その22・『神眼』を認める
「概ね、殿下がお話しくださった内容で間違いございません」
タイキーは王女に向かって頷いた。
しかし、それは女性側から見た視点でしかない。
「私からの、騎士側から見たお話をさせて頂ければと思います」
父親である護衛騎士は、タイキーが五歳の時に亡くなっている。
テクスはこんな真剣なタイキーの顔を初めて見た。
「うむ。是非、聞かせておくれ」
ササラーナ王女は決して他言しないと誓ってくれた。
「私を引き取ってくれた祖父や、私の上司で父の騎士隊時代の同僚から聞いた話です」
タイキーが警備隊に入隊したのは王都警備隊の隊長が元騎士で、父の同僚だったからである。
何故、父は命にかかわるほどの大怪我をしたのか。
何故、自分は髪を染めなければならなかったのか。
知りたいことは多い。
しかし、思いがけず母親のことを聞いたのは上司が引退する直前、今から四年前のことだった。
それまで母親は生まれてすぐに亡くなったと聞いていたため、どんな女性だったのかを知ることは諦めていた。
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ようやく騎士見習いから騎士に成り立ての、二十歳そこそこの男性。
剣の腕、家柄の良さもあり、上司からの信頼も厚い若者である。
ある日、良い仕事があると声を掛けられ、護衛騎士として派遣されることになった。
「良家の子女の護衛」とだけしか知らずに、同僚の騎士と二人で任務に着く。
庶民の家としては大きな館の奥、小ぢんまりとした部屋。
護衛騎士たちは出入りする客の動きを見ながら、女性に対して無礼がないかを見張る役目である。
本来ならこのような仕事は兵士を退職した者を私兵として雇ってさせるものだが、この館の主人は騎士隊を選んだ。
礼儀正しく、身元のしっかりした者を望んでのことだった。
どうやらこの家は古くから王家と繋がりがあるらしい。
そこが『神眼の占い師』の館であることを知ったのは着任後である。
「おい、アレ」「顔が見えないですね」
わざと薄暗くした室内、占い用のテーブルにポツンと座る女性はヴェールで顔を覆っていた。
護衛からすれば、顔が確認できないと入れ替わっても分からないし、拐われても取り戻せない。
「申し訳ございませんが、顔を見せていただけませんか」
恐る恐るお願いすると可愛らしい声が応えた。
「……はい」
ヴェールの下は、まだ幼さの残る十代の女性だった。
特徴的な白銀の長い髪をしていて『神眼』と同じくらい珍しい。
「あ、ありがとうございます」
騎士たちはその美しさに見惚れた。
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騎士隊で父親と同僚だった上司から聞いた話を、タイキーはポツポツと語る。
「私は、母は亡くなったとずっと思っていました」
しかし、『神眼の副隊長』の噂が一部の王都民の間で広まった頃、同時に『神眼の占い師』の話が聞こえてきたのだ。
何十年も前に一世を風靡した占い師の女性。
力は失ったが、どこかでひっそりと暮らしているそうだ。
「副隊長さんも銀髪ならなぁ」
そんな話が『神眼』の噂とともに流れてくる。
自分の髪が彼女と同じ銀髪だと気付いた時、「まさか」と思いながらもタイキーは望みを捨てきれなかった。
生きているなら、一目だけでも。
そう思った。
「まあ、もうお分かりかと思いますが、私は確かに『神眼』らしき才能は持っております」
タイキーは今までそれを認めたことはない。
のらりくらりと、ただの勘、予想だと言い逃れてきた。
だが、目の前の相手は国の王女であり、迷惑を掛けてしまった相手だ。
きちんと話そうとする誠実さくらいはある。
「幼い頃から、父や世話をしてくれる大人たちを見ているうちに自然に分かってしまいました」
知りたいと思ったことはない。
ただ相手を見ているだけで、何をしようとしているのかが分かった。
幼いなりに相手に喜んでもらいたかったらしく、タイキーは自分勝手に動き回る。
まだ上手く動けない幼子だった頃は、周りの大人たちは偶然だろうとあまり気にしなかった。
ところが、イガリスの館では気味が悪いと言われてしまう。
「黙って動くな、と祖父にはひどく叱られました」
そして矯正されることになる。
成長し少年になると、タイキーは髪を伸ばし始めた。
「初めて自分の髪が白っぽいと分かり、最初は恥ずかしくて染めていました」
友人たちと違い、まるで年寄りのようだった。
「祖父から染め粉を渡されまして」
伸ばすならば、必ず染めるように強要された。
「それが亡くなった父の遺言だと言われまして」
「それからしばらくして、ふと感覚がおかしいことに気付いたのです」
それまではなんとなく分かる程度だった他人の行動の先読みが、髪を伸ばしていくうちに鮮明になる。
「相手の気持ちが、言葉として頭の中に浮かぶようになったのです」
「……彼女も占いの時、相手の心の声が聞こえたそうだよ」
王女は何故か嬉しそうに頷く。
「『神眼』って、髪の毛に関係あったんですか?」
テクスは相変わらず混乱している。
「それは分からないが、昔は『天才』は髪が長い人が多かったそうだ。一種の感覚器に近いかもしれないな」
タイキーはテクスに微笑んだ。
「未来が分かるのだとしたら」
テクスは少し辛そうな顔をしている。
「その女性は夫や赤子の未来も見えていたのかもしれませんね」
追っ手に気付いた女性が彼らの行動を読み取り、悲惨な未来を見てしまう。
「だから、わざと離れ、連れ戻されたと」
王女がテクスの予想にハッとした。
「そういえば、彼女が力を失ったのは連れ戻された後だな」
視えてしまった未来を変えたい。
自分の愛する者たちを蔑ろにする家族に、彼女なりに抵抗することにしたのでは。
産後の体調不良と、愛する夫子から引き離されたことによる精神的な影響もあっただろう。
「病気のせいで『神眼』の力が消えたとしても不思議ではありませんし」
テクスは子供らしくない顔で呟いた。
結局のところ、彼女の中にだけに浮かぶものなので、他の誰にも確かめようはなかったはずである。




