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7.大臣side

「このペースですと、一年では無理でしょう」


 何を? とは問わない。

 ユリア皇后の教育課程であること以外にないのだから。

 

「……今、皇后陛下はどの段階まで進んでいるのか教えてもらっても?」

「全体の十分の一も終わっておりません」


 一年どころか十年経っても修了しない事を理解し、頭を抱えたくなった。

 ユリア皇后は、見目は良い。頗る良い。にも拘わらず「本当に王女か?」と問いたくなる。形容しがたい似(・)非(・)王(・)女(・)だ。高貴な血筋、美貌、その看板に騙された。質の悪い詐欺に引っ掛かった気分だ。


「そこまで出来が悪いとは……」


 嘆きたくなる。

 いや、泣いたところでどうにもならないのだが。

 教育係たち曰く「決して頭が悪いわけではない」……らしい。本当だろうか? 誰がどう見てもバ……んんんっ、お頭(つむ)が少々アレなのでは?


「得意分野、この場合、興味のあること、と言うべきですね。それらに関しては素晴らしいです」


 地頭は決して悪くはない、とのことだ。

 ただし、それは自分が興味のある分野に限ってのこと。

 つまり、興味のない分野はさっぱりだと判明した。


「満遍なく興味を持たれれば、問題ございません」

「……」

「皇后陛下が何にでも興味を惹かれる状況を作りだすことが重要です」

「……」

「それには、周囲の協力が不可欠です」

「……いや、それが一番難しい話なのだが……」

「それでもやらねばなりません」

「……」

「全ては国のためです」

 

 無茶を言われた。

 言っている意味は理解できる。できるのだが、協力となると……。一部の女官や侍女は、ユリア皇后と距離を置いて接している。協力を願い出れば、まあ、仕事と割り切ってやってくれるだろうが……。

 教育係たちが言いたいのはそういうことではないだろう。

 ユリア皇后に対して、親身になって協力してくれる存在を欲しているはずだ。

 難しい——その一言に尽きた。


 ユリア皇后は、気分屋だ。

 しかも、好き嫌いが激しい。

 彼女と話をするだけでも、かなり疲れるのだ。

 黙って立っていれば完璧な皇后なのだが。

 そう、口を開かなければ――喋ると教養のなさを暴露するに等しい行為だ。

 今のところ、皇后の能力の低さを知る者は限られている。

 これは意外なことだが、皇后は立ち回りが上手い。

 計算してやっているのではなく、天然で行動している。

 ある意味恐ろしいが、それが功を奏しているのは確かだ。

 〝皇后〟という雲の上の人物が気さくに話しかけるのを好意的に捉える者は一定数いる。特に男が。「アホか」と言いたいが、あの美貌が全てを覆い隠してくれるようだ。


「少し、考えさせてほしい」


 先延ばしだった。

 現状、ユリア皇后に協力してくれる女官や侍女がいないのだ。

 新人なら、あるいは……。

 どうにかユリア皇后の美貌に惚れ込んでくれる女性を探すほかない。

 若い令嬢ならば……。

 いや、芸術に傾倒している女性ならば……。

 そうして頭をひねっていた間に、ユリア皇后は懐妊した。





「いや、めでたい」

「本当に。まさかこのように早く世継ぎが誕生するとは」

「これで次代は安泰ですな」

「まったく」

「はははは」

「あはははは」

「あははははははは」


 予想外だった。

 いや、いずれ懐妊するとは思っていたが、まさかこんなに早くに身籠るなど……。

 まあ、世継ぎの誕生は早いほうが良い。

 そうだとも。遅いよりはずっと……。

 たとえ皇后らしからぬ振る舞いが多くとも、ユリア様は我が国の皇后陛下だ。

 ハイデスブルク帝国とエウニア王国の結びつきもより強固になる。良いことだ。


「めでたい! 実にめでたい!」


 自分に言い聞かせる。

 周囲の貴族達も同じ考えだろう。


「この良き日に!」

「ハイデスブルク帝国の栄光ある未来に!」

「乾杯!!」

 

 皇帝夫妻を祝福しながらも、乾いた笑みを浮かべていた。

 そうして、数カ月後——


 ユリア皇后は、男児を産んだ。

 ハイデスブルク帝国の未来の皇帝になる皇太子を——

 

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