その18・情報を整理する
タイキーがイガリスに戻って来たのは翌日の夕方である。
「お帰りなさい、タイキー様」
「どうも」
門番に会釈し、街の中に入ってすぐに警備隊の隊舎に向かう。
「お疲れ様です。隊長がお待ちかねです」
「ありがとう。これ、皆で食ってくれ」
祖父の代から領主屋敷に行くと必ず寄る店がある。
タイキーはトリトスの名産品を兵士に渡し、隊長室に向かった。
タイキーが隊長室に入ると、タラクは周りの者を人払いする。
「お早いお戻りですね、若旦那様」
「仕事中だろ、若旦那はやめろ」
「ふふふ、そうですな」
幼い頃からの主従である。
軽口を叩けるなら事態はさほど悪くはなっていないとタイキーは安心した。
「では、ご報告を」
泥棒たちは警備隊隊舎の地下牢に。
領主に報告済みで、後日、裁定が下される。
商人の男性はジェジェ商会が身柄の引き受けを拒否したため、タラクはその男性を王都の警備隊送りにした。
今朝早くに王都行きの荷馬車にて護送済。
カザンにいたっては、警備隊が護衛付きでトリトスの街へ送り届けたそうだ。
「戻って来てもらっても困るからな。助かるよ」
商人を誑かしたとしても言葉だけで他に証拠がない。
証言をひっくり返される恐れがあるため、今回は注意だけに留めたという。
商人の男については、かなりテクスに拘っている様子だった。
必ずまた何か言ってくるだろうと警戒していた。
ルリナに関しては、タラクの父ニーシスが祖父母の元まで付き添い、後日また事情を聞かせてほしいとお願いしている。
タイキーは安堵の息を吐く。
「出掛ける前に、ニーシスに二人を頼んでおいて良かったよ」
タラクも頷いた。
「実はルリナ嬢の破れた服に関しては我々では価値が分かりませんでした。弁償はいかがいたしますか?」
見舞金でもいいが、できれば新しい服が良いだろうということになった。
「分かった。俺の方でエリリアンさんに頼んで新しいものを贈るよ」
ジェジェ商会なら若い女性が好みそうな流行の服くらいあるだろう。
「それとテクスくんですが」
館の鍵が壊されていたため警備隊から見張りを出し、テクス自身はニーシス宅に泊まらせたそうだ。
本人は館から離れるのを嫌がったが、家主であるタイキーが戻るまでは勝手に現場を片付けられないと言うと渋々従っていた。
「良い少年ですね。父によりますと、必死にルリナ嬢を守っていた、と」
「ふふっ。あの子は聡明で真っ直ぐな子だよ」
弟子を褒められ、タイキーは嬉しそうに微笑んだ。
タイキーが礼を言って立ち上がると、タラクは見送るように一緒に扉まで歩いた。
「しかし、タイキー様の『神眼』は健在のようで安心いたしました」
タイキーの足が止まる。
「いや。あれくらいは予想の範囲内だろ」
カザンが門に現れた時、いつも傍にいるはずの護衛の姿がなかった。
念の為に警備兵に館の見回りを頼むメモを渡しただけだ。
「そうですか。まあ、そういうことにしておきます」
タラクはニヤニヤしながら部屋の外までタイキーを見送った。
ジェジェ商会に立ち寄ると、珍しくエリリアンに「夕食を一緒にどう?」と誘われる。
「まあ、構わないが」
大通りに面した観光客向けの豪華な飲食店に入った。
上客用の個室まである店はイガリスでは珍しい。
いつも引っ付いている秘書の男性は、今日は忙しくて不在だという。
それもまた珍しいことだ。
二人っきりだとなんだか落ち着かない。
エリリアンは先に注文した酒で喉の渇きを潤す。
酒以外は扱っていないというので、タイキーは果実酒を水で薄めてもらう。
料理はいくつも運ばれてきたが、どれも見栄えのする盛り付けなのに、量は少なく感じた。
「先日はうちの商会の者が迷惑を掛けたね」
ルリナの服の件も商会として無償で提供してくれるそうだ。
謝罪のための食事会だったらしい。
「あー、まあ、エリリアンさんのせいではないし」
文句を言うなら商会幹部であるテクスの養父が相手だろう。
秘書がいないのは、その件で王都に行ったのかと予想できた。
あの中年商人はタイキーに書類を反故にされた後、一旦王都に戻っている。
しかし再び休みを取ると、今度はトリトスの領主屋敷に向かった。
役所受付でタイキーの申請を取り消してもらおうとしたらしい。
役所を追い出されたところでカザンに声を掛けられ、耳を傾けてしまった。
かなりの報酬額を吹っかけられたようだ。
「子供ひとりにたいそうなことだ」
テクスとは幼い頃からの顔見知りだというエリリアンの顔が歪む。
「それほど価値があるんだろうさ」
そこまで執着する理由があったはずだ。
エリリアンが真剣な顔でじっとタイキーを見る。
「わたしゃ『神眼』なんて信じちゃいないが、あの男には同僚ながら信用し切れないものがあった」
本部上司の部下とはいえ、エリリアンはあの男が好きではなかったという。
「なあ『神眼の副隊長』さん。教えてもらえないか、言える範囲だけでいい」
女性から「頼む」と言われてはタイキーも断り切れなかった。
「俺はもう警備隊所属ではないが、一応守秘義務というものがある」
だから、タイキーは一般的な噂話として話す。
「数年前から王都で子供が拐われる事件が続いた」
エリリアンは頷く。
「普通の拐かしなら、犯人を突き止めて捕まえりゃあ終わりだが、途中から犯人を捕まえても釈放されるようになった」
それは何故か。
「拐った子供を養子縁組し始めたんだよ」
多くは親のいない施設の子供が狙われた。
そして書類の偽造。
一度、役所に受理されると取り消しは難しい。
「犯人は親だと言い張り、堂々と子供を虐待、もしくは国外に売り飛ばした」
タイキーたちが隙をついて追い詰めた犯人は調査中に死んだ。
あと一歩で元締めに手が届きそうだったのに。
エリリアンはゴクリと息を呑む。
「では、あの男が関わっていたと?」
「さあね。でもあの異常さを見るとテクスにかなり高値が付いていたのは確かだろうな」
売人だったのか、買う側だったのか。
養父母は関係していたのか。
タイキーは明らかにしなかった。




