表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/49

懇願



 男たちが町中を駆ける。


 百足の如く無数の駆け足が連なると、彼らの腰に佩かれた剣がガチャガチャとやかましい音を、街銃に響かせた。


≪リ・セイバー≫の群れだ。


 世間はゼキム率いるディムガルド軍の侵攻に揺れているというのに、彼らの標的は、それとは別のところにあった。



「『シルビア・ロレンティ』はどこだ!!?」


「分からん、まだ見つからない」


「本当にこの街か?あのネタガセじゃねえだろうな!」



 穢れた天地人能力まじゅつを行使すると言われる魔女。


 シルビア・ロレンティがこのパルイエの街にいるという情報は、朝方多くの≪リ・セイバー≫たちの間を駆け巡った。


 その女を捕らえれば、真教連から大量の金と点数マイルが転がり込んでくる。


 欲に目がくらんだ剣士たちは、差し迫る脅威ゼキムに目を背け、一人の少女の所在を追っている。



「皆の衆、こっちじゃ!こっち!」


 ≪リ・セイバー≫たちが声をする方を向くと、禿頭に申し訳程度の金髪をのせたような金髪の僧服を着た男が手招きする。


 手がかりなら藁でもすがりたいと思う彼らだ。≪リ・セイバー≫たちは神父の方へ足早に向かう。


「この中か!?」


 ≪リ・セイバー≫の一人が声を上げた。


「ああ!ああ、怖ろしや……ひいいっ」


 魔女の姿を見たらしい神父は、ワナワナと肩を震わせ、歯の根をガチガチ言わせて怯えている。……若干大げさなような気がするが、標的が得体の知れない黒魔術を使う証左として、剣士たちは次の行動に足踏みする。


 再び剣士の一群から誰かが声を上げる。


「どうする?『シルビア』ってのは相手の動きを封じる天地人能力まじゅつを使うんだろ?迂闊に近づけない」


「それは大丈夫じゃ……?ワシとワシの部下が、不意を突いて気を失わせた」


「本当かッ!?」


「なら、魔女シルビア捕縛の手柄は誰のものになるんだ?まさかこのハゲか?」


「だれがハゲじゃハゲッッ!!……オホン、まあ、そりゃ最初にシルビアに触れた剣士殿にお渡ししようかのう……」


 剣士たちの眼が色めきだつ。


 そこに、教会の入り口から神父の部下マリルが駆けてきた。その顔には焦燥の色が浮かんでいる。


「神父様、大変です!シルビア・ロレンティがこのままでは目を覚まします!完全に気が付かれたら最後です!」



 魔女シルビアの眼ざめ。


 それは、ここにいる全員がこの場に凍結されるということを意味する。


「中に入って祭壇のすぐ近くに彼女の身柄を放置してあります。剣士様方、縄などお持ちでしたら取り急ぎ魔女の体を縛り上げてください!」


 若い修道女が声を張り上げて叫ぶのを合図に、

 ≪リ・セイバー≫(彼)らは即座に古ぼけた街の教会へ駆け込む。



 普段は日曜の礼拝時でさえ閑古鳥が鳴いているようなうらぶれた教会の中に、真教連が飼い込む名だたる大量の剣士がずかずかと入る。



 言われたとおりに、魔女の身柄はなかった。



 どういうことだ、魔女はどこだとざわめく一同の体に、


 『ダイヤル式の鍵』はかけられた。




「なんだ……!?」

「動かんぞ……!」

「どうなっているんだ、これ!」

「魔女か!」


 歴戦の勇士でさえも、この状況にうろたえる。


 戦場で当たり前のように敵の音を止めてきた彼ら名有りの剣士たちにとって、自らの身動きを一時的にでも止められることは想像してさえいなかったのだから余計に恐慌と焦燥は伝播する。



 そこに、魔女の姿が現れた。


「その『鍵』は外せません……外せるのはわたしだけ。そして外すまでは、誰もここから外へは出られません。その場から動くこともままなりません」


 思ったよりも、魔女の喉からこぼれたのは優しくてか細い、年頃の少女の声だった。

その声が、残酷な前提を淡々と告げた。

 

 金色の髪は肩くらいまでの長さ。深海の色素を吸い上げたかのような蒼の眼は驚くほど透明感に溢れている。



 剣士たちが踏み込んだ時には遅かった。魔女は目を覚ましていたのだ。



「こういうやり方、間違ってるって思ってます。それでも、わたし、どうしてもみなさんにお頼みしたいことがあるんです」



 頼みだと?

 自分を捕らえに来た連中に、モノを頼む?


 この場にいた剣士の誰もが一瞬彼女の言葉を鼻で笑ったが、彼らは手に、脚に、腕に首に腹に生えた『鍵』を見て事態の深刻さに気付く。


 頼みなどではない。これは自分たちの動きを人質に取られた脅迫だ。



「お願いします…………力を貸してください!トンを、救けてくださいッッ!!」



 



◇◇


 ―――― 一方、外では、教会の近くに一台の馬車が停車した。



 どこのお大尽が乗っているのかと見るものに邪推させるほど華美な装飾が施された巨大な馬車は、路肩に停車しその扉が開くと、中から一人の麗人の姿を排出した。


 華美ではないが実用性を取ればこれ以上のものはない特性の銀の甲冑の腰に、彼女の肩書を示す黄金の剣が佩かれている。


 即ち、≪リ・セイバー≫の序列の中でも≪グラン・セイバー≫と呼ばれる序列一位……彼女こそが、エリザベス・シェリーフェンその人だった。


 シルビアの永遠の憧れ。



 ≪グラン・セイバー≫になった者のみが真教連から与えられるという通称「エクスカリバー」を腰に佩く彼女は、今、一つの特命を帯びてこの場にいた。


「エリザベス様……教会の中では魔女の黒魔術スキルがすでに行使され、中に入った他の同志リ・セイバーたちが人質に取られているとのことです。くれぐれもお気をつけて」


 彼女に付き従う老執事が注意を促す。


「大丈夫よ。問題ない」


 ――――シルビア・ロレンティ捕縛の命を受けた序列一位エリザベスは、今、シルビアがこもる教会へ足を踏み入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ