その16・弟子は奮闘する
タイキーが街道の門でカザンと遭遇していた頃、森の館では、テクスとルリナが留守番をしていた。
タイキーに「二階の自室にいろ」と言われ、訳がわからないまま、それに従っている。
退屈になり始めた頃、一階から物音がしたので二階の欄干から下の様子を見ていたのだが。
「あれは何?」
「しっ!」
二人は息を潜めて階下の玄関ホールを見る。
そこには二人組の男がいた。
テクスには見覚えがある。
ルリナを促して静かに部屋に戻り、内鍵を掛けた。
「ねぇ、あれって泥棒よね。すぐに警備隊を呼ばなきゃ」
ルリナの声は震えていた。
「待って。たしか師匠が、誰かがルリナさんを迎えに来るって言ってたから」
その人が来たら頼むつもりだ。
テクスはルリナには言えなかった。
あの男たちは先日、カザンと一緒に来た者たちだ。
一人は大柄でいかにも強そうな護衛、もう一人は中肉中背だが人相の悪い文官のような中年の男である。
カザンは金に困っているから金目の物を探しに来たのだろうか。
しかし、タイキーの館は質素で、一目でそんなに高価な物など無いと分かるはずなのに。
昼間なのに侵入して来たのはタイキーの不在を知っているのかもしれない。
森に近い館はあまり人目につかないと知っているのか、階下ではバタンッバリンッと何かを壊している音がする。
テクスはぐっと手を握り込んだ。
大切な師匠の家を壊されるのは悔しい。
「ねえ。いつまでこうして隠れてればいいの?。誰か助けに来てくれるまで待ってるつもり?」
心細さを隠すようにルリナが強い言葉を吐く。
迎えがいつ来るのか、それは分からない。
この家をこれ以上荒らされるのも嫌だ。
テクスは頷いた。
「分かった。なんとか脱出して、街へ警備隊を呼びに行こう」
しかし、ルリナを一人で残して行けない。
二人で一緒に部屋から出る。
そろりそろりと廊下から階段へ。
幸い、泥棒たちは正面の玄関を壊して入って来たらしく、通用口を知らない。
大きな音がするので、どこにいるか丸わかりである。
「くそっ、どこだ」「違う部屋ではないかな」
テクスが先に立って一階に降りると食堂兼台所に向かう。
思ったより足音が響く。
「ん、なんだ?。誰かいるのか」
男たちが物音に気づき、一階の部屋から出てこちらに向かって来る。
「しまった。気づかれた!」
テクスたちは食堂を通用口の扉に向かって走る。
「チッ、子供がいやがった」
バタバタと足音が近づく。
「運がいいな、俺たち。書類が見つからなくても、こいつを直接連れて行けばいいんじゃないか」
「おや、女の子もいるね。高く売れそうだ」
わざと下衆な言葉を投げ付けてきた。
気の弱い者ならば恐怖で足がすくんで動けなくなることもある。
「こら待て、止まれ!」
テクスは振り向きそうになるルリナの手を掴み、扉を開いた。
「キャッ」
ルリナの服が通用口の金具に引っ掛かり、追い付いて来た男がその服の端を掴んだ。
「ルリナさんっ!」
テクスが思いっ切りルリナを引き寄せると、服が破れた。
二人は外に飛び出す。
「ああああーっ」
ルリナは、タイキーのために着たお気に入りの服が破れたことに衝撃を受けて座り込んだ。
男たちが通用口から出て来る。
「来るなっ」
テクスはルリナを庇い、男たちに立ち向かう。
そこに重い声が響いた。
「お前ら、ここで何してる」
裏庭から馬に乗ったニーシス老が現れたのである。
「ニーシスさん!」
テクスが大声で叫ぶと、老人は片手を上げてニコリと笑った。
馬から降りると泥棒たちに向かって歩き出す。
「なんだよ。俺たちはカザン様から頼まれて子供たちを迎えに来ただけだ」
泥棒は自分たちは知り合いだと言う。
「え……」
カザンの名前を聞いたルリナの表情が強張る。
それに気づいてテクスは慌てた。
「信じちゃダメですよ、ルリナさん」
テクスがルリナを慰めている間にニーシス老は泥棒たちの目の前に立つ。
「頼まれたとしても、主人が不在なのに子供を連れ出すのは犯罪だ」
ニーシス老はむんずと大柄な男の腕を掴かみ、文官らしい男に向かって投げつけた。
「ぎゃあ」
「ただの年寄りだと思って舐めるなよ?」
「ヒィィ」
男たちは腰を抜かして座り込んだ。
そこへガチャガチャと鎧を揺らして数名の警備兵たちが駆け付けて来る。
「ご無事ですか!」
ニーシス老は頷いた。
「お疲れ様です。後はお任せします」
そうしてテクスたちの傍に移動する。
「もう大丈夫ですよ」
「はい」「ありがとうございます」
警備隊は逃げだそうとする泥棒たちを捕まえて縄を打つ。
すぐさま犯人たちを引きずって連れて行った。
「タイキー様にルリナさんを迎えに行くように言われてまして。間に合って良かった!」
ニーシス老はホッとして微笑む。
ルリナはニーシスに借りた上着を破れた服の上から羽織る。
「あの、タイキーおじさまはどこに?」
「確か、我々が出動する際にすれ違いましたから、今頃は街の外ではないでしょうか」
残った警備兵が教えてくれた。
「どこかへお出掛けだと仰っておられましたから」
「そうですか」
ルリナはタイキーに会えず、気落ちした。
服が破れてしまったルリナは、そのまま祖父母の元に帰ることになった。
「わたくしが送って行きますよ」
ニーシス老が申し出る。
明日にでも警備隊が事件の説明のために伺うと伝えてもらう。
「テクスくん、申し訳ないが一度、館の中を見せてもらえないかな」
警備兵から現場の確認を頼まれる。
怖い目に遭ったのだから無理しなくていいと言われたが、テクスは首を横に振った。
「大丈夫です。中へどうぞ」
一階は思ったより荒らされていた。
主に書類が散乱している。
「こりゃあ、片付けが大変そうだな」
「あ、隊長。お疲れ様です」
警備隊隊長のタラクがやって来た。
「今夜はタイキー様もいないし、これじゃ心配だ。君は他所に泊まりなさい」
テクスは首を横に振る。
「いえ。僕の部屋は大丈夫です」
「そう言わずに行きなさい。館は見張りをつける。鍵が壊されてるからな」
タラクは警備兵に今夜の見張りを指示した。




