来訪者
「おーい、神父、いねえのかあ」
陽の落ちた教会は、人気がなく薄気味悪い。
「ったく、どこ行ったんだあの素人童貞」
丘の上の教会に到着したのだが、何度呼んでも神父が出てこない。
「まーた娼館か。今夜は何軒ハシゴする気だ。あいつ性欲だけなら序列第四、いや三位くらいだからな」
そんな悪態をついて、トンは仕方がないから無許可でこの教会に泊まることにした。
手近な椅子に腰を下ろし、横にはならずに目を瞑る。
ベルグハンマーは近くに立てかけておいた。これでもトンを狙う他の同僚達を警戒してだ。
いつの間にか、意識が闇に溶けてそのまま無くなる。
周囲を警戒してかなり神経を尖らせていたにもかかわらずだ。
疲れていたのかもしれない。気が付くと陽が高く昇っていた。
そして目の前に、浅黒くゴツゴツしたブーニン神父の顔が映し出されている。
「寝覚めにあんたの顔見るといい気付けになるな……いろいろ食べたもの吐き出してスッキリできそうだぜ」
「相変わらずの悪態ぶりだな、トンよ」
神父はハーッ、とため息をついてトンに近づけた顔を離す。神父の吐いた息が顔にバッチリかかってトンは本当に吐き気を催した。
ところでよく見ると、神父の顔は幾分かやつれている。酒臭くないので二日酔いというわけではなさそうだ。
酒臭くないのに息が臭いのはどうかと思うが、トンは昨日、もしかしたら神父は娼館に行っていないのかもしれないと思った。
「俺が昨日ここ来たときは誰もいなかったけど、昨日は楽しんだんか?」
それでもトンはカマをかけてみた。
「ちゃうわい。昨日の未明、未確認だが重要な一報が届いてな。昨日は一日中その裏付けのために真教連合の本部に掛け合っていたところじゃよ」
「重要な情報……?」
「ああ。二件ある」
途端に神父が神妙な面持ちになる。八割がギャグみたいな存在のブーニン神父が、こんな表情をするなんて珍しい。
「一つは、国家にとっては朗報だ……しかし、君にとっては必ずしもそうではないかもしれんがな」
「……二つ目は」
「二つ目は……確実に悪い報せだ」
と、不意に。
教会の扉が開いた。
扉はそんなに重くはないはずなのだが、ひどくゆっくりと開いた。
その様はまるで、ここに入ることを躊躇っているような逡巡が読み取れる。
しかし、扉を開けきる瞬間は、はっきり、強く、その意思を示すかのように強かった。
現れたのは、シルビア・ロレンティだった。




