衝撃
――――そこにぬっと、人影が伸びた。
「ううーん、ゴホン!」
居ても立っても居られないという風な咳払いに、トンとシルビアの体は跳ねて思わず互いの体が離れる。
二人が横を振り向くと、そこにブーニン神父がいた。
「一応教会なのでね……何がどうとは言わんが」
そう言って神父はまたオホン!ゴホン!と喉を鳴らす。
「さて、トン。そろそろ……」
神父が目配せしてくる。人払いを促す合図だ。トンは分かったという風に首を縦に振って、
「ああ。シルビア、ちょっといいか」
シルビアにこの場を外すよう伝えると、彼女はもごもご逡巡しつつも、結局教会からいったん外に出た。
「ではトン……まずは一つ目の報せだ」
神妙な面持ちで、神父は口を開いた。
「ディムガルド帝国内で、逃走中のS級≪ドレイグ≫ゼキムの身柄が拘束された。真教連、カムラン王国当局も確認済みだ」
ゼキム。名刀工ガロン・ビロードビレッジの弟子、トンの兄弟子。
そして、三年前、カムラン王家の天下統一直後に発生した、「ガロンの乱」の首謀者。
トンの父の名を騙り、ようやく平穏のときが訪れた国土を再び戦禍の渦に陥れた悪魔。
反乱の後に行方不明となっており、カムラン王国・真教連が共に総力を挙げて身柄確保に乗り出していたはずだ。
トンも当然、奴の行方を追っていた。この手で捕らえたかった。
奴を捕らえればそれだけで現在の序列からトップ20に入れるほど膨大な点数が転がり込んでくるはずだが、それだけでなく、奴を追う理由には、過分に私情が含まれていた。
「ゼキムがディムガルドに、か……」
トンは神父からの報告を反芻する。
隣国で捕らえられてしまった以上、トンにはどうすることもできない。
その後カムラン王国側に引き渡しの儀が執り行われ、奴の身柄は王城の地下牢に死刑執行のその日まで厳重に収監されていることだろう。
「ったく、……ちっ」
トンは、ゼキムのあの自信を携えた白皙の顔を思い出し、舌打ちした。
今まで散々逃げ回ってきたくせに、あっさり捕まってんじゃねえよ……。お前にかけられた点数は、絶対に俺がいただくつもりだったのによ。
もう消化したはずの、かつての兄弟子に対するやりきれない気持ちが再び渦を巻き、心の中で悪態をついて気を紛らわす。
神妙な面持ちは変わらぬまま、神父の報せは続く。
「もう一つだが、これは確実に良くない報せだ……」
「真教連が、シルビア・ロレンティの身柄を捕らえよといってきた」
トンはその報せに瞠目せざるを得なかった。
「罪状は穢れた邪法を行使した罪……彼女が未だ鍵の天地人能力を持つことが、キースの町が襲撃された一件で真教上層部に露呈したんじゃ」




