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「終活させてくれ!」〜お一人様、中年男の叫び〜  作者: さつき けい


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その7・親族と対立する


 タイキーは最短の裏道を使って家に戻った。


「すまんな、テクス。釣りはまた今度だ」


「あ、いえ。構いません」


事情はよく分からないが、何か危険なことがあるのだと察し、テクスは頷いた。


 タイキーはすぐに応接間を整え、上品な服に着替える。


弱みを見せたくないので髭も丁寧に剃り、頭髪にも櫛を入れる。


そうこうしているうちに、鉄門が軋む音が聞こえてきた。


「おいでなすったようだな」


面倒なことには口が悪くなる。


これは警備隊にいた弊害かもしれない。


タイキーは玄関扉の内側に立ち、扉が開くのを待つ。


テクスはその斜め後ろに立っていた。




 やがて、ザワザワとした声と共に三人連れの男性が入って来る。


中央の男は黒髪に黒髭だが、身体は細身で背丈もそんなに高くはない。


護衛兵士と文官らしい男性を連れていた。


「失礼するぞ、タイキー」


「やあ。久しぶりだね、カザン」


年齢もほぼ変わらない。


カザンは隣り街トリトスに館があり、名家の嫡男として育った。


タイキーのいるイガリスと街の規模はそんなに変わらないが、この地方の領主が住んでいる。


「わざわざ出向いてやったんだ。ありがたく思え」


そのため、カザンは観光地イガリスを下に見ていた。




 客用応接間に案内すると、カザンは横柄な態度でソファに座る。


その後ろに二人の同行者が立った。


「おい、そこの小僧!。早くお茶くらいだせ。気が利かないヤツだな」


テクスに向かって大声で指示する。


「カザン、この少年は使用人ではない。王都の商会から預かっている客人だ」


タイキーが睨みつけるとカザンは怯んだ。


「な、なんだよ。客なら客らしくしろ!」


ヤケクソ気味に怒鳴る。


相変わらず気の小さい男だと、タイキーはため息を吐いた。




 タイキーがお茶を淹れに行こうとするとテクスが小さく囁く。


「僕なら大丈夫です。お茶、淹れて来ます」


「……すまん、助かる」


タイキーはテクスに任せた。


「それで、何の用だ?」


カザンの気色悪いニヤニヤが始まる。


「領主様に代わってお前の税を取り立てに来てやったんだ。支払いが滞っているんだろう?」


何のことか分からず、タイキーは首を傾げる。


「滞っている支払いなど心当たりはない。何かの間違いだろう」


タイキーがとぼけていると思い、カザンは声を荒げた。


「嘘つけ!。お前がこの街に戻ってから領主様の御屋敷に一度も来ていないことは調べがついてるんだぞ!」


その剣幕にお茶を運んで来たテクスが「ヒッ」と声を上げる。


「ああ、すまん、テクス。ありがとう」


タイキーが手伝ってカザンの前にお茶と菓子を置く。


来客用の菓子は常に用意されている場所をテクスには教えてある。


食器や皿はテクスが選んだのだろう。  


センスが良いなと感心する。




 王都と違って、地方では一定額以上の収入がある商人や富豪は領主屋敷へ税を納めに行く。


領主館にいる徴税管に直に収支報告をしたり、税の減額を嘆願したりするためである。


領主屋敷に近い場所に住むカザンは出入りする者を調べさせていたのだろう。


この一年の間、タイキーが訪れていないことを知っていた。


 お茶を一口啜り、タイキーは改めてカザンに問う。


「領主様から頼まれたのか?」


「いーや。一族の恥だから、領主様が気付かぬうちにこの私が納税しておいてやろうと思ってな」


カザンは「うまいな」と言って、菓子を口に詰め込み始める。


「なるほど。こちらの心配をしてくれたわけだ」


タイキーの返答にカザンは「むぐ」と頬張った菓子の屑をこぼしながら頷く。


「そうか」


タイキーは薄っすらと笑みを浮かべた。




 カザンの事情は知っている。


「まあ、俺は独り身だし、別に誰にも迷惑かけないけど。カザン、君の奥さんと娘さんは大丈夫かい?」


カザンは「ぐふっ」と飲みかけたお茶を吹きそうになる。


「よ、余計なお世話だっ!」


「そうだね。君の家庭の事情だし、俺には関係ない。だけど、借金がバレて妻子が出て行ったって、この街でも噂になっているが?」


「う、うるさいっ!」


あから様に不機嫌になり睨み付けてきた。




 カザンは投資に失敗し、多額の借金を抱えている。


タイキーの祖父が亡くなった後、この家を使用人に任せていたのだが、カザンは頻繁に現れては祖父の財産を奪おうとしてきた。


「タイキーは王都から戻って来ないんだろ?。じゃあ、血縁であるこの私が管理するのが当然ではないか!」


そう言って脅してきたが、管理を任せていた使用人はきちんと対応してくれた。


「いえ。若旦那様はきちんと相続され、領主様にも認められております。今は王都のお仕事の引継ぎで忙しく、それが終わり次第お戻りになるそうです」


タイキーは管理人と綿密に連絡をとりながら、街の警備隊に依頼してカザンの行動をずっと監視してきたのである。




 タイキーはどっしりと座り、カザンを見据えた。


「そう。君が余計なお世話だと言うのと同じだ。こちらのことには口を出さないでもらおう」


横柄な態度には横柄な態度で。


「こっちは親切で言ってやってるんだぞ。おい、アレを出せ」


カザンの後ろに立っていた文官らしい男が書類を取り出して見せてくる。


手書きの雑な書類ではあるが、タイキーの家の資産をよく調べてあった。


「これが何か?」


「この通り、お前が払う税は大きい。そんな大金を簡単に払えるわけがないからな。だから私が嘆願して少しでも安くしてやろうというのさ」


タイキーは書類から目を離す。


チラリと文官の顔を見ると、青い顔色に冷や汗まで流している。


「悪いが、何年も前からご領主様とは話がついているんだ。この家以外の土地を貸し出し、その賃貸料の一部を税として納める契約だ」


だから、いちいち出向く必要がない。


 観光地イガリスの森、湖畔の一部にある名滝、そしてそこにある資源の全ては古くからの地主であるタイキーの家が所有している。


その私有地の一部を領主に貸すことで、観光客や住民が自由に出入りできるようになっているのだ。


「だから心配はいらん」


タイキーは冷めたお茶をゆっくりと飲み干した。



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