悪魔の槌継承戦②
トン対ゼキムの悪魔の槌継承戦。
このかつてない余興に、マミルダ市街を埋め尽くす黒ずくめの各所から喚声が上がる。
「で、どこで闘るつもりだ?」
トンはゼキムに問う。
「その前に、この腕輪をつけろ」
ゼキムはフッとトンに向かって腕輪を投げる。
鮫の意匠が用いられた、厳つい腕輪だった。
――――そして一瞬、ピリッと刺さる痛みがトンの腕を走った。
「何だこれ……」
「フン。我が天地人能力で生み出した腕輪だ。これで私は貴様の位置を、手に取るように把握できる」
逃走防止用の腕輪なのだろう。
それにしてもさっき腕に走った痛みは、得体の知れない警戒心をトンの心に喚起する。
「さあ……始めるぞ」
そう言って。
ゼキムは街に飛び出した。
「ちっ…………あいつ街中でおっぱじめる気か!」
トンもゼキムの後を追い、バルコニーから飛び降りる。
悪魔の槌の継承戦が、今始まった。
街の中で二つの風が解かれ、トンとゼキムが相対した。
ゼキムの手には白銀の槌。
試作品と言えど、その威力はトンの真打と遜色ない。だから、トンは一撃で決める腹だった。槌と槌のぶつかり合いは手数の多さよりもパワーの優劣によって決せられる。
トンが自らの槌を正中線で構えた。
ゼキムも間合いを保ったまま白銀の槌の先端をトンに向ける。
そして両者、手にした槌を最大加速で振り下ろし、街に入り込む微風を突風に変え砲弾のように打ち出した。
激突。
トンが撃ち放ったのはベルグハンマーの基本にして最強の技、壊王の鉄墜だった。出し惜しみなしの全力の一撃。対してゼキムも、自身の渾身の技を以て応戦した。
結果は――――トンの側から発せられた爆風が、ゼキムの強壮を後退させた。
それだけだった。わずかに競り勝ったのみに終わった。本来ならばゼキムの足を地面から引き離し、街の奥へ吹き飛ばしているはずなのに。
トンの驚愕を意に介さず、ゼキムは歓喜に震えているようだった。
「やはり……!この身に浴びてよく分かった、強い。是が非でも手に入れたい……私が持つにふさわしい、正しく王者の槌だ」
「驚いたぜ……パチモンの槌で俺の壊王の鉄槌を凌ぎきるなんてな」
「……つまりこういうことだ。お前にその槌は不適格だ」
二人は再び、槌を交える。
槌と槌で殴り合う度に鉄火が舞い、衝撃の余波が街を舐る。
いたるところにいたディムガルド兵たちも、今この二人に近づくことは能わない。
そんな中、槌を振るいながらゼキムがトンに訊く。
「いつまで真教連の飼い犬に甘んじるつもりだ……強情を張るのはもうやめて、こちらに来い。それならお前を殺すことはない」
「クドクド鬱陶しいぜ。何があろうとてめえに組するつもりはねえよ。……それに俺はまだ、負けちゃいねえんだからよ!」
何十合目か分からぬ槌の激突。そこでトンは槌を握る手に一気に力を込めた。
壊王の鉄槌。今度はほぼ零距離射程だ。
今度こそゼキムの体躯は、地面で二転三転して手近な民家の壁に激突した。
「どうだ……!」
トンは鼻をこすって得意げな顔つきになる。
「面白い……。それが師匠がその槌に許した万物必壊の技か。では再現してみせよう、その技を」
言うや否や、ゼキムも槌を握る手を固く絞り、そのまま一足跳びで彼我の間合いを侵食する。
そして、放った。
風が唸りを上げ、その衝撃の塊がトンの靴底を地面から無理やり引き剥がした。
元々、トンに槌の操り方を教えたのはこの兄弟子なのだ。
当然、弟子にできるのなら兄弟子がその技を再現することは、造作もないことだった。
――――いくつもの街路樹をブチ折って、トンの体はゼキムの視界の彼方へ飛ぶ。
ブッ飛ばされたトンは、だが――――空中で、へし折られた街路樹の断面にベルグハンマーを叩き付ける。
『破壊と再生の環』発動。
ベルグハンマーの丸い槌の部分がその発動条件を満たした。
へし折られた街路樹が修復され、樹がその最盛期の姿を取り戻す。
その最中にもゼキムの追撃が迫る。
トンはゼキムが放った烈風を、蘇った木の太い枝に飛び移って躱した。
さらにその烈風で大きくしなる木を利用して――――砲弾のように、ゼキムの懐へ飛び込んだ。そこから見舞う、壊王の鉄墜。
「うおらぁぁぁぁッッ!!」
トンの一撃はゼキムの急場のガードを弾き飛ばし、完璧に彼を吹き飛ばして背後の木々に激突させた。
「へへっ。技術や膂力でてめー(ゼキム)に分があるのは認めるぜ。
……ただ、槌を使って喧嘩慣れしてるのは俺の方みたいだな」
トンは再び、得意げに目を輝かせるのだった。




