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現世でも異世界でも捨てられた俺、孤児たちを見捨てられない――気づけば孤児院が町を動かす商会になってた件  作者: 薬屋 翼
Prologue

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10/15

10 ノルマンディーの穴

 ――腰の後ろの短刀を抜き放つ。

 助走で勢いづいた剣先は眼前に迫っていた獲物を勢いよく切り裂く。

「……っ!」

 横一文字に切り裂き、骨に引っかかる短刀を力任せに振り抜く。


 赤い血が革のグローブにどっぷりと染み付き、途端に鉄と生臭い匂いが鼻につく。


 次に、5メートル先にまで迫ってきた獲物に狙いをつける。

 短刀を再度真横に振り抜き、目潰しを扇状に飛ばした血で行う。

 きゃうん! と情けない声が鳴る。

 必死に前足で血を拭おうとしていたが、それが叶うことはなかった。

 ――その前足は、地についた前足と同時に切り落とされたからだ。

 突然支えを失い、前のめりに倒れるところを、返す刀で斬り上げる。

 いわゆる燕返し。

 第一刃の逆袈裟からの燕返し、そして唐竹・切り落としの第三刃が最後だ。

 真下でピクピクと脈打つ生物だったもの。

 死に納得せぬまま生を垂れ流す姿を他所に、ディーは頭を左右に振る。


(右に一、……左に二!)


 短刀を空中に挿す様、右手を放す。

 地面に対し直角に落ちていく刃。

 サクッと地面が鳴った時、ディーの右手は矢を、左手は弓矢を構えていた。

 慣れた手つきで弓矢を引き絞り、左で素早く動く影に照準を合わせる。


 獲物が死角に回ろうと楕円をなぞるよう駆ける。

 ハンターが構えるも角度が悪い。

 旋回が足らないため、このままでは獲物の牙が肩に届いてしまう。これでは防げても体勢が崩れ倒れてしまう。

「うおっ!」

 ハンターは見てしまった。

 獲物の迫る牙を。

 人とは段違いな、殺意が研磨された鋭利な犬歯を。

 必ず食いついて離れない執着を感じさせる溢れた涎を。

 そしてこちらの全てを拒絶するような黄色の眼差しを。


 直視してしまったのだ。

「……あ」

 ギョッと金縛りが起こる。

 体が動いていない。

 滲み出す死の余暇。

 頭の中の秒針が数十倍速で刻み始める。

 背後から様々な光景が急速に前に進み、消えていく。


 獲物の顎がハンターの肩に噛みつこうとしていた。

 ――銀色の線が横切った。

 獲物の側頭部に銀の鏃が突き刺さる。

 矢が突き刺さった衝撃で、片方の目玉が零れ落ち、獲物は倒れないよう姿勢をかろうじて保つ。

 ぷるぷると生まれたての子鹿のように震えている。

 そんな姿を嘲笑うかのように、きりきりと弓矢を引き絞る音が獲物の耳に届いた。

 張り詰めた風の音がした後、獲物を真横に倒れ絶命した。


 ディーが弓を片手に駆け寄る。

「大丈夫ですか……!」

「あ゙、あぁ、助かった……」

 ディーはハンターに外傷がないことを確認すると、声を張り上げる。

「まだ終わってません、切り替えましょう! 立てますか?」

「大丈夫だ、まだイケる」

「弓で援護します」

 ハンターは立ち上がり、少し離れた位置にいる獲物に向かっていく。

 ディーは反対方向に向かい叫ぶ。

「もう少し耐えてください! こちらから片付けていきます!」

 腹から声を張り、一人で遅滞戦闘を続けている片方のハンターに言い放つ。

 槍一つで獲物と渡り歩いていたハンターの表情は苦虫を潰し様だ。

「もう持たねえぞ……!」

 時間稼ぎと牽制を兼ねた一矢を、槍を躱し続ける獲物に放つ。

 軽々とフットワーク良く避けられるが問題ない。

 ディーを横目で睨みながら、獲物はグルルと歯茎から犬歯を剥き出しに唸る。

(よし、こっちに注意が向いた)

 この隙に反対サイドが片付いてくれれば僥倖だ。

 後ろに下がりながら弓矢を構え、視界を広く保つ。

 視野を左の獲物に定めつつ、左右の端に獲物を捉える。

 左では2対一、右は1対一の攻防。

 どちらも余裕はない。


 舌打ちをする。

「こいつら一体何なんだよ!」

(俺が討伐してきた野犬は一体何だったんだよ!?)


 正体の掴めない獲物を前に、ディーは叫ぶ。


 ディーがこのような事態に陥ったのは、数時間も前のことだった。

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