか、機会を与えるべきではないか、と」

 芝居がかった演技で天に祈りを捧げる。


 十秒ほど祈りを捧げた後、

 すっと目を開け、言葉を続ける。

 ディーの口から出た声は恐ろしく張り詰めていた。


「しかし選別は必要だ。愚か者に我々の知恵を与えるわけにはいかない。」


 突然口調が代わり驚く店主。

 刺すような視線は店主を数秒射止め、

 そして糸が切れたかのように、表情がゆるむ。

 パッとディーの表情に温かさが染み渡る。

 微笑む表情には年相応の幼さが戻っていた。

 しかし店主には、エルフの人間種に対する剣幕を、ディーを透して見せている気がした。


「その仕分けを私ら古書店でやろうというのか」

「お察しのとおりです」

 ディーは目を閉じ、軽く会釈するような姿勢を行う。

「ただ施してはいけないのです、それでは以前の繰り返しですから」

「……具体的に私に何をさせたいのさ」

 ディーは心の底から微笑む。

「店主に御負担をかける気はありません。ただこの本を求める者がいたら、その者にお売り頂ければいいのです。」

「? なら選別とやらは…………あぁ」

 納得がいったようだ。

「店主が今までの変わらないお仕事をして頂ければ、それだけで選別は完了します」

「商店だと選別にはならないと」

「ええ。積極的に営業をかける商会や、ランキングや売れ筋などの分かりやすい目安に(すが)る者に、エルフの知恵を得る資格はありませんから」


 店主は観念したように頷いた。


「わかったよ、自分から探してきた奴や、見つけた者にそのまま売ればいいんだね?」

「はい、その通りに。契約成立ですね」


 ディーは小さな手を店主に差し出す。

 店主は躊躇う様子を少し見せた後、握手に応じた。

「売れる見込みは低いよ」

「構いません。エルフは1,000年生きますから」

 店主は呆れたようにため息をはいた。

 ディーは握手を解くと同時にニヤッと呟く。


「売れなくても()()()()何も困りませんからね。」


日本作家のもぞもぞ変態エピソード紹介


太宰治は芥川龍之介をアイドルとして見てた。

芥川龍之介は人妻をNTRするのが好き。

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