凱旋
ゼキムとの激戦を終えて。
トンは、マミルダ城のバルコニーに登る。
憔悴しきったような表情の、シルビアがいた。
お互いの視線が重なって。
二人の瞳孔が開いた。
外では、ようやく城門を突破したカムラン軍と≪リ・セイバー≫達が一気にマミルダに流れ込み、ディムガルド軍を駆逐している。
ゼキムの『聾断支配』の影響を脱したマミルダ市民たちは、慌てて自宅へ避難していた。
そんな外の様子を尻目に。
二人は抱き合っていた。
数日後。城塞都市マミルダを中心とした騒乱は終わりを告げ、トンは真教連本部に呼び出されていた。
「おめでとう。トン・ビロードビレッジ君。先の戦役でのあなたの功績を鑑み、≪ドレイグ≫への指定は解除されたわ」
そう目の前で告げる金髪の麗人は、真教連本部の女神官パルテナだ。
トンたちとそう変わらない年齢で、真教連上層部に喰いこむ実績を残す女傑。
「何より、敵の大将を討ち取ったんですからね」
そう言われて、トンは複雑な気持ちになる。
世間的には、トンがゼキムを討ったということになっている。
でも違う。あの日、確かに奴がいた。
そしてゼキムは……。
「ちょっとトン君、聞いてる?」
「あ、ああ。あんがとよ。これで心置きなく暴れられるぜ」
「暴れすぎたらまた≪ドレイグ≫へ逆戻りよ。気を付けてね?」
「あーったよ」
「それと、点数。多めに付けとくから」
「うっし!やる気でるゥゥゥゥ~~!」
「……そうやって調子に乗ってると、すぐ他の≪リ・セイバー≫達に抜かされるんだからね?」
「ほいほい。なんかかーちゃんみたいだな、アンタ」
「だ、誰がかーちゃんよっ!?」
「ん?もしかしてそう言われることにコンプレックスアリアリ?」
「うるさい!ひゃあく帰ってよ!」
慌てていたのか噛んで「早く」が「ひゃあく」になっていた。女傑に似合わぬ狼狽っぷりである。
トンはニシシと笑いながら、真教連本部を後にした。
女神官パルテナは、トンと別れると真教連上役が出席者に名を連ねる神官会議に出席するため、建物の会議室へ向かう。
(ふー。あの堅苦しい雰囲気はどうにもまだ慣れないわ……)
真教連の上層部に入り込んでまだ日の浅いパルテナは、年寄りばかり集まって渋面を浮かべて難題ばかり話すあの空気に未だついて行けないところがある。
とはいえもういつまでも愚痴ってられる立場じゃないのだ。気を入れ直して会議に臨もう――――と会議室のドアノブへ手を回した瞬間。
首筋に、刃物を当てられた。
「誰……?」
一瞬惹起した恐怖を強力な自制心で押さえつけ、声音を落ち着けてパルテナは誰何の声を発した。
「んー?ボクってイマイチ有名じゃないっぽいね♪」
パルテナは気づかれないように、後ろに視線を泳がせる。
すると目に入った。
印象的な左頬の、紅十字が。
「一応朝の挨拶はしといたほうがいいね♪ バドジ・L・ガーナーだよ」
カムラン全土の≪ドレイグ≫を裏で束ねる男。
≪リ・セイバー≫を束ねる真教連の総本部は、その侵入を易々と許したことになる。
――――最悪の展開が、容易にパルテナの脳内で繰り広げられていた。




