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悪魔の槌継承戦④

 


 鎌や包丁を振り回しトンに向かってくる老若男女。


 総勢一千が響かせる駆け足の音が街の大気を震わせる。


 彼らに向かってベルグハンマーは撃てない。



 しかし、『トンを殺せ』とゼキムに命じられている以上、彼らは確実にトンを刺しに来る。


「くっそ……!」


 トンは背を向け、凶器を向ける群集団から逃げようと駆け足を始める。



 その瞬間、ビリビリっとした痛みが全身に奔った。


(……なんだ……!?)


「言い忘れていたな。貴様の腕輪、走れば走るほど体に電流を流す仕組みになっているのだ。

 ……逃げれば逃げるほど、地獄を見るハメになるな」


 背中に、ゼキムの嘲笑がかかった。





◇◇


 耳を聾するほどの喚声が、バルコニーの外で轟いている。


 クレオたちはゼキム配下のディムガルド兵に監視され、バルコニーの床に突っ伏していた。

 外からトンとゼキムの戦闘を見ることは、許されていなかった。


 シルビアを護れなかった自分が、不甲斐なくて情けなかった。


 シルビアにとってあのトンという男は特別な存在のようだが、そんな風に誰かのために命を懸けられるシルビアはクレオにとっても特別だ。

 彼女といるだけで、魂を救われたような気分になる。


 だから、彼女のために動かなければいけない。

 今度こそ、実のある行動を。


 体をロープで縛られているが、クレオはなんとか体を捻って、傍に立って外の戦いを観戦しているディムガルド軍兵士に向かって体当たりを慣行しようとする。



 しかし意志に反して、体は動かなかった。

 意志に付随するはずの行動を、『封じ』られてしまった。

 『鍵』の力だ。



 これは……!

 シルビアの天地人スキル!?

 

 バルコニーの床に今もうつぶせに倒れているシルビアの能力が、今確かにクレオの体に浮上している。 



 そして。

「ぐっ…………!なんだ、体が動かん!?」


「あっ……が……!?どうしたんだこれ、まさか……!?」



 監視のディムガルド兵たちが体を動かせない恐慌に見舞われる。


 床から、か細い声が聞こえた。


「クレオ……今なら……大丈夫……」


 クレオの体に浮かんでいた『鍵』がいつの間にか消えていた。


 そうか。

 また、シルビアに救われた。


 クレオは肩から地面に身体を投げ出し、傍に立っていたディムガルド兵をすっ転ばせた。


 二人、三人と監視兵の体を引き倒したところで、クレオは兵の一人の腰からナイフを奪い、咥えて共に傍で縛られていたリリアンの近くにナイフを落とした。


「俺の縄を切ってくれ!」


 リリアンは承諾したという風にうなずいて、ナイフを咥え上げてクレオの両腕を縛る縄を切った。


 縄を解かれたクレオは、リリアン・ミルフィ、そしてシルビアと次々に縄を切っていく。



 その間に、外の様相が変わった。


 何の手品か分からないが、マミルダの市民と思しき人々が家から出てきて……彼らが追う先にトンが走っていた。



 状況を吞み込めないが、トンがマミルダ市民の襲撃を受けている。


 縄を解かれたシルビアが立ち上がろうとする。しかし、疲労の故か足がおぼつかず、すぐ膝を着いた。


 正直、シルビアの鍵の力が使えればトンを救い出すのに大きな力になる。


 それでも今は、彼女を無理させるわけにはいかない。


 クレオはシルビアの肩を抱いて、彼女を制止した。


「シルビア、君はここにいてくれ。トンは俺が救い出す」


 でも、と口籠る彼女を宥めすかし、リリアンとミルフィに後を頼んで、クレオはバルコニーの床で転がっていた兵士の腰から剣を奪って、外に出た。


 そのまま、城下の群衆の中に溶け込んだ。





◇◇


 囲まれた。


 ゼキムによって操られた群衆は、トンが驚くほどのスピードで彼を猛追していた。


 ゼキムの『聾断支配カイザー・ハウル』。あの強制力の強い洗脳系の能力が、彼等の潜在能力を引き出し全ての力を底上げしているのかもしれない。



 左右に折れても辻を曲がっても群衆に阻まれ、とうとうトンは四方を囲まれてしまった。


 狂気を孕ませ鎌や包丁を握り、にじり寄るマミルダの人たち。


 彼らに向かってベルグハンマーを向けるわけにはいかない。


 かといってこのままでは暴徒と化した住民たちに滅多打ちにされる未来が口を開けて待っている。



 どうする……。


 逡巡する間にも群衆の一人が突っ込んできた。


 鎖をヌンチャクが如く振り回す中年の男を蹴り上げて、路上に昏倒させた。


 鎖……。トンは男が手から零したそれを思わず拾い上げる。


 これは使える。


 槌の柄に鎖を括り付けて、器用に振り回した。


 トンが槌の柄を動かせば、鎖の動きが鋭く奔る。


 ゼキムに支配された生けるゾンビたちを鎖の軌道で撃退する。


 右へ左へ空を切る鋼の鞭が、一人、また一人の顔を穿つ。 


 その度に舞うマミルダ市民の血飛沫から目を逸らそうと、トンは必死で人だかりの中から本当のゼキムの姿を探す。


彼が本来相対すべき相手ゼキムは、今や霞と化した群衆の向こうに消えて見えない。


 

視線をぶらしたのが悪手だった。


 予期せぬ方向から鎌の一閃。


 トンはとっさに鎖をピンと張ってそれを受ける。


 鎖が断たれた。



 二撃、三撃と迫る素人の攻撃を、反撃の術を失ったトンは路上に転がって躱した。



 起き上がるころには、一気に市民たちに詰められていた。



 鎌が鍬が包丁が手槍が剣がナイフが、トンの体に殺到する。




次回は10/3月曜更新を予定しています。

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