12 戦闘開始
受付嬢の勧めで紹介された三人の男は皆、ブールストリームで以前から活動していたハンターだった。
数ヶ月前から活躍し始めたディーのことも把握しており、あとはこちらが承諾するかどうかだけだった。
迷いつつも承諾しかけた時、ハンターの一人が告げた。
「前から街に現れてる野犬、その本体の群れがコイツらだ。ここで一網打尽したい」
その一言が決定打となった。
彼らと握手を交わし、ギルドが外に手配していた馬車に乗り込む。
手際の早さからギルドの本気度が窺える。
おそらく受付嬢の様子から、最初からディーに標的を定めていたのだろう。困っているのは本当だが、報酬が低い点から依頼受注は困難。だから困った様子を喧伝し、同調圧力を利用しディーを引っ張ってくる算段に変更。こんなところだろうか。
しかし、裏を返せばそんな事をしなければいけない程の緊急案件。
道の石の上を馬車が乗り上げる度に、下から突き上げる衝撃が臀部に伝わる。
既に街を出て数十分が過ぎた。
未だにこの衝撃に慣れない。初めて馬車に乗ったがここまで痛いものなのか。帰ったら尻の皮が剥けているのでは? と思っていたら声が響いた。
「最終確認だ。フォーメーションは前衛二人、中継一人、後衛一人の縦長の陣形、問題ないな?」
ディー含む三人が頷く。
声をかけた男が今回の暫定的なリーダーで前衛の剣士。片手に剣と盾のスタイル。
「異論無し! まあ野犬程度なら楽勝だろ」
リーダーの隣で座席に深く背を預けたのがもう一人の前衛。こちらは剣一本のみを携えたスタイル。装備も軽装なのでフットワーク重視なのだろうか。
「俺は初めて組む奴に背中を預けるのは不安だ」
隣でディーを不安視するのは中継役の槍使いだ。
槍は抜き身のまま外側に立て掛けている。
彼の言う通り見識がない、しかも弓使いに背後を預けるのは不安だろう。誤射などされたらたまったもんじゃない。
更に彼は槍という長物を扱うのに、前衛剣士二人と後衛のディーとの中継役を任されている。
この陣形で、このポジションは責任重大である。彼が崩れたら縦長の陣形は簡単に分断される。
理想を言うなら、槍使いの彼が前衛でフットワークに自信がある剣士が中継役が堅実に思える。
しかしそれは性格的に難しいとのこと。
前衛二人は集中すると視野が狭まってしまう傾向、良く言えばシングルタスク脳。
反対に槍使いの彼は一番槍というより、周りをよく見たり気を配るのが得意らしい。いつも中継役を任せていると言う。
「同感ですね。……だから予め言っておきます」
槍使いの不安は真っ当。
だからこそここで払拭する必要がある。
三人が耳を傾けた。
「万が一、私に野犬が襲いかかったとしても陣形を崩さなくて結構です。あ、流石に何頭も処理するのは難しいのでその場合はフォローお願いします」
腰の後ろの短刀をぽんぽんと叩く。
「これで対応します」
甲高い口笛が鳴る。
深く背を預けていた剣士の姿勢が前のめりになった。
「弓が通用ないなら剣で、ねえ。ガキのくせに器用じゃんか」
カカカと笑いながらズイっと顔を近づける。
「そんな余裕こいて大丈夫かよ。俺等が野犬達を素通りするかもしれねえぜ?」
「おい!」
リーダーがからかう男を静止する。
窓から見える風景が草原一色から、森と草原が交わう景色に変わっていた。
人間のエリアから、野獣と魔物が現れるエリアに。
敵は近い。
ディーは短い足を組みかえる。
その表情は余裕たっぷりの表情だ。
ブールストリームに来て何度舐められ・揶揄われ・搾取されかけたと思っている。
最早ポーカーフェイスは、ディーの一部というほどに自然に馴染んでいた。
「構いませんよ? その時は後ろからケツの穴を増やしてやりますよ」
フン! と鼻息を荒く吐き、眼前の剣士を見つめる。
バチバチと二人の間に緊張が走る。
喧嘩流には喧嘩流で。やられたらやり返すのがハンターの鉄則だ。
「クソガキが」
「はっ」
「おいおいお前ら」
「勘弁してくれ……」
車内の空気が張り詰める。
しかしその空気は、遠くで蠢いた複数の影ですぐさま入れ替わる。
有象無象の影が動く。
間違いない。
「じゃれ合いはここまでだクソガキ! せいぜい活躍しな!」
「ええ、帰りは敬語を使わせてやりますよ」
「切り替えるぞ! 打ち合わせした通りのフォーメーションで!」
「戦闘中だけは仲良く頼むぜ、マジで」
御者が鞭で馬に指示し、影の集団に向かい一直線に向かう。
起伏がある地形に変わってきた。跳ね上がる衝撃が鋭く何度も伝わる。
さきほどの騒ぎはウソのように車内は静かだ。
近づく。
離れた距離からでも獣臭さが鼻につき始めた。
ピシィッ! と鞭が唸る。
直後、手綱が引き絞られ、馬は激しく嘶きながら前脚を突っ張らせた。
馬の引き裂くような悲鳴が響き、蹄が何度も土を削って土煙を散らす。
馬は荒い鼻息を吐き出しながら、前のめりに崩れるようにして急停止した。
御者がこちらを振り向いた。
「私はここまでです! ご武運を!」
御者の声が届く前に、四人は弾かれたように動き出していた。
獣達の警戒レベルが跳ね上がったのが分かった。
――戦闘開始。




