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現世でも異世界でも捨てられた俺、孤児たちを見捨てられない――気づけば孤児院が町を動かす商会になってた件  作者: 薬屋 翼
Prologue

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12/15

12 戦闘開始

 受付嬢の勧めで紹介された三人の男は皆、ブールストリームで以前から活動していたハンターだった。

 数ヶ月前から活躍し始めたディーのことも把握しており、あとはこちらが承諾するかどうかだけだった。

 迷いつつも承諾しかけた時、ハンターの一人が告げた。

「前から街に現れてる野犬、その本体の群れがコイツらだ。ここで一網打尽したい」

 その一言が決定打となった。


 彼らと握手を交わし、ギルドが外に手配していた馬車に乗り込む。

 手際の早さからギルドの本気度が(うかが)える。

 おそらく受付嬢の様子から、最初からディーに標的を定めていたのだろう。困っているのは本当だが、報酬が低い点から依頼受注は困難。だから困った様子を喧伝(けんでん)し、同調圧力を利用しディーを引っ張ってくる算段に変更。こんなところだろうか。

 しかし、裏を返せばそんな事をしなければいけない程の緊急案件。



 道の石の上を馬車が乗り上げる度に、下から突き上げる衝撃が臀部に伝わる。

 既に街を出て数十分が過ぎた。

 未だにこの衝撃に慣れない。初めて馬車に乗ったがここまで痛いものなのか。帰ったら尻の皮が剥けているのでは? と思っていたら声が響いた。


「最終確認だ。フォーメーションは前衛二人、中継一人、後衛一人の縦長の陣形、問題ないな?」


 ディー含む三人が頷く。

 声をかけた男が今回の暫定的なリーダーで前衛の剣士。片手に剣と盾のスタイル。


「異論無し! まあ野犬程度なら楽勝だろ」

 リーダーの隣で座席に深く背を預けたのがもう一人の前衛。こちらは剣一本のみを携えたスタイル。装備も軽装なのでフットワーク重視なのだろうか。


「俺は初めて組む奴に背中を預けるのは不安だ」

 隣でディーを不安視するのは中継役の槍使いだ。

 槍は抜き身のまま外側に立て掛けている。

 彼の言う通り見識がない、しかも弓使いに背後を預けるのは不安だろう。誤射などされたらたまったもんじゃない。

 更に彼は槍という長物を扱うのに、前衛剣士二人と後衛のディーとの中継役を任されている。

 この陣形で、このポジションは責任重大である。彼が崩れたら縦長の陣形は簡単に分断される。

 理想を言うなら、槍使いの彼が前衛でフットワークに自信がある剣士が中継役が堅実に思える。

 しかしそれは性格的に難しいとのこと。

 前衛二人は集中すると視野が狭まってしまう傾向、良く言えばシングルタスク脳。

 反対に槍使いの彼は一番槍というより、周りをよく見たり気を配るのが得意らしい。いつも中継役を任せていると言う。


「同感ですね。……だから(あらかじ)め言っておきます」

 槍使いの不安は真っ当。

 だからこそここで払拭する必要がある。


 三人が耳を傾けた。


「万が一、私に野犬が襲いかかったとしても陣形を崩さなくて結構です。あ、流石に何頭も処理するのは難しいのでその場合はフォローお願いします」

 腰の後ろの短刀をぽんぽんと叩く。

「これで対応します」


 甲高い口笛が鳴る。

 深く背を預けていた剣士の姿勢が前のめりになった。

「弓が通用(きか)ないなら剣で、ねえ。ガキのくせに器用じゃんか」

 カカカと笑いながらズイっと顔を近づける。

「そんな余裕こいて大丈夫かよ。俺等が野犬達を素通りするかもしれねえぜ?」

「おい!」

 リーダーがからかう男を静止する。


 窓から見える風景が草原一色から、森と草原が交わう景色に変わっていた。

 人間のエリアから、野獣と魔物が現れるエリアに。

 敵は近い。


 ディーは短い足を組みかえる。

 その表情は余裕たっぷりの表情だ。

 ブールストリームに来て何度舐められ・揶揄(からか)われ・搾取されかけたと思っている。

 最早ポーカーフェイスは、ディーの一部というほどに自然に馴染んでいた。


「構いませんよ? その時は後ろからケツの穴を増やしてやりますよ」


 フン! と鼻息を荒く吐き、眼前の剣士を見つめる。

 バチバチと二人の間に緊張が走る。

 喧嘩(スラム)流には喧嘩流で。やられたらやり返すのがハンターの鉄則だ。


「クソガキが」

「はっ」

「おいおいお前ら」

「勘弁してくれ……」


 車内の空気が張り詰める。


 しかしその空気は、遠くで蠢いた複数の影ですぐさま入れ替わる。

 有象無象の影が動く。

 間違いない。


「じゃれ合いはここまでだクソガキ! せいぜい活躍しな!」

「ええ、帰りは敬語を使わせてやりますよ」

「切り替えるぞ! 打ち合わせした通りのフォーメーションで!」

「戦闘中だけは仲良く頼むぜ、マジで」


 御者が鞭で馬に指示し、影の集団に向かい一直線に向かう。

 起伏がある地形に変わってきた。跳ね上がる衝撃が鋭く何度も伝わる。


 さきほどの騒ぎはウソのように車内は静かだ。


 近づく。


 離れた距離からでも獣臭さが鼻につき始めた。


 ピシィッ! と鞭が唸る。

 直後、手綱が引き絞られ、馬は激しく(いなな)きながら前脚を突っ張らせた。

 馬の引き裂くような悲鳴が響き、蹄が何度も土を削って土煙を散らす。

 馬は荒い鼻息を吐き出しながら、前のめりに崩れるようにして急停止した。


 御者がこちらを振り向いた。

「私はここまでです! ご武運を!」

 御者の声が届く前に、四人は弾かれたように動き出していた。


 獣達の警戒レベルが跳ね上がったのが分かった。



 ――戦闘開始。

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