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現世でも異世界でも捨てられた俺、孤児たちを見捨てられない――気づけば孤児院が町を動かす商会になってた件  作者: 薬屋 翼
Prologue

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13/15

13 接木の不協和音 

 ――背後で馬車が離れていくのが聞こえる。


 ディーは一番後方を走っていた。

 前に槍使い。その槍使いを逆三角形の頂点に見立て、更に離れた左右の位置を前衛二人が駆けている。

 スイッチが入った彼らの動きは鋭い。

 ぐんぐんとディーを突き放す。

 如実に子どもと大人の身体能力の差が現れる。

 槍使いだけが徐々に離れていく後方を気遣い、ペースを落とし始めた。


 最も大事な役割の彼の足を緩めるわけには行かない。


 ――突如、ディーの周りの空間が微振動するようにサーバー室のような低音を発す。


 魔力。この世界の全てに宿っているエネルギーのこと。

 勿論、人にも宿っている。

 そのエネルギーを操ることで、魔術と呼ばれる人ならざる超常現象を起こすことができる。

 しかしそれは別の高次元な話。

 今回はその前段階。


 ディーは外に逃げようとする魔力を身体に留め、身体能力を向上させる。


 歩幅と足の回転数はそのままで、しかし速度は槍使いに迫るほど向上した。


「私は大丈夫です、このペースで行けます!」

「了」


 ディーの言葉を聞き、槍使いの速度が上がる。


 前衛の二人と獲物までの距離は約50メートル。あと10秒ほどでディー達も接触する。

 前方から声が響いた。


「ディー! もう狙えるか!」


 ――舐めるな、既に射程圏内だ。


 前方にスキップするように跳ぶ。

 槍使いがそれに合わせるように速度を緩め、斜下に捌ける。


 跳んだ瞬間、全身を脱力させる。

 しかし両の腕は淀みなく弓を射る動作を行なう。

 ディーの躯が放物線の頂点にたどりついた。

 その瞬間、唯一跳躍の勢いが一時緩まる刹那。弓を射抜く。


 ――銀色の閃光が前方の獣に穿たれた。


 すぐさま下半身に魔力を纏い急ブレーキに備えた。

 ズザザザ! と砂煙を上げながら地面を削り、激しい勢いが落ち着いた頃、再び駆け出す。


 高音の叫び声が聞こえた時には、射抜かれた獣は地面に伏せるところだった。

 よし! 心の中でガッツポーズを上げ、フォーメーションに戻る。


 前衛の二人はすでに戦闘開始していた。

 倒れた獣の両サイドに斬りかかる。

 二人が剣を切り抜いた後、その背後から獣が噛みつこうと跳躍する。

 そこに槍が突き刺さる。


 既に四匹を仕留めた。

 良い出だしだ。


 ディーは再び狙撃を行うため、サイドに身を寄せながら矢筒に手をかける。

 獣達との距離が近くになったことで、先程より奴等の姿がハッキリと見えた。



(……違う)



 突然、頭の中でここまでに交わされた会話が再生される。


「まあ野犬程度なら楽勝だろ」


(……違う)


「街に現れてる野犬、その群れがコイツらだ。ここで一網打尽したい」


(違う) 


 ディーの右手は矢筒で矢をつまんだまま。

 しかしそんなことは獣達には関係ない。

 先ほど仲間を射った狩人が一匹。

 動かない子どもになっていた。

 餌が、立っている。


 獣達が狙いを切り替えたのが分かった。


「何やってるクソガキ! 動け!」

 ハッ! と怒鳴り声で動作を再開するディー。


(こいつらは()()()()じゃない!)


 一匹が前衛と中継の間を素早く駆け抜けた。


 街に出た野犬はこんなに大きくない。

 その姿は大型犬を更に一回り大きくさせたサイズだ。巨大な狼を思わせる。


 慌てて弓を射る。

 しかし射った矢は獣の横を通り過ぎる。


 眼前に迫りつつある獣は、ディーが困惑しているのを理解していた。


 横や斜めに動かず、狙いがブレて矢が定まらないのを見越して、()()()真っ直ぐこちらに向かったのだ。


 あの野犬達はこんなに賢くない。

 あれはただの野犬、野良犬だった。

 こちらの意図を読み取るような頭や観察眼を持っていなかった。

 こちらが殺気立った構えを取らないと、逃げようとすらしなかった。


 槍使いが慌てて90度姿勢を変え、ディーの援護に向かおうとした。

 前衛二人と対峙していた獣が小さく吠え、その背後から更に二匹の獣が回り込むようにして槍使いに迫る。

 獣達のコンビネーションに三人が注意を取られる。


 アイツらはこんな賢くない。


 ディーの体躯を遥かに上回る獣が眼前に迫っていた。

 その牙は、容易にディーの(からだ)を一噛みで両断するだろう。


 前衛二人は獣達の足止めで手一杯。

 槍使いは挟み撃ちに迫る獣二匹の対応。

 こちらへの援護は不可能。


 前から迫る足音が、地鳴りのように鼓膜を震わせた。

 弓を射る余裕すらない。



 ――首筋を撫でる冷たい風が、飢えた怪物の顎がすぐそこまで肉薄していることを告げていた。

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