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5.大臣side

 ハイデスブルク帝国――

 この国の皇后陛下となったユリア様の妃教育が始まった。


「皇后陛下!そうではありませんっ!」

「~~~~っ……もう嫌!」

「嫌ではありません!」

「もう無理! いいじゃない! こんなものできなくたって!」


 状況は最悪の一言に尽きた。

 妃教育として宛がわれた教育係たち。

 彼女たちは超一流の教師だというのに、指導が始まると直ぐに癇癪を起こすユリア皇后。

 皇后陛下のヒステリックな声は毎日のように聞こえてきた。


「あの声を聞くだけで疲れる」

「まったくだ。あの可憐な姿からは考えられない叫び声だ」

「侍女たちも参っているそうだぞ」

「だろうな……」


 他の大臣たちも皇后の奇声を聞いたのだろう。

 噂になっている。

 当然だろう。

 あれを聞けば、「皇后は野生動物か?」と思う。

 可憐な容姿からは想像できないものだ。

 だが、噂を囁きあうのは皇后の奇声を聞いた者たちだ。外には漏れていない。それだけが救いだ。

 もっとも、皇后の実態を外で話したところで……信じる者はいない。「美しさは武器」と聞くが、その通りだ。


「……あれでは、教育係が先に倒れるな」

「既に二人、倒れているぞ」

「ああ、体調を崩して辞めたという話だ」

「皇后陛下の〝気性〟は、帝国の新たな脅威だな」


 冗談めかして言ったつもりだったが、誰も笑わなかった。

 ユリア皇后は、確かに美しい。

 帝国の誰もが息を呑むほどの美貌を持ち、皇帝陛下が心を奪われたのも理解できる。

 だが──

 その内側は、まるで制御不能の嵐だった。


「皇帝陛下は……あのご様子をご存じなのか?」


 大臣の一人が小声で問いかける。


「知ってはおられる。……陛下は皇后陛下を深く愛しておられるせいか、あの奇声も美しい囀りに聞こえるようだ」

「「「……」」」


 その言葉に、周囲の大臣たちは一斉に沈黙した。

 誰も笑わない。

 笑えるはずがなかった。


「恋は盲目、とこのことだな」

「目と耳が腐っているな」

「腐ってはいるが、政務に支障はない」

「我々の目と耳に大打撃をあたえているが?」

「公害の域だろう、あれは」


 そうなのだ。

 打撃を受けているのは、私たちだ。

 皇帝陛下は平気なのかもしれないが……。


「我々が慣れるのが早いか、皇后陛下がまともになられるのが早いか……」

「おい!」

「恐ろしいことを言うな!」

「どう転んでも我々が慣れるのが早いだろう!」


 絶望的なことを言うな。

 現実になったらどうする!

 教育係は、ただでさえ疲弊しきっているというのに!


「皇后陛下もご自分の立場を理解されるはずだ。今は、帝国に慣れていないだけでな……。なに、既に婚姻し終えているのだ……ざんねんなことにな。帝国の皇后陛下……それから逃(・)げ(・)ら(・)れ(・)は(・)し(・)な(・)い(・)」


 皇后としての地位から逃れることは不可能だ。

 いずれ、ユリア皇后陛下もそのことを理解してくださるはずだ。

 まだ若いからこそ、ああなっているだけで……。そう、考えていた。常識的に考えても、皇后の奇行はいずれ止む。逃げる場所がないことに気づいて止めるだろう、と。そうすれば諦めて……いや、覚悟を決めて、勉学に励むだろう……と。

 だが、ユリア皇后は別方向に行動した。

 教師から逃げ出すという手段を採り始めたのだ。




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