序列一位(グラン・セイバー)
「お願いします……!トンを救けてください。わたし一人では力不足です。だから、皆さんの力を借りたいんです……!」
祭壇の上に立ち、膝を折り曲げ頭を下げ、彼女は自分の身を狙いに来た男たちに必死の懇願をする。
その計画を打ち明けた時、ブーニン神父と神父の部下マリルの驚愕に見開いた眼を忘れられない。
そんな自らを危険にさらすような真似はよせと。
しかし既に神父には言ったが、シルビアはトンを救けるためなら命を賭けると誓った。
シルビアには『鍵』の力がある。
生まれてから、何度も呪い続けた自分の能力に感謝するときは今しかない。
だから彼女は今、名だたる剣士たちをこの場に封じて、祭壇の上で土下座している。
「トンは、わたしの、大切な人で……わたしのために、ゼキム・ヴァオウを捕らえようとして逆に捕まってしまいました。今も彼の身がどうなっているか分かりません。
わたしは、トンを救けたいです。 そのために、仲間が必要なんです」
シルビアは今、この場に群がる≪リ・セイバー≫達の動きを封じて脅迫する立場にある。
それなのに、モノを頼む語り口は真摯で、必死だった。
彼女は祭壇の上で、額を壇の上にこすりつけるように下げる。
その彼女の腕に、手の指先に、『ダイヤル式の鍵』が現出した。
「今、わたしは自分自身に『鍵』をかけました……。
この鍵は、手動でわたしが設定した四ケタの数字を回さないと解除できません。
皆さんがわたしに協力してくれるとおっしゃったら、パスコードを知っているわたしの仲間が鍵を解除します」
「お願いします、皆さんの手をどうしても借りたいんです。トンを救いたい。
お願いします、お願いします、お願い、します……」
祭壇の上で土下座しながら頼む彼女の声は、擦り潰れそうな声だった。
言うべきことは、全て言った。
自らをここに集う剣士たちと同じ状況において、必死に懇願している。
それでも何かが詰って、胸が張り裂けそうになる。
しかし。群衆から、嘲る声が響いた。
「おいおい色ボケに俺たちを巻き込むなよ……!俺は今怒りで煮えたぎってるぜ。
いいか、この中の騒ぎはすでに外に伝わってる。時期に俺の仲間が遅れてくるからよ、その時この教会は包囲されて、てめえなんかお終いだ。
てめえを追ってる内のたかだか数割の動きを縛って、お涙頂戴の演説か?もう勝った気になってのぼせ上がってんのか?
だったらご愁傷さまだぜ小娘ッ!」
剣士たちがざわめく。
一人が発した強気な嗤いに、周囲が同調していく。
そこに。
一人の剣士が、教会に足を踏み入れた。
現れただけで、粗末な木板の床に薔薇が咲いたような気品が空気に溶ける。
シルビアは、入り口から漂う圧倒的なオーラに思わず目線を上げ、そして息を呑んだ。
≪リ・セイバー≫序列第一位。
エリザベス・シェリーフェン。
シルビアの憧れは、隠しようもないくらい圧倒的気品を全身から咲き誇っている。
あこがれの存在を目の前にして暫し意識を奪われていたが、シルビアはすぐに彼女がここに来た理由について考えを巡らす。
目的は、シルビアを捕らえること……。
「見ろよ、やっと救いの女神だ!しかもかの高名な序列一位様、これ以上ないくらいうってつけの女神の微笑みだッ!」
最初にシルビアに怒りを見せた男の表情が緩む。
実際ここにいるだれもが、序列一位が魔女に囚われた自分たちを救いに来たと思っていただろう。
しかし彼らの期待は、序列一位の一声で予想外の軌道へ逸れることになる。
「話は聞かせていただいた。シルビア・ロレンティ殿。顔を上げて」
エリザベスが最初に歩み寄ったのは同胞達でなくシルビアの方だった。
シルビアは何白化の沈黙を置いて、恐る恐るエリザベスの面を見る。
視線が合った時、エリザベスはその高嶺の花と形容するのが相応しいくらいの整えられた顔に笑顔を添えて言った。
「あなたの想い、突き動かされました。この私、エリザベス・シェリーフェンは、序列一位の剣名にかけて、シルビア・ロレンティ殿にお力添えすることを誓約いたします」
凛として、弾んだ声だった。
それは剣士として力強く、そして少年のような熱を持った誓約だった。
シルビアは仲間を欲していたが、これは思わぬ僥倖だった。
「お、おいおい、イカれちまったか序列一位さんよ。
その小娘は真教連から捕縛指令が出てるんだぜ? それにあんたが逆らったら、
下々の俺らに示しがつかねえ。 教会からどんなバツが下るか分かってるんだろうな?」
「あなた方こそ、この状況に羞恥を覚えないのか?」
序列一位の剣士は、声を張ってこの場の≪リ・セイバー≫たちを叱咤する。
「確かに彼女には悪しき天地人能力を行使したという事実があり、それ自体は糾弾に値するかもしれない。 しかし、彼女の一人の少年を救いたいという願いは真摯そのものであり、そのための行動は真教のいずれの教義にももとらない。
今優先すべきは彼女の糾弾か、彼女に手を貸すことか。
皆も己の剣名にかけて問うてみるといい。
良いか、我々が順守すべきは真教の戒律、そして我々が従うは我々の心だ。
≪リ・セイバー≫は決して真教連の飼い犬にあらずッッ!」
序列一位の立場と重み。
それを鑑みたうえでなお、エリザベスは力強く、自分に手を貸すと宣言した。
剣士たちの間にどよめきが起こり、やがてエリザベスに同調する声が沸き上がった。
序列一位という颯爽とした風が吹いたことで、場の空気は一気に変わった。
シルビアは、もう一度彼女の憧れの存在に視線を向けた。
エリザベスは、こちらを見てゆっくりとほほ笑んだ。
序列一位、エリザベス・シェリーフェンの鶴の一声で、
シルビア・ロレンティ率いるトン奪回作戦が、今動き出す。




