世界観判明
文字を覚え。
単語を拾い。
拙いながらも、本が読めるようになってきた頃。
ついに。
自分の名前を、理解した。
(……リラ)
周囲はそう呼ぶ。
正確には——
「リラお嬢様」。
(……やっぱり、貴族か)
そして。
いつも傍にいる少女。
ベル。
彼女は、私の側仕え。
分家筋の男爵令嬢らしい。
(……侍女が令嬢)
この時点で、家格がだいぶおかしい。
読み進めるうちに、この国の仕組みも見えてきた。
王を頂点とする王国。
貴族制度。
公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。
さらに下に、準貴族。
準男爵、騎士爵、魔法爵。
(……魔法爵?)
気になる単語はあるが、今は置く。
それよりも、目を引いたのは——
「色」。
爵位ごとに、使える色が決まっている。
王族は金。
貴族は上から、紫、青、緑、黄色、橙。
準貴族は赤。
それらは、紋章や衣服に使われる。
裏地。
装飾。
式典用のローブの縁取り。
(……識別用か)
一目で、立場が分かるように。
合理的だ。
だが。
それ以上に気になる一文があった。
この国では、爵位の変動が多い。
(……実力主義?)
貴族社会で、それは珍しい。
(……だから色分け?)
視覚的に更新しやすい。
確かに、理にはかなっている。
(……面白いな、この国)
マナー講師からは、こう言われている。
王族。
そして、この家の当主夫妻。
次期当主。
そこに対しては、最大限の礼を。
それ以外は、常識的な範囲でいい。
(……思ったより、緩い?)
日本でいうところの丁寧語レベル。
暴言や暴力さえなければ問題ないらしい。
(……助かる)
とはいえ。
前世の常識が通じる保証はない。
(……油断はできないな)
そんなことを考えているのには、理由がある。
今日。
私は、城へ移る。
今いるのは、馬車の中だ。
これまでいた場所は、別邸だったらしい。
それでも、前世の家の三倍はあった。
(……本邸じゃないのか)
そして、城。
(……だいぶ上だな)
爵位は、まだ聞かされていない。
だが。
(……高位貴族、確定)
そうでなければ、話が合わない。
馬車の内装を見る。
広めの箱馬車。
装飾は、青——いや、瑠璃色。
外には紋章。
五芒星に十字。
周囲を囲む、小花のついた枝。
小花は、黄色く煌めいていた。
(……色、か)
この国では、意味を持つはずだ。
やがて。
馬車が止まる。
先に降りたベルが、こちらを振り返る。
抱え上げられる。
(……やっぱりこうなるか)
ステップはあるが、まだ高い。
それにしても。
(……大丈夫か?)
細い体で、子どもを抱えている。
負担は軽くないはずだ。
(……他に人はいないのか)
疑問は浮かぶが。
今は、聞けない。
視界が開ける。
目の前にあったのは——
城。
石造り。
巨大。
(……でかい)
語彙が死ぬ。
ぼんやりしていると、再び抱えられる。
階段。
(……これは無理だな)
素直に運ばれる。
中へ。
重い扉が、ゆっくりと開いた。
その先。
少し進んだ場所に。
一人の女性がいた。
薄茶の髪。
整った顔立ち。
(……綺麗だな)
同時に。
(……この人だな)
そう直感する。
教え込まれた通りに、礼をとる。
何度も、繰り返した動き。
失敗はしない。
女性が、口を開く。
「私は貴女の祖母にあたります」
(……祖母)
「これよりリオラルーシュと名を改め——」
(……え?)
「ルクスとして恥じぬよう、精進なさい」
理解が、追いつく。
名前が。
変わった。
けれど。
迷う時間はない。
「かしこまりました。おばあさま」
口が、先に動いた。




