陞爵の宴
叙爵、陞爵の式典が終わり、夜会へと移った。
第1王子殿下が出席されるということで、同年代の貴族子息・令嬢にも参加が許されている。
私も夜会用の衣装に身を包み、会場へ足を踏み入れた。
煌びやかな光。色とりどりのドレス。笑い声と香水の匂い。
あまりの華やかさに、一瞬だけ足が止まる。
——気を抜けば、すぐに迷う。
私は慌てて父の背を追った。
父の社交を少し離れて眺めていると、場の空気がふと変わる。
ざわめきが、波のように引いた。
視線の先に現れたのは、一人の少年。
整えられた金の髪。その周囲に——淡く、しかし確かに揺らめく光があった。
空気そのものが輝いているかのような、黄金の煌めき。
それは髪ではない。
王族にのみ現れる、魔力の色。
夏空のような青い瞳が、静かにこちらを見ている。
「ラピスラズリ伯爵。陞爵及び農務大臣就任、おめでとう。卿の活躍、楽しみにしているよ」
「これは王太子殿下。お言葉、痛み入ります」
父の応対で理解する。
この人が——神童と名高い、第1王子レオナルド・ソル・スフェーン。
「伯爵。そちらはご息女か?」
「は。娘のリオラルーシュにございます。未熟ながら、いずれ殿下を支える臣となりましょう。ご指導賜れれば幸いに存じます」
父に促され、私は王家への最敬礼を取る。
顔を上げた瞬間——
(……あれ?)
妙な既視感が胸をよぎった。
初対面のはずなのに。
なのに、この人を——私は、知っている気がする。
次の瞬間。
——光が、消えた。
ざわめきが止まり、世界が黒に沈む。
心臓が、強く跳ねた。
(来る)
理由もなく、そう確信した。
私は咄嗟に一歩踏み出し、王太子殿下の前に出る。
——直後。
ガキン、と。
硬質な音が、至近距離で弾けた。
空気が震える。
防護魔術に、何かが衝突していた。
(……今のは、何?)
矢でも、魔法でもない。
もっと速く、もっと重い“何か”。
嫌な予感が背筋を這い上がる。
私は即座に探知魔法を展開した。
——しかし。
何も、捉えられない。
気配が、消えている。
(そんな、はず——)
ぱっと光が戻る。
遅れて、誰かの悲鳴が上がった。
それが引き金になったように、会場全体がざわめき出す。
「陛下が——!」
その声に、私は王太子殿下と顔を見合わせた。
次の瞬間には、二人で玉座へ駆け出していた。
人混みをかき分け、辿り着いた先。
——そこにあったのは。
玉座の前で倒れる、国王陛下の姿だった。
頭部から流れる血が、床を赤く染めている。
微動だにしない。
一目で分かる。
——助からない。
玉座の背には、小さく抉れた痕があった。
まるで、何かが“貫いた”かのような——
(……これが)
私は無意識に唇を噛む。
(銃撃、イベント——)
記憶の中の“知識”と、目の前の現実が重なる。
——だが。
(こんなの、ゲームに……なかった)




