エスケイプ
神父からトンの計画のすべてを告げられて、シルビアの表情は青ざめていた。
そしてはらはらと、彼女は涙を零す。
「そんな…………トン、わたしに一言……話して……」
「計画に成功すれば、トンはゼキムを引っ張ってここに戻ってくるじゃろう。
その後、嫌でもディムガルドとカムランは緊張状態に陥るじゃろうから、トンは自分の命とベルグハンマーをディムガルドに差し出して、戦争の危機を何とか回避するつもりじゃ」
ブーニン神父は、机の上で何かの決意を固めるがごとく拳を握り締めた。
「しかし、トンがここに戻ってきたら、どうにか彼の命が失われずに済むよう、四方に手を尽くそう。 ディムガルドのガラナ正教に属する知人の僧侶から、政財界の要人まで……ワシにできることはなんでもするつもりじゃ」
「わたしも……わたしも、何かしたいです…………!」
潤んだ瞳でそう訴えるシルビアを神父はなだめた。
「気持ちは痛いほどに分かる。 じゃがな、彼が一番望むのは君が平穏無事でいられることじゃ。 君は無事に、平穏に、自分が生きられることを考えれば良い」
その時だった。
教会の扉から、無数の下卑た殺気が飛び込んできた。
抜き身の剣を振り回しながら教会に踏み入る罰当たりどもは、しかし誰もが腕に真教連発行の腕章をつけている。
要するに、いきなり押し入ってきた男たちは、皆≪リ・セイバー≫ということだ。
中でも軽薄そうな男が、片刃の剣をくねらせながら嘲るように言う。
「こんばんは~~! 市民の皆さんの夜の安眠のため、黒魔術を行使するだとか言うこっわーい魔女を捕らえることに相成りました。 とりあえず表出ろや、な? 話はそれからだ」
教会の壁に貼られた硝子が割られる。
そしてそこからも、シルビアを狙う≪リ・セイバー≫の大群が現れた。
総勢五十名余りが、神父とシルビアを取り囲む。
「……剣で斬られるのと、この縄で縛られるの、どっちが好みだ? 強制二択な」
「マズイぞ、囲まれた……!くそうッ!と、とにかくどうにかして逃げ道を!」
「神父様、落ち着いてください」
なぜかシルビアは、この状況で怯えの一つも見せていなかった。
そうだった。神父はここで思い出した。
シルビアの天地人能力を。
「全員の動きを封じました」
無機質に告げるシルビアの言葉と前後して、神父は周りを囲む≪リ・セイバー≫全てに『鍵』がかけられているのを視認した。
「行きましょう!」
「ああ!こっちが教会の裏口じゃ!」
神父が先導し、シルビアが後を追う。
裏口から街に出ると、ブーニン神父の部下の修道女マリルが路上に馬車を待たせていた。
「ブーニン神父! これで! 早く!」
「ああ! 君まで巻き込んでしまってすまない! シルビア嬢、早く乗るんじゃ!」
三人を乗せた馬車が走り出した。
「これで……、私達も、真教連から破門ですかね……」
神父の部下の修道女マリルが少し力なく呟いた。
「そうかもしれん。だがトンが無事にディムガルド国境から戻ってくれば……話は変わる」
シルビアは救ってくれた神父二人に頭を下げると、馬車越しに見える夜空に、トンの安否を問うた。
(トン……無事で、居て……)
9/18 タイトル変更しました。




