まかせろ
総司令の追い風の下、3番隊は指示通りに目標地点まで到着していた。
「愁くん。本当に大丈夫ですか?」
そう心配するのは防衛隊に入る前より目をかけてくれていた紗羅隊員。
彼女の表情が少しばかり不安な顔つきになっていた。
「ああ。大丈夫だ。」
愁はただ一言、大丈夫だと口にする。
他の3番隊メンバーも彼のことを気遣うように、心配そうな雰囲気を出していた。
なにせ、彼は入隊してからまだ数日の新人である。
さらには宇宙空間での訓練初日にこのような状況になっているのだ。
実のところ、今回の模擬戦を3番隊隊員たちは見ており、
初めの辿々しさから、2回目、3回目と
徐々に体使いは慣れていると分かってはいるものの、
彼の今までの境遇や、危なっかしい性格から不安を拭えていないのである。
(哲だってやってやがる。俺が行かなくてどうする・・・!)
愁は拳に力を込め、目の前の敵しか見えていない。
側から見れば危なっかしいことこの上ない。
いわゆる、いつ暴走して突っ込んでいくかわからないような状況であった。
しかし、金剛隊長はそんな彼を部隊に入れて戦いに参加させてもいいと言った。
(確かに危なっかしいが、そこを含めて隊長として彼を先導してやらないとな。)
隊長は横目で愁のことを見ながら思う。
なんとかしてやりたい気持ちの方が大きかった。
「愁くん。」
「・・・・なんだ。」
「君が今、何を考えているのかは分からない。
だが、君のことを守って怪我を負った龍司くんに負目を感じて
自分でなんとかしないとと思っているようであれば、
その心意気は捨てた方がいい。」
「・・・・・・・・・・・・」
図星だった。
自分の不甲斐なさと、自分の失態により怪我を負わせてしまったことへの気持ち。
そして、その原因を作った敵への怒り。
それを凝縮させたような感情が彼の中を渦巻いていた。
実際、無意識だが彼の体からはいつもよりオーラが溢れていた。
ただ、受けた言葉に自分の言葉が出ない。
すると、隊長がそれを察したかのように、次の言葉を投げた。
「君は1人じゃない。」
隊長の言葉が胸にスッと入る。
まるで投げられたボールが1ミリのずれもなく、心の穴に収まるかのように。
頭が晴れる。
暗かった世界に青空が押し寄せ、心地のいい向かい風が全てを吹き飛ばすかのように。
(・・・・・・・んだよ。)
自分の中で悪態をつく。
決して悪い意味ではなかった。
彼の目元の鋭さが失われる。
それに気づいた隊長は、少し笑みを浮かべ安心したような表情となる。
(これで大丈夫だ・・・)と。
「それでは皆!目標は目の前!
新人たる愁くんを加えた新生3番隊だ!!
彼をサポートしつつ、敵の殲滅にかかれ!!
皆!!!瞬時にケリを付ける!!
力を残しつつも、一撃で決めるぞ!!!」
「「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」
愁を含めた全員が心をひとつにする。
他の隊員も愁への心配は消えていた。
あとは自分たちのやるべきことを行動に移すのみ。
「皆!俺の手のひらに手を乗せてくれ!」
隊長が振り返り、両手を皆の前に出す。
手のひらを上にし、ここに手を乗せてくれと言わんばかりに皆へ差し出した。
皆がその言葉通りに手を伸ばし、手のひらを上にのせる。
愁も一瞬迷ったが、皆と同じように手のひらを隊長の手の上にのせた。
全員手を乗せたことを確認すると、
隊長が手のひらに乗った皆の手を、覆うように掴み直す。
「一瞬でケリをつけるぞ。『スイッチ・オン!』」
その瞬間、愁だけが一瞬だけ意識の世界へと吸い込まれた。
ー意識の中ー
そこで待っていたのはあいつ。
俺の中にいる、トモと名前をつけた奴だ。
今回はいつものように教室やグラウンドなどではなく、何もない空間に俺と2人だけ。
何かと思い口に出そうとするも、先に声をあげたのはともだった。
『時間がないから手短に話す。
相棒、今回だけは俺に体を預けてくれ。』
「・・・・・・え?」
突然の提案に疑問符を投げかけることしかできなかった。
様々な疑問が頭の中を通り過ぎ、何から話せばいいか分からない。
『困惑するのもわかるが、悠長に訓練している場合じゃなくなった。
お前には、さっさと俺を使いこなしてもらわなきゃいけねえ。
そのために、ひとつ上のステージを見せてやる。』
「お、おう・・・」
何を言えばいいのか分からない。
とりあえず、1番に浮かんできた疑問を投げかける。
「ど、どうやって?」
『簡単じゃないが、短時間だけの強行手段だ。
オーラをお前の体に馴染ませて、オーラを通じて体を操作する。
実は1回やったことはあるんだがな・・・。』
「俺はどうなる。」
『大丈夫だ。意識はあるが、体が勝手に動く感じだな。
声も俺が発言するようになる。
今まで通り、意識の中での会話はできるぜ。』
「そ、そうか。」
『時間が限られてんだ。
ちゃんと見てろよ。相棒。』
「分かった。何もないんだな?」
『安心しろ。俺はただの、お前のオリジンだよ。』
「分かった。頼む。」
『フッ。その言葉を聞けて安心したぜ。
見てな。お前の可能性を。』
自信に満ち溢れ、任せておけと言わんばかりに笑うともの顔を最後に、
意識の世界は閉ざされる。
その間1秒にも満たない、極小の時間。
自分の手のひらが見えたところで現実に戻されたと実感する。
そしてあの言葉。
金剛隊長が全員に授けたギフトとも言える覚醒。
隊長から受けた力は瞬時に体の能力を向上させた。
頭が冴える。
今ならオーラを操作する制度も格段に違うだろう。
なんとも言えない全能感が体を巡る。
周りを見ても、隊員全員が研ぎ澄まされた雰囲気を漂わせている。
(相棒。頼んだぜ。)
(『まかせろ。俺の勇姿、ちゃんと脳に刻めよ。』)
入れ替わる準備ができたかのように、愁はともへと合図を出す。
それに応えるようにトモが答えた。
変な感覚だ。
自分の意識と関係なく、胸の部分からオーラが流れ、体へと染み込んでくる。
それは血液が体を巡るように、何の違和感もなく浸透していった。
体全体をオーラが支配する。
自分では体を動かせない妙な感覚だった。
『あーあーあー・・・よし。』
俺が発声しているわけではない。
トモが喋っていた。
さらに、俺の声ではなくなっている。
いつも俺の中で喋っているあいつの声だ。
(お前、声も変わるのかよ。)
(『こっちの方がわかりやすいだろ?』)
(まあ、そうだな。)
準備は整った。
隊長を見ると、皆ひとりひとりの表情を確認している。
隊員の精神状態、能力が働いているかなどを確認していた。
そこで、パッと目があう。
隊長は目を細め、眉間に皺を寄せて首を傾げた。
2、3秒してから他の隊員たちの顔をそれぞれ確認していた。
(おい、なんだあれ。)
(『しらねよ・・・びびったぜ・・・』)
(俺じゃねえってばれたんじゃねえだろうな・・・。)
(『恐ろしいこと言うなよ・・・。』)
緊張感皆無であった。
「よし!それでは・・・行こうか。3番隊。」
敵へと振り返り、胸に手を当てる隊長。
その表情は先ほどとは違い、真剣そのもの。
部下の命をもせよった隊長としての面持ち。
『スイッチ・オン!』
隊長が真っ先に敵へと駆ける。
その後を追うように和美副隊長も、
彼女のオリジン、『青』を発動させた後、高速で移動。
去り際に、「皆、無理はするなよ!」と残った隊員に告げる。
残された隊員たちも、それぞれ行動を開始する。
トモはその状況を俯瞰しており、自分のタイミングとなったところで動き出す。
『支援しろ。』
トモが何か発言すると、
彼の周りに出現する5個の黒い玉。
出現を確認したところで彼は敵へ一直線。
オーラを足元で破裂させ、勢いよく敵戦艦へと突っ込むのであった。




