その19・片付けをする
タイキーは館に戻ると、見張りをしていた当直の警備兵を労って帰した。
自分の寝室は無事だったので、そのまま寝る。
翌朝、裏の牧場で愛馬の世話をしていると聞き慣れた声が聞こえてきた。
「やっぱり!。師匠、お帰りなさーい」
テクスが飛んで来る。
「おやおや、まるで幼子のようですね。ご無事で何よりです、若旦那様」
ニーシス老も一緒だった。
「うむ、戻ったよ。留守番、ありがとう。そっちも怪我はないようで良かった」
「はい!」
テクスは笑顔で答えた。
三人で作業したので、いつもより早く終わる。
「テクスは今日は走りに行かなくてよいのか?」
「もう行ってきました!」
あまり眠れなかったようで、早く目が覚めたから、ついでに走ってきたと言う。
ニーシス老が苦笑いしているので間違いない。
まだ台所が片付いていないため、立ったまま朝食のパンを食べる。
ルリナにはジェジェ商会から服の代替品が届くと伝えると、テクスはホッとしていた。
よほど気にかけていたのだろう。
「今後のカザンの対応については領主様も何か考えると仰っていた」
「そうですか。なんにせよ、シューサご夫妻とお孫さんにも安心して過ごしていただけるようになるといいですな」
タイキーとニーシス老の会話をテクスも頷きながら聞いていた。
食後、テクスとニーシス老は台所の掃除を。
タイキーは執務室で散らばった書類を丁寧に確認して元の場所に戻す。
元々タイキーは一人暮らしの上にあまり物を置く趣味もないので、ほとんど損害はない。
午後から大工が館を見に来た。
応急措置だけして、玄関扉は壊された鍵ごと新調することになる。
片付けは夕方には終了し、ニーシス老は夕食を作ってから森へ帰って行った。
夕食を食べながらテクスがタイキーに訊ねる。
「師匠はどこへ行って来たんですか?」
今日のテクスはなんとなく幼く見える。
「隣りのトリトスの街だ。領主に会って苦情を、な」
半分冗談のように笑うタイキーをテクスはまるで英雄を見るように目を輝かせた。
渡した土産はトリトス特産の果実を入れて焼き菓子にしたもので、領主屋敷の敷地内でしか販売していない。
納税に来た者が領主の所にちゃんと行ってきた、という証拠にもなるので人気の商品である。
「そのうち連れて行ってやるよ」
テクスは王都生まれの王都育ちで、このイガリスに来るのも初めてだった。
「はい!、楽しみにしてます」
裕福な家庭なら幼い子供を連れて旅など普通だし、王都に近い観光地イガリスは一般家庭の家族連れも多い。
商家存続のために引き取られた子供には縁がなかったのだろうか。
タイキーは少し切ない気分になった。
平穏が戻って三日目、玄関の扉も新しくなり、いつものように昼食を取るためハマトの食堂に向かう。
混んでない早めの時間を選び、いつも通りオススメを頼む。
タイキーたちは厨房に一番近い席が定位置。
料理を運んできたマッサが「あのー」と声を掛けてきた。
「ん?、どした。夫婦喧嘩でもしたか」
タイキーは、この食堂の娘と結婚したばかりのマッサ青年を揶揄う。
「いや、あの、実は」
話し辛そうに周りを伺う。
タイキーは彼を空いた席に座るように勧めた。
マッサ青年はタイキーを入り口からの視線から隠すように座る。
「実は前の職場の同僚から聞いたんですけど」
彼は以前、大通りでも有名な飲食店の厨房で働いていた。
値段と料理の質が見合わないと評判の店である。
その店に昨日、王都から要人がやって来た。
大通りでも一番大きな宿に護衛や侍女を数名引き連れて泊まっているそうだ。
「それで?」
イガリスは観光地だ。
国でも有名な人物、富豪などが団体で来るのは珍しくない。
「それが人探しらしいんで」
観光目的ではないという。
タイキーは嫌な予感がした。
「オレ、元同僚から特徴を聞いて、なんとなくだけど、それってタイキーさんなんじゃないかって」
「どんな人を探してるんですか?」
もどかしい話し方にテクスは思わず口を挟む。
「あ、はあ、あの。髪は白髪か黒髪で、目は赤みのある黄色。んで、騎士の息子ってんで」
マッサは以前、嫁のヒラッテから「タイキーに相談しよう」と言われた時、どんな人なのか訊ねた。
「そしたら、タイキーさんの亡くなったお父さんは騎士だったって。それに髪も黒髪だけど白髪混じりだし、目は」
マッサの話を聞いてテクスはタイキーの目を覗き込む。
「確かに、アーバン、赤黄色ですね」
「あはは。そんな奴、どこにでもいるよ。きっと探してるのはもっと若いヤツだと思うしー」
タイキーは嫌な予感を振り払うように笑った。
「なんでもいいっすけど、気をつけた方がいいんじゃないかと」
心配してくれたマッサ青年は優しい。
しかし、世の中は理不尽にできている。
混み始めた食堂をそろそろ出ようとしていたところ、バンッと乱暴に入り口の扉が開く。
金の長い髪をなびかせた女性が入って来て、中を見回し、すぐに叫んだ。
「いましたわ!」
タイキーたちの席を指差す。
「テクス、出るぞ」
「う、うん」
師弟で息の合った二人が同時に立ち上がり、コソコソと厨房を抜けて裏口へ向かう。
「すまん。後は頼む」
通り過がりに声をかけていくタイキーを見ることもなくハマトが頷く。
護衛らしい騎士がタイキーたちを追って厨房に入ろうとすると、
「なんだ、あんたら。ここは立ち入り禁止だ」
と、ハマト家族が遮った。
裏口を出たタイキーたちは早足で館に向かう。
大通りを避け、人通りの少ない裏道を行く。
「あっ」
しかし、そこにはすでに街の警備兵たちが張っていた。
「すいません、タイキー様。オレたちだって本当はこんなことしたくないんだけど」
「分かった分かった。手を煩わせてすまなかった」
タイキーはおとなしく彼らに従う。
「テクス、先に帰ってていいぞ」
タイキーはそう言ったが、テクスはガンとして頷かない。
「僕も行きます!」
先日、危ない目に遭ったばかりなので怖いのかもしれない。
警備兵たちも無理にテクスを引き離そうとはしなかった。




