その20・探し人を語る
タイキーたちが案内されたのは高級宿の離れだった。
「ふあー、こんなすごい場所があるんですねー」
豪華な建物にテクスは感心しているが、タイキーは少しも嬉しくない。
それだけ身分の高い人物が待っているということである。
部屋の扉の前には騎士服の護衛が立っていた。
「街の警備兵の方々はここまでで結構です」
「分かりました」
警備兵たちは礼を取り戻って行く。
タイキーたちは宿に来る前にジェジェ商会に立ち寄り、きちんとした服を借りて着替えてきた。
着替えている間に警備兵には簡単に状況を説明してもらう。
「あの方はこの国の王女様です」
国王陛下の四人の子供のうち、ただ一人の未婚であり、ただ一人の娘である。
人探しということで案内を頼まれたそうだ。
ハマトの食堂を提案したのは誰だったのかは不明だが、おそらくタイキーを頼るつもりだったのではないか、ということらしい。
「師匠、知り合いなの?」
テクスはもっともな疑問を投げる。
「さっき食堂に乗り込んできた、あの女性ならな」
あの顔を見てタイキーは咄嗟に逃げ出した。
それだけでも会いたくない相手だとわかる。
室内のソファにゆったりと座る女性の前で止まり、タイキーとテクスは片膝を絨毯敷きの床につけて礼を取る。
「お待たせして申し訳ございません」
「ええ。待ちかねましたよ、騎士の息子よ」
テクスがタイキーの様子を伺うと、深く頭を下げたままなので慌てて頭を下げ直す。
「顔を上げておくれ。我はそなたの名前を知らぬ」
タイキーはゆるりと顔を上げる。
「タイキーと申します。お久しぶりでございます、ササラーナ王女殿下」
王女の年齢は三十代後半、白い肌に金色の長い髪と宝石のような緑の目が美しい。
「覚えていてくれて嬉しいですよ。その少年はそなたの息子ですか?」
侍女が淹れたお茶を一口飲み、王女は訊ねた。
「いえ、弟子と言いますか、大切に預かっております。名はテクスと申します」
テクスは無言で礼を取る。
「あら、そう」
王女は侍女と護衛騎士を一人ずつ残し、他は人払いした。
タイキーとテクスは王女の対面のソファに座らされる。
侍女が目の前に香りの良いお茶と見たこともない高級な菓子を置く。
王女はお茶のカップをテーブルに戻して話し出した。
「そういえば先日、ある男が捕まりました。そのお陰で長年王都で未解決であった、主に子供を誘拐する犯罪組織が判明したのです」
先日、イガリスから一人の犯罪者が王都へ移送された。
今まで犯罪の容疑者として名前の上がっていなかった男だったが、捕まえた警備兵からは要捜査との指示があった。
王都警備隊は男の家を捜索。
そこに複数の子供たちがいたため保護し、数々の証拠も押収したという。
お陰で組織はあっという間に瓦解したそうだ。
テクスに対して異常に執着していた商人のことである。
「そなたのお陰です。感謝します」
姿勢を正した王女がタイキーに対して礼を取った。
テクスは驚く。
そんな犯罪者だとは知らなかったし、それ以上に王族がタイキーに対して感謝することが分からない。
「いえ、それは警備隊の皆様方の努力の賜でしょう」
タイキーは畏れ多いとさらに頭を下げた。
そして。
「お礼ならば私からも。あの節は大変お世話になりました」
タイキーの言葉に王女はニコリと微笑む。
「礼は扶養です。ただ……一つだけ、我にはどうしても納得がいかなくて」
テクスは二人の間に何かあったのだと感じる。
しかも約一年間、王女はタイキーを探していたらしい。
今回の事件解決の報告を聞いて、王女は思い出したと言う。
「『神眼』の副隊長の噂を」
タイキーは目を逸らし、テクスはポカンとする。
「少年は『神眼』とは何かを知っていますか?」
「い、いえ。存じません」
テクスはタイキーの方を見ないように気を付けた。
「少し昔話をいたしましょう」
五十年ほど前の話。
「王都に『神眼の占い師』と呼ばれた少女がおりました」
王女はゆっくりとした口調になる。
その少女は代々優秀な占い師を輩出してきた家の娘で、稀に見る『才能』を持っていた。
「彼女は幼い頃から相手の心の内を読み、何が必要か、何をしたいのかを見通したのです」
テクスはニーシス老から聞いたタイキーの幼い頃に似ていると思った。
「『神の眼』を与えられたと言われ、少女は稀代の占い師、または聖女などと評判になりました」
商売や婚姻の相手を占ってほしいと頼まれ、悪心がないか、悪巧みをしていないかを見抜く。
彼女はその『神眼』で人々を犯罪者から守ったとされる。
「しかし、その力ゆえ彼女は悪人から狙われることも多くてな。警備を強化していたのだが、誰かに拐かされたのだ」
必死の捜索により、二年後にようやく発見。
親元に戻った時、彼女はすでに体を壊しており、精神も病んでいた。
そして『神眼』の力も失っていたそうだ。
当時、彼女は占いを通じて王女の母親、現在の王妃と親しい友人関係にあった。
憐れんだ王妃は彼女に医師付きの住まいを用意し、保護する。
「堅牢な館の中で少数の信頼の置ける使用人のみで生活できるようにしたのです」
幼い頃から王女は王妃と共に何度か見舞いに行ったが、彼女はもう寝床から起き上がることはなかった。
ただ王女のことは我が子のように可愛がっていたそうだ。
「我が成人してからは、ひとりで彼女のいる館へ行くこともあった。当然ながら、訪う際は必ず護衛が必要なのだが、二年前のある日、いつもと違う騎士がいてな」
テクスは真剣に話を聞いている。
「見知らぬ顔に警戒し、名前を訊ねると」
王女はタイキーにニコリと笑い掛けた。
「その男は畏れ多くて名乗れない、ただの騎士の息子だと、そう言ったのだよ」
「申し訳ありませんでした。もうお許しください」
タイキーの情けない声がした。
「ふふふ。責めているわけではない。あの時のことは理解しているつもりです」
「あ、やっぱり『騎士の息子』って師匠なんだ」
テクスが目を瞬く。
「あ、ああ」
タイキーは諦めたようにぐったりと頷いた。




