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「終活させてくれ!」〜お一人様、中年男の叫び〜  作者: さつき けい


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その5・仲介を頼まれる


 タイキーは商会に向かい、エリリアンに面会を申し込んだが不在だった。


仕方なく、外に出る。


「あ、キーさん!」


「やあ、ヒラッテ」


ハマト食堂近くの路上で看板娘の妹のほうに声を掛けられた。


店は仕込みの準備中で閉まっている。


「少し時間いい?」


先日の相談の件だと言う。


「ああ、構わないよ。この子も一緒でいいか?」


ヒラッテはチラリとテクスを見て頷く。


「いいよ、一緒に来て」


すぐ近くにあるカフェに連れて行かれた。




 観光客向けの大通りとは違い、裏通りには地元民が通う庶民的な店が並んでいる。


そのうちの一軒のカフェに入ると一人の青年が待っていた。


「紹介するね。彼、大通りの店で厨房担当してるマッサよ」


「は、はじめまして、タイキーさん」


気の弱そうな青年である。


「ふむ。で、結婚するのか?」


タイキーは単刀直入に訊ねた。


若い二人は顔を見合わせ、頷き合う。


「そのつもりなんだけど色々と問題があって」


ヒラッテの父親ハマトは大通りの観光客向けの食堂を嫌っている。


見かけばかり派手な料理を提供し、ぼったくりに近い値段を付けている店が多いからだ。


そこの料理人となると反対されるかもしれない。




「それにお姉ちゃんのこともあるしー」


店の切り盛りで忙しく、姉のモリーナはまだ独身。


五歳年下の妹としては先に幸せになって欲しかったが、今となっては待てない。


「まさか、子供が出来たのか?」


タイキーの押し殺した声に、背中合わせの別テーブルでケーキを食べていたテクス少年も思わず手が止まる。


ヒラッテとその恋人はバツが悪そうに「えへへ」と笑った。


「まあ、若いからなあ」


仕方ないとタイキーはため息を吐いた。


「それで、父さんと姉さんに言い出しづらくなって俺に間に入れってか」


「お願いします!」


若い恋人たちは揃って頭を下げる。


「まあ、赤ん坊が腹にいるんじゃ無理はさせられないからな」


忙しい食堂で働いている間に、もしものことがあっては堪らない。


ヒラッテはタイキーにとっては娘同然、その子供なら孫同然である。


「分かった。なら、早い方がいいな」


サッと立ち上がると、二人とテクスを連れて食堂に向かった。




 勝手口から厨房に入る。


厨房では仕込みをするハマトとモリーナが忙しそうに働いていた。


「すまん、ハマ、モリー。ちょっといいか」


「ん?。なんだ、キーか」


「あら、どうしたのー」


タイキーは店から椅子を持って来て、厨房内のテーブルの周りに皆を座らせる。


テクスにだけは表の入り口の見張りを頼んだ。




 まずは謝罪。


親しい間柄ならば、こういう時はごまかさずにある程度は話したほうが良い、とタイキーは知っている。


「先に、ヒラッテたちに謝らないとな。実は二人が良い仲になってるのは知ってたんだ。それで彼の事は調べさせてもらった」


「え」「そうなの?」


ヒラッテたちは驚き、顔を見合わせる。


「その上で、ハマ、マッサくんなら大丈夫だと保証するよ。まあ、子供が出来たのはちょっと予想外だがな」


「はあ?」「ほぇ」


今度は父親と姉が驚いてポカンとする。


「ま、そんなわけで、俺に免じてヒラッテの結婚を許してやってくれ」


タイキーは深く頭を下げ、恋人たちも慌てて頭を下げた。




 ハマトもモリーナも、ヒラッテに恋人がいることは気付いていた。


「そうか、ワシも爺さんか」


と、父親はすんなり受け入れてくれた。


「ありがとうございます」


「さあ、そろそろ店を開ける時間だ」


ハマトが立ち上がりテクスに看板を変えるように伝えに行く。


「アンタたちも手伝いなさい」


モリーナの声にヒラッテたちも準備に入る。




「あ、キーさんは食べてくでしょ?」


「もちろん、いつものを頼む。モリー、今日は二人分だ」


「はーい」


タイキーは厨房から店へ移動してテクスと共にテーブルについた。


 店が混み始める前に定食が運ばれて来る。


婚約者になったマッサ青年は、厨房でハマトの手伝いをしているようだ。


大通りの店は近いうちに辞めるという。


「さっきは本当にありがとう、キーさん」


ヒラッテが幸せそうに微笑む。


「お父さんが、今日は二人の分は奢りだって」


と、こっそり耳打ちしてくる。


「そりゃあどうも」


タイキーは遠慮なくご馳走になることにした。




「ねえ、キーさん」


ヒラッテはタイキーの傍で話し続ける。


「うちのモリー姉さんはどう?」


「はあ?、なんのことだ」


「姉さん、どうもキーさんに気があるみたいでさー」


「あはは」


タイキーは独り身だが、親子ほど歳の差がある親友の娘をそんな目で見たことはない。


「ハマの娘は俺にとっても娘同然だと言っただろ。それに、モリーならきっとすぐにいい相手が見つかるさ」


タイキーたちはサッサと食事を済ませる。


「じゃあ、ヒラッテ、体は大事にしろよ」


そう言って食堂を出た。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あーあ、また逃げられた」


厨房に戻ったヒラッテが父親に愚痴る。


「んー?」


「父さんだってキーさんならモリー姉さんを嫁にやっても良いって思うでしょー」


「ああ、タイキーの奴か。まあ、モリーじゃ無理だろう。なんせ、アイツは王都帰りだからなあ」


ヒラッテがムッとした顔をする。


「田舎娘じゃ相手にされないってこと?」


「ばーか。あの歳まで独身ってことはなんかあるんだろってことだよ」


父娘の会話にマッサ青年も口を挟む。


「王都で失恋でもしたんですかねー。それで田舎に帰って来た、とか」


「あー、ありそう」

 

ヒラッテはウンウンと頷いた。




 妹が店内に戻ると入れ替わりに姉のモリーナが厨房に入って来た。


一緒に働いている青年に聞こえないよう、父親に小声で話し掛ける。


「父さん。マッサさんのこと、キーさんに調べるように頼んだでしょ」


「な、なんのことだ」


「しらばっくれてもダメよ。あのキーさんがこんなことに昔の伝手(つて)を使うはずないもの」


前職は『王都警備隊』である。


田舎の警備兵たちにすれば憧れの存在だ。


「父さんの頼みだから調べてくれたんでしょ?。キーさんにあんまり無理言わないでよね」


「うっ。分かった……」



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