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悪魔の槌継承戦③


 ゼキムが体を起こし、体をはたく。


「なるほど……牢の暮らしが長かったせいか、少し体がなまっていたようだ」


 荒い息をつき、ゼキムは辛うじて立ち上がり、胸の土を払った。


「だが今の一撃で仕留めきれなかったことは、後悔させてやる。……次で終いだ」


 ゼキム・ヴァオウはそう宣告すると、自身の手と分断され地面を転がっているプロトハンマーを目の端で捉えた。


 そして、瞠目した。


「もう終わってるんだよ。その試作品プロトハンマーは、最後に打ちあったときに俺の天地人能力ウロボロスで『壊した』」


 トンは最後にベルグハンマーとプロトハンマーがぶつかった際、「破壊と再生のウロボロス」の『破壊』の力をゼキムのプロトハンマーに適用して、その槌の部分を粉微塵に破壊した。  

ベルグハンマーの槌の円形が、能力発動の前提条件を満たしたのである。


 トンはゆっくりと、ゼキムに歩を進める。


 もはや、トンが勝ったも同然の状況で、それでも彼はかつての兄弟子にとどめを刺そうとはしなかった。


「ゼキム。お前がこの現実の何に絶望して、こんなむちゃくちゃな反乱モドキを二度も起こしてるのかはしらねえが」


 トンはゆっくりと言葉を紡ぎだす。


「現実見てくたびれてんじゃねえよ……。現実見て諦めてんじゃねえよ!その先にある真実を見ろよ。

 お前みたいに反乱を起こして一瞬でぶち壊すようなやり方じゃない、一生かけて積み重ねていくやり方だ。

 上手くいかない現実を何度も見せつけられて、それでも立ち上がって槌を握りなおして、何度でも振って……そういう過程が“真実”だろ。

 真実を見通せた奴は、必ず結果っていう“現実”を変えられる。真実は現実を変えるんだ」



 “上手くいかない現実”……自身が≪リ・セイバー≫として生きることを望みながらも、≪ドレイグ≫として生きることを余儀なくされたこれまでを噛みしめて、トンはゼキムを諭す。


 最後の最後で、兄弟子の心を変えて見せたかった。


 トンは真っ直ぐに、ゼキムを眼で射抜いた。


「ゼキム。もう一度、お前自身の真実を探してくれ。それが見つからないって言うなら、俺に託してくれ。お前が現実の中で光を見失ったっていうんなら、俺が頑張るから。

 だから……」


 トンは、少し俯いて、歯を噛み縛った後に口を開いた。


「そしたら、親父を殺したことも許すからよ……」


 言うのを一瞬ためらう、言葉だった。

 しかし、嘘偽りはない。妥協もない。兄弟子の心が、最後に変わってくれるのならば。





 こんな土壇場で、ゼキムの脳裏に苦い光景が染み渡る。



 ガロンに弟子入りして間もない頃。


 彼は、アリナという女性と恋に落ちた。


 アリナは美しく、気立てが良かった。どこに連れて行っても恥ずかしくない女性だった。

 だから当然のことか、家柄も良くて。

 彼女の家は、ある村の名主だった。


 地元の有力者の娘と、半人前の鍛冶師見習い。


 当然、二人の恋は彼女の親から認められることはなかった。



 だがゼキムは仕方ないと思っていた。いつか、自分が立派な刀工になって、彼女を迎えに行けばよいと思っていたからだ。



 しかし、そんな理想はついに訪れなかった。


 国土を統一したカムラン王国が新しい検地制度を開始すると、アリナの父はそれに強硬に反対した。

 カムラン政府は戦争で赤字となった財政を立て直すべく、徴税の強化に乗り出していた。そのため新しい検地制度では、村の者の取り分が目減りするからだった。


 これを疎んじたカムラン政府の担当者は、しかし大っぴらにアリナの父を消すこともできず、殺害を他の者に依頼した。

 それが真教連に雇われた≪リ・セイバー≫である。

 真教連もまだまだ勢力を拡大させる段階で、政府に貸しを作りたい時期だった。

 そのため、汚れ仕事を引き受け、配下の≪リ・セイバー≫にアリナの父を殺すよう命じた。


 その後は多く語るほどのことではない。父親殺害の現場に不幸にも居合わせてしまったアリナは、口封じで殺された。

 そして真実は封殺された。それだけだ。


 それだけの事実で、国に、政府に絶望するには十分だった。


 あの日から、カムラン政府の破壊だけが、ゼキムにとって人生を賭けるべき目的となった。

 あの日みた“現実”が、自分の中で“真実”も同義だった。



「フフッ……」


 少し嗤って、ゼキムは粉砕されたプロトハンマーの欠片を拾った。


「ベルグハンマーの原料は賢石エリクシルと呼ばれる魔石だ……旧時代の黒魔術の源とされる禁忌の物質。これが、お前が撃ち出す懐王の鉄槌ベルグハウンドの衝撃波の源だ」


 その欠片を、飲み下す。


「面白いものを見せてやろう」


 トンの呼びかけには答えずに、ゼキムは喉を震わせた。


『トン・ビロードビレッジを殺せッ!』


 賢石を飲み込んだ喉はこの街一体に響き渡る声を発して、大気を震撼させた。

 賢石エリクシルの魔力が、声量を増幅させたのだ。


 しかし、大声で叫んだからと言ってなんだというのか。

 麾下のディムガルド兵に指示を出したのか?

 ……それよりも、事態は最悪な方向へシフトした。



「私の天治人能力スキルを公開しよう。

 『聾断支配カイザー・ハウル』。

 対象の支配地域に我が声を聴いた者を従わせる、絶対王者の能力だ」


 説明の後に、マミルダの街の家々から、包丁や鎌や桑――――それぞれ貧弱な武器で、しかしトンにとって世界一相手にしたくない人々が襲い掛かってくる。


 ゼキムが発した『聾断支配カイザー・ハウル』は、賢石に増幅され、家屋で外出を禁じられている市民たちの耳にも届いていたのだ。


「さあ……継承戦第二幕の始まりだ」


 その宣告と共に。

 一千人にも上るマミルダ市民が、各々凶器を手に、トンに殺到する。

 それは、絶対にベルグハンマーを向けられない相手だった。


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