襲撃②
「お前たちがどんな思惑を以て私を襲うのかは知らないが、断言しよう、ここで終わりだ。トン」
檻の中から、ゼキムが表情は不変のままで告げてくる。
「くっそ……!誰か手伝ってくれ!こいつの身柄を運ぶ!」
おう!今行く!とこちらに向かってくる声が数秒間をおいて悲鳴に変わった。
ディムガルド兵が繰り出す槍の一撃に、彼は背中から腹にかけてを刺し貫かれた。
他にもトン以外の周りの仲間が、その五倍六倍の数の敵兵に襲われていた。
「俺一人でも……!」
トンがゼキムの身柄が入った檻に手をかけた瞬間、木々の間から矢が飛来する。
「くっ……!」
「トンッ!!おらあああああああっっっっ!!」
唸りを上げて斬り込んできたのはゴルドーだった。彼には別動隊を指揮してもらっていたが、数万にのぼる予想外の敵兵と、想定外の反攻に、もう襲撃計画はめちゃくちゃにかき乱されていた。
「ゴルドー!!」
「早くゼキムを運べ!予想外に仲間が殺られてるが、ソイツさえ押さえればこっちのモンなんだ!!」
自身の仲間を多数死なせる事態になり、無念でやり切れないだろうに、ゴルドーはトンに向かって目的を達しろと叫んだ。
「ああ……!ベルグハウンドッッ!!」
トンは槌を一振りし、ゼキムの周りで円陣を組み槍衾を外側に向ける敵兵を蹴散らした。
「よし!俺についてゼキムの檻を囲め!敵を近づけんな!」
トンは自分の周りにいた数少ない仲間たちに指示を出した。混戦のただ中、自然と怒声のような声になる。
「――――無駄だ。弓兵部隊、斉射ッ!」
信じられない出来事が起こった。檻の中のゼキムの一声で、檻の背後に控えていた弓部隊が一斉にこちらに矢を射かけてきた。
空から降る殺人的な弾雨に、トン側はその進路を阻まれる。
「みんな!無事か!」
「フン、ひるむなと叱咤する前に仲間の安否を確かめるところは貴様らしいッ!さあ右翼、突き崩せ!」
またもや囚人であるはずのゼキムの怒号に、檻の右翼を固めていたディムガルドの槍兵たちが動く。
一体なぜだ、と考える暇もなく、矢を射かけられ、その隙を槍で突かれたトン側の襲撃部隊は、総崩れとなった。
「ベルグハウンドッッッッ!!」
がむしゃらに衝撃の波を叩き込む。
このままでは、全滅だ。
必殺技を放った後、その場には敵も味方もなく、再びトンと檻の中のゼキムのみとなった。
「てめえは何としてでも……!」
トンが粗い息をつき、ゼキムの檻に手をかける。
「トン。周りを見ろ」
ゼキムの低い声に、トンは反射的に辺りを見回した。
そこには、四肢を押さえられ首筋に槍の穂先を当てられた、ゴルドーと副頭目がいた。
「状況は理解できたな?ゆっくりと私から離れ、その手にする槌を置け」
要するに、人質だ。
トンがゼキムの要求に応じなければ、仲間を殺す。
緊迫した状況下でも疑問が疼く。なぜゼキムが自分を捕らえたディムガルドの兵を動かしている?
「……どうした? 囚人であるはずの私が、なぜディムガルドの兵を動かしているか不思議か? 時期にその理由が分かるようになる。 今はとにかくハンマーを置け。
――――置かなければ、貴様の仲間を殺す」
「トン! 俺らに構うな! とっととアンタ一人でもここにいる全員ブチのめして、ゼキムを連れて逃げろ! どうせこいつらの言う通りにしても皆殺しにされるだけだ! だったらアンタ一人でも!」
拘束されているゴルドーが叫んだ。
けれど。
ゼキムの要求を無視するわけにはいかなかった。
自分の計画に乗ってくれて、既に大勢の身内を失っているゴルドーらを見殺しにすることは、作戦の成功を秤にかけてもできないことだった。
トンは、ベルグハンマーを地面に下げる。
「トン! やめろ!」
ゴルドーが怒鳴っているが、これが正しい選択だ。
そう何度も心の中で反芻し、地面に置いた槌からゆっくりと離れると。
後頭部に殺人的な衝撃。
鉄塊のようなものを背後から叩き付けられ、焼けるような痛みが襲ってきた後に、
トンの意識はたちまちのうちに暗転した。




