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悪魔の槌継承戦⑥



「がああああっっ!!?」



 ゼキムが絶叫する。

 高圧の電流が彼の体に奔っていた。



 トンは、消耗しきった全身を寝そべらせたまま、ニヤリ、と笑った。


 


――――走れば走るほど生まれる腕輪の電流は、実はベルグハンマーに逃げていた。


 ベルグハンマーの材質はゼキムの言うように賢石エリクシルが主だが、鉄も過分に含まれている。

 柄にさっき拾った鎖を絡ませておき、それを槌の部分に伝わるようにすれば、腕で生まれた電流がベルグハンマーに逃げるのは自明の理である。

 だがベルグハンマーには賢石エリクシルなどの不導体も当然含まれているため、腕から走る莫大な量の電流を完全に逃がしきることはできず、いくらかはダメージとしてやはりトンの体を蝕んでいた。


 ゼキムを倒さねばやはりいずれ『詰む』時が訪れる。



 だから、トンはベルグハンマーに流れる電流を利用し、ゼキムを倒す策を考えた。



 まず、鎖の破片を小路に投げ散らかす。

 元々槌の柄に巻き付けていたものだが、先ほどの群衆との戦闘で、鎌で断ち切られていた。

 逆に好都合だった。いちいち鎖を分割する手間が省けたからだ。


 そして、ゼキムに追い詰められ、電流に体力を奪われ膝から崩れた、という体を装い、トンはベルグハンマーを手から放した。


 肩から力を抜き、脇をふわりと開けて……それこそ兄弟子の言った通りに。



 『円形』の波紋を小路に広げる。そしてすかさず『破壊と再生のウロボロス』を発動。


 ここで『直す』のはバラバラになった鎖だ。

 鎖をベルグハンマーの柄に巻き付いていた時の形に直す。


 『破壊と再生のウロボロス』は、何をどんな形で直すかある程度指定できる。


 だから、 鎖をベルグハンマーの柄に巻き付いていた時の形に直すよう指定した。


 その間にどんなものが挟まろうと。『破壊と再生のウロボロス』の効力が働く鎖は、必ずその通りに直る。


 ――――よって、のこのこベルグハンマーの柄に触れに来たゼキムは、『破壊と再生のウロボロス』の力で飛んできた鎖に縛られ、その身を電流が奔るベルグハンマーに接触させることになったのだ。





 ゼキムはそのまま、地に沈む。


 対してトンは向くりと起き上がる。

 見た目ほど派手にダメージを受けていない。



「へへっ。どうでい……」



 若干表情禁が引くつくが、トンは得意げでゼキムを睥睨する。



「…………して…………やられたな……………」



 ゼキムはかなり重体のように見えた。

 やっとかっと話せるという感じだった。


「俺の勝ちだな」


「その……ようだ…………」



 悪魔の槌継承戦は、ここに決した。


 トン・ビロードビレッジが、ゼキム・ヴァオウに勝利した。



 勝ったところで、トンは別に何の優越も感じなかった。


 総司令官を沈められたディムガルド軍はこのまま戦意を喪失し総崩れとなり、やがてカムラン軍の反撃によってこの城塞都市マミルダも堕ちるだろう。


 そうなれば、捕らえられたゼキムの処遇は言うまでもない。

 彼は死ぬ。

 

 ゼキムの護送を襲撃するときから覚悟していたことだが、兄弟子が処刑される運命が確定すると、やはり虚しさしか残らない。



「……何か、言い残すことあるか」


 別に今が最後の時というわけではないのに、トンはどうしてもそれを訊いてしまった。



 ゼキムは、少し目を伏せ、口を開きかけてやめ、でもやはり口を開いた。



「……お前に、伝えねばならないことがある。いまさら言い訳じみていて、離すのも憚られたが」



 それは。


「……師匠を殺したのは俺ではない」


 衝撃の事実。





「バドジ・L・ガーナー」





 ――――。

 トンには、言っている意味が分からなかった。



「俺は、……三年前、反乱を決起するにあたって、ある人物の助成を恃んだ。それが、この国の裏社会を束ねる男・バドジ・L・ガーナーだった」



 あの紅十字が。


 後に“シルビア”を奪った男が。


「そして彼と共に師匠からベルグハンマーの真打を奪う計画を立てた……当然、彼を、ガロンを殺すことなど計画に入っているはずはない。衝動的に殺したわけでもない。ただ、奴は、バドジは違った。抵抗した師匠ガロンを殺した。俺たちの静止を振り切って。奴はただ、己の嗜虐心にのみ基づいて動いていた」



 まさか。



「……反乱が失敗して……ディムガルドに潜伏する間も奴に関して情報を追っていたが、聞けばお前が狙われていて、そしてその“連れ”が殺されたというじゃないか。……だから、俺は今一度カムランの土を踏むことを決めた。

 未完の反乱を貫徹するというのが第一義だが、もう一つ、お前とシルビアを手元において、バドジの脅威から護るという目的もあった……。これは本当だ。信じてくれ」



 今際の際になって、この兄弟子が作り話にしては荒唐無稽な嘘を吹くとは思えなかった。

 今、ゼキムの体を、螺旋の文様が蝕んでいた。



「ゼキム、もう話すな、なんかおかしい」


「……これか。バドジが直接手を下しに来たか」



 トンは辺りに目を走らす。

 

来ているのか。


バドジが。



「トン……色々、なんて言葉で語りつくせないが、本当に色々あった……最期に会えたのが、師匠の忘れ形見であるお前であってうれしい。……じゃあ、な。師匠には、一足先に会って謝っておくよ」


「待てよ、ゼキム、おい!」


「…………」



 ゼキムの体の螺旋模様は。


 本物の『螺旋』となって。



 一瞬のうちに、彼の体を砕いた。



ギュルリ、と言う耳を犯す音が響いた後、


血が絞られて、ゼキムは、



消滅した。


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