↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「終活させてくれ!」〜お一人様、中年男の叫び〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/32

その14・招かざる客が来る


 タイキーと警備兵たちは、翌日の昼前に森の小屋に戻って来た。


「遅くなってすまん」


テクスは首を横に振る。


「ううん、大丈夫です。ニーシスさんにいっぱいお話を聞かせてもらったので」


「そ、そか」


ニーシスの話と聞いて、タイキーは複雑そうな顔をする。


どうせ、自分の子供の頃の話だろうと簡単に推測できたからだ。




 愛馬を厩舎へ帰した後、タイキーはテクスと警備兵たちを連れて、いつもの食堂で昼食を食べる。


食事も調査依頼の経費の内。


まだ昼なので酒は出ないが、若い警備兵たちは遠慮なく食べていた。


「坊主、いつでも警備隊へ遊びに来いよ」


彼らはテクスを気安く誘ってくれた。


「はい、ありがとうございます!」


イガリスの街で知り合いが増えたことが、テクスには嬉しかった。




 館に戻るとタイキーはすぐに浴室に向かい、湯浴みと着替えを済ませるとテクスを呼んだ。


「俺は報告書を書くから、お前は好きに休んでてくれ」


夕食も自分で簡単なものを用意して執務室にこもると言う。


「分かりました、師匠」


タイキーの報告書が完成するまでテクスは自由になった。


 暇なので、滝まで走ることにする。


「あら、こんな時間に珍しいわね」


ルリナが店の外で落ち葉を掃いていた。


「昨日は師匠と森の見回りに行ってたんです。さっき戻って来たところで」


「それで今朝は姿を見なかったのね」


テクスは会いたかったという言葉を飲み込んで、他愛もない会話をする。




「急がないならお茶でもどう?」


「頂きます」


夕方近くになり客足が減っている店の屋外のテーブル席に座る。


ルリナは一旦店内に入って祖父母と話し、お茶を淹れて戻ってきた。


「ねぇ、タイキー様は私のこと、何か言ってなかった?」


どんなに話が弾んでもルリナはすぐにタイキーのことを訊いてくる。


「いや、師匠は今、忙しくて。しばらくは部屋から出て来ないと思いますよ」


「まあ!」


何故かルリナの目が輝く。


「それは大変ね!。私、何かお手伝いできないかしら」


「あー、何もないと思うー」


テクスは目を逸らした。


「そろそろ帰ります」


「えー」


ルリナは不服そうだが、タイキーの話ばかりではきつい。


「またね」


テクスは暮れ始めた坂道を走って帰った。




 翌朝、テクスが裏の牧場で一人で作業をしていると、通用口の方で人の気配がする。


タイキーなら昨夜は遅くまで起きていたみたいだから、今朝はまだ起きていない。


「ちょっと待っててね」


テクスは山羊たちの世話を中断して建物に向かい、窓から台所兼食堂を覗き込む。


「え、ルリナさん?」


テクスは慌てて中に入る。


「何してるんですか」


「きゃあ!」


長い髪を軽くまとめ、カフェのエプロンを付けたルリナがいた。




「驚かさないでよ、テクス」


「こっちが驚きましたよ、ルリナさん」


「何って、タイキーおじさまが忙しいと聞いてお手伝いに来たの」


満面の笑みのルリナに、テクスは眉を寄せる。


 滝のカフェの老夫婦と孫娘に関しては、この館に近寄らせないようにとタイキーから言われていた。


「申し訳ないですが、お手伝いは結構。お帰りください」


カザンは、こんな早朝に押し掛けては来ないだろうが、いつ来るかは分からない。


「せっかく来たのに!。あー、さては師匠を私に取られると思ったの?」


ニヤニヤしながらルリナがテクスを揶揄う。


「そんなことはないですよ。タイキー師匠から、男しかいないこの館にルリナさんを招くことは禁止されているんで」


「まあ、そうなの?。私は気にしないのに」




 二人の声を聞いて、隣の部屋からタイキーが顔を見せた。


「なんだ、朝から騒がしい」


タイキーは大きなあくびをし、頭を掻く。


「師匠、すみません。ルリナさんがー」


「おはようございます、おじさま。お手伝いに参りましたわ」


「はあ」


タイキーは寝ぼけ眼(まなこ)でルリナを見る。


「手伝いねえ。テスク、家畜の世話は終わったのか?」


ルリナを無視し、弟子に訊ねた。


「すみません、まだ途中です」


そしてタイキーはルリナに向き直る。


「じゃあ、お手伝いを頼もうか。裏の牧場にいる家畜小屋の掃除だ」


「わ、私がですか?」


令嬢のする仕事とは思えず、ルリナは顔を顰める。




 タイキーはガタンと食堂の椅子に座った。


「当たり前だ。やり方はテクスに訊いてくれ。テクス、彼女を連れて行け。うるさくて敵わん」


わざと不機嫌そうな口調で話す。


「あ、はい。行こう、ルリナさん」


「えーー、私はおじさまのお世話がしたくて」


テクスはぐずるルリナの腕を引っ張る。


「こっちです」


二人が出て行くと、タイキーはお湯を沸かし、朝食の支度に掛かった。




 タイキーは、館に女性がいるので仕方なく身だしなみを整える。


朝食はテクスとルリナの三人で食卓を囲んだ。


「この卵は私が先ほど庭から取って来たものですね!。このミルクもお世話した山羊さんのー」


ぶちぶち文句を言いながら作業していたルリナだったが、案外楽しかったらしい。


ニコニコしながら朝食を食べる。


テクスは先ほど簡単に湯浴みしたはずなのに、すでに汗だくになっていた。


「す、すみません、師匠」


大変な作業をさせれば帰ってくれると思ったのだが、上手くいかなかった。


「あははは、はあ。まあ、テクスのせいじゃないさ」


タイキーはしょんぼりしているテクスを慰めた。




 食器を片付けていたタイキーが、窓から街の方を見て動きを止めた。


「師匠?」


テクスがそんなタイキーを見上げている。


「少し出掛けて来る。お前はルリナ嬢と自分の部屋にいろ。絶対に外には出るな」


テクスは「はい」と返事はしたものの、何が何やら分からない。


 自室に戻りバタバタと何かを始めたタイキーが、外出用の装いと鞄を持って現れた。


「ルリナ。迎えが来るまでテクスと一緒にいてくれないか。俺の帰りは遅くなるかもしれないから」


タイキーはそう言って通用口から出ると、裏庭で愛馬を呼ぶ。


鞍を着けて騎乗し、見送りに出て来たテクスに一声掛けた。


「テクス、ルリナを頼む」


「わ、分かりました」


そのまま牧場の柵を飛び越えて姿を消した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。