その28・贈り物をする
そうと決まれば、タイキーの動きは早かった。
翌日にはササラーナとアスィリアを連れてジェジェ商会を訪れ、有能な男性秘書に書類の作成を依頼する。
その横ではエリリアンが微妙な表情をしていた。
「勿論、内密にお願いします」
「確かに承りました」
作成後、王宮管理部署にはササラーナが直接届けることになる。
タイキーではまともに取り合ってもらえないだろう。
テクスはルリナを祖父母の家へ送って行ったので、同行していない。
昼食時にハマト食堂で合流予定である。
「あの。申し訳ないが、テクスとルリナ嬢には当分の間、内緒にしてほしい」
タイキーがそう言うと、ササラーナ以外の全員が頷いた。
「ん?、何故だ」
ササラーナに「ルリナが落ち込みそうだから」とは言えない。
「色々とややこしい事情があるんです」
タイキーは苦笑し、事情を察している者たちはウンウンと頷いた。
商会の上客接待用の部屋で打ち合わせしていたのだが、エリリアンが途中で席を外した。
しばらくして、身なりの良い店員を連れて戻って来る。
「タイキー、これは必要ではないか?」
エリリアンが店員に指示して、テーブルに何種類かの宝飾品を並べた。
「仮といっても元王女様との婚姻、いやまだ婚約。まだ商会で働いていることになっているし、値段なら多少は引いても構わないよ」
「あー」
婚約の証に何か贈れということらしい。
身近に女性がいなかったタイキーには考えが及ばなかった。
「そうだな。ありがとう、エリリアン」
そしてササラーナに、
「お好きなものを選んでください」
と、勧めた。
ジェジェ商会にしても宝飾品の専門店ではない。
庶民向けの雑貨の販売、もしくは貸出の店である。
当たり前だが、そんな店に王族が身に付けるような超高級品など置いていない。
それでも、それなりの品質のものが並んでいる。
「お持ちの物には及ばないとは思いますが、まあ記念だと思って」
「なるほど、記念品か」
そう言われれば気軽に選べるだろう。
タイキーにすれば、それらは決して気軽な値段ではなかったが。
ササラーナとアスィリアが熱心に選ぶ。
「この指輪にいたしますわ」
それは可愛らしい花文様の中に細かい宝石があしらわれた幅広の指輪だった。
ササラーナの白い指に似合う白銀の土台、散りばめられた小粒な宝石は赤と黄色。
サイズはすぐに調整に出された。
「今日中に届けさせるよ」
エリリアンは久々の高額売上に満面の笑顔になる。
「よろしく頼む」
タイキーはこれ以上、何か売り付けられては堪らないと席を立った。
夕食の最中にジェジェ商会の護衛付きの遣いが来た。
老練の職人である。
テクスをアスィリアに任せ、タイキーとササラーナは応接間に向かう。
「いかがでしょうか」
ササラーナの指にきっちりと嵌まる。
「とても素晴らしい。ありがとう」
満足気に微笑み、タイキーに見せてくる。
「素早い対応に感謝する。エリリアンによろしく伝えてくれ」
タイキーは値段の入った受け取りに署名した。
僅かな蓄えはほぼ吹っ飛んだ。
どうせ使い道もない金なので、また貯めればいいかと振っ切った。
「まことにおめでとうございます」
護衛付きの痩せた老人は、ぺこぺこと何度も腰を曲げて祝いを述べ、戻って行った。
「師匠、なんだったんですか?」
テクスは自分だけ仲間外れにされた気がして、顔を顰めている。
「ジェジェ商会で宝飾品を買って、ササラーナ様に贈ったんだ。色々と世話になったからね」
それが届いたのだと教える。
カザンの件で力になってくれたことはテクスも知っていた。
「そっかー。やっぱり女性には贈り物が必要なんですね」
タイキーは弟子の頭に手を乗せてクシャクシャに掻き回す。
「お前にはまだ早い」
「えー」
なんとか誤魔化しきった。
二日後、ササラーナたちは王都へ報告のために出掛る。
「ついでにカザン邸の引き渡しも終わらせてくる」
猶予期間はあと七日ほど。
その間に払えなければ館や土地は債権者であるササラーナに所有権が移る。
その準備もあり、イガリスにはしばらく戻れないだろうと言う。
「承知いたしました。お気をつけて」
タイキーはササラーナたちを街の門まで見送りに出た。
「うむ。そなたも充分気をつけてくれ」
街中の護衛たちは引き続きイガリスで警戒に当たるそうだ。
派手な太い指輪が目立つ。
「あれ、師匠が贈ったやつですよね。ササラーナ様、嬉しそう」
「そうか?」
ササラーナは、わざと見せびらかしながら手を振っていた。
王家の見張りの報告によれば、カザンはあちこちに金策の打診は行なっているようだ。
実はタイキーのところにもかなり前に面会の打診が来ていた。
今まで散々連絡もなしに押し掛けておいて、今さら手紙で訪問の許可を求めるのは意味が分からない。
「申し訳ないが、こちらに来られても歓迎の用意が出来ない」
つまり「来るな」と返答した。
今のところは静かだが、カザンの性格ではいつ押し掛けて来ても不思議ではない。
残り日数が減るごとにイガリスの警備隊も緊張を増している。
ササラーナたちが不在でも、ルリナはやって来た。
テクスと二人で牧場や畑を手伝ってくれる。
季節はそろそろ冬に近づき、薪や保存食の備蓄が始まっていた。
森からニーシス老が来てテクスたちに指導している姿が見える。
タイキーはその間にササラーナの情報を整理していく。
仮とはいえ、婚約者である。
いずれ解消されるとしても、自分として何か彼女の役に立つことはないだろうか。
「あー、終活」
そういえば、テクスに譲るものの手続きを進めておきたい。
タイキーには自分自身の予定行動は見えないのだ。
「とりあえず、やっておくか」
トリトスの領主イラシュ宛にテクスを養子にすることにしたと報告。
王都のテクスの義両親にはエリリアンの秘書から伝えてもらっている。
部下から犯罪者を出したせいか、すんなり養子縁組の手続きは済みそうだと聞いた。
カザンの件が終わり次第、正式な手続きに入るため、一度テクスをトリトスに連れて行く予定である。




